相続時精算課税制度とは?暦年課税との比較や節税に役立つケースを紹介

公開日:2024年9月17日

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相続時精算課税制度とは、毎年110万円の基礎控除枠と累計2500万円の特別控除枠が設けられた贈与税の課税方法です。大きな節税につながるように思えますが、贈与したい財産の種類や贈与者の状況によっては暦年課税が適している場合もあります。本記事では、相続時精算課税制度の特徴やメリット、注意点について詳しく解説します。

相続時精算課税制度とは

相続時精算課税制度とは、贈与者1人あたり2500万円を超えた部分に対して一律20%の税率で課税する贈与税の制度のことです。

年110万円の基礎控除があり、贈与者が亡くなったときに贈与財産から基礎控除を差し引いた部分を相続財産に加算して相続税を算出し、すでに支払った贈与税を差し引いて相続税を納税する必要があります。

具体的な制度の特徴やメリット・活用事例について詳しく確認しましょう。

制度の特徴

相続時精算課税制度の特徴は、下記の通りです。

  • 贈与者と受贈者に要件が設けられている
  • 贈与者1人あたりの贈与額2500万円までは贈与税を納める必要がない
  • 基礎控除を除いた贈与財産は相続財産に加算して相続税を納めなければならない
  • 税務署で手続きをしなければ制度を利用できない

そもそも、相続時精算課税制度は、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の推定相続人や孫に対して贈与をする場合にしか活用できない制度です。贈与する年の1月1日時点で、それぞれの年齢に達していなければなりません。

2500万円の特別控除枠が設けられており、2500万円を超えると一律20%の贈与税が課税されます。この2500万円という額は、贈与者1人あたりの額です。たとえば、祖父から2000万円、父から1500万円を贈与された場合、それぞれ2500万円以内の贈与額のため相続時精算課税制度を使えば贈与税は発生しません。

しかし、贈与された財産は、贈与者が死亡した際に相続財産に加算して相続税を計算する必要があります。すでに納めている贈与税があれば相続税から差し引くことが可能です。

以前は、相続時精算課税制度に基礎控除の設定はありませんでしたが、令和6年1月1日より年110万円の基礎控除が設定されました。相続財産に加算する贈与財産から基礎控除額を差し引けるようになったため、税負担が大きく軽減されています。

また、相続時精算課税制度を活用するには、税務署に対して相続時精算課税選択届出書を提出しなければなりません。届出を提出しない限り、贈与税の課税方法は「暦年課税」となるため注意しましょう。

相続時精算課税と暦年課税との違いについては、このあとの章で詳しく解説します。

相続時精算課税のメリットと活用事例

相続時精算課税制度を活用するメリットは、下記の通り3つあります。

  • まとまった財産を一度に贈与できる
  • 将来評価額が上がる財産を贈与すれば相続税の節税対策につながる
  • 相続トラブルの防止に役立つ

相続時精算課税制度の最大のメリットは、2500万円の特別控除です。2500万円までであれば、非課税で1度に大きな財産を子どもや孫に譲れます。

また、所有している財産の評価額が将来的に上がっていくと予測される場合にも相続時精算課税制度は役立ちます。贈与せずにどんどん値上がりしてから相続が発生すると、その分相続税が高くなってしまうからです。相続時精算課税制度を活用していれば贈与時の評価額で課税されるため、節税に貢献するでしょう。

さらに、生きているうちに大きな財産を贈与することで相続トラブルの防止につながります。たとえば、家業を長男に継がせたいと思っているとき、相続時精算課税制度を活用して大きな財産を移転させておけば、長男が家業の経営に困ることはないでしょう。

生前贈与しないまま亡くなってしまうと、他の相続人とも経営に必要な資産を分けなければならず、トラブルに発展したり、家業の継続が難しくなったりする恐れがあります。確実に自分の財産を引き継いでほしい人に所有権を移すために相続時精算課税制度を活用しましょう。

相続時精算課税制度を使って贈与された財産は相続財産に加算して相続税を計算する必要がありますが、そもそも相続財産の合計が基礎控除を下回っているのであれば相続税は発生しません。

自分の財産が相続時に基礎控除を超えないと予測できる場合、その一部を生前に贈与すれば、早期に次世代へ財産を譲り渡せます。

相続時精算課税制度を利用したときの贈与税の計算方法

令和6年1月1日より相続時精算課税制度に創設された基礎控除を含めた贈与税の計算方法は、下記の通りです。

{(その年に贈与を受けた財産の価額の合計額−基礎控除額110万円)−特別控除額2500万円}×20%

特別控除額2500万円は累計額のため、すでに特別控除を適用した金額がある場合には2500万円から適用させた金額を差し引いた残額を控除できます。

たとえば、2000万円の贈与を受けた翌年に1500万円の贈与を受けたとしましょう。このとき、それぞれの贈与税を導き出す計算式は下記の通りです。

<1年目>
贈与税額={(2000万円-110万円)-特別控除額2500万円}×20%=0円

基礎控除・特別控除を差し引いたときにマイナスとなる場合は「0」として計算します。1年目の贈与額は基礎控除・特別控除を超えていないため、贈与税は発生しません。

<2年目>
特別控除の残金=2500-(2000万円-110万円)=610万円
贈与税額={(1500万円-110万円)-特別控除額610万円}×20%=156万円

1年目に使った特別控除枠があるため、2年目に利用できる特別控除枠の残金を計算する必要があります。

参照:令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし|国税庁

相続時精算課税と暦年課税の比較

贈与税の加算方法は、相続時精算課税と暦年課税から選ぶことができます。1度相続時精算課税を選ぶと暦年課税に戻すことはできないため、十分な検討が必要です。

相続時精算課税と暦年課税の比較を確認しましょう。

<贈与者と受贈者の要件>

  • 相続時精算課税:贈与をする1月1日時点で、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の推定相続人および孫への贈与に限る
  • 暦年課税:誰から誰への贈与でもよい

<非課税枠>

  • 相続時精算課税:贈与者ごとに、基礎控除額が年間110万円、特別控除額が累計2500万円
  • 暦年課税:受贈者ごとに基礎控除年間110万円

<課税率>

  • 相続時精算課税:一律20%
  • 暦年課税:贈与額によって10〜55%

<利用するための手続き>

  • 相続時精算課税:税務署に相続時精算課税選択届出書を提出する
  • 暦年課税:手続きは不要

<贈与者が死亡したときの贈与財産の扱い>

  • 相続時精算課税:基礎控除額である毎年110万円を除いた贈与額すべてを贈与時の評価額で相続財産に加算して相続税額を算出する。
  • 暦年課税:相続開始前7年に受けた贈与財産から基礎控除額である毎年110万円を除いた贈与額を相続財産に加算して相続税額を算出する。ただし、相続開始前4〜7年間に贈与された財産の価額については、総額100万円まで加算されない。

<利用の制限>

  • 相続時精算課税:一度選択すると相続時まで継続
  • 暦年課税:相続時精算課税を選択すると使用できない

<贈与税の申告義務>

  • 相続時精算課税:相続時精算課税を適用させている人からの贈与額が基礎控除枠を超えた場合にのみ申告が必要
  • 暦年課税:贈与を受けた額の合計が基礎控除枠を超えた場合にのみ申告が必要

贈与額や財産の種類によって、どちらが適切な課税方法か見極める必要があります。

暦年課税と併用することはできない

暦年贈与とは、年間110万円までの贈与であれば贈与税が発生しない制度です。

基礎控除額の110万円を超えた贈与額に対して、贈与税を納税しなければなりません。110万円までであれば非課税で財産を譲り渡せることから、相続税対策にも活用されます。

暦年課税と相続時精算課税は併用することができず、手続きをしなければ暦年課税が採用されます。1度相続時精算課税を選択すると、暦年課税に戻すことはできません。

「暦年贈与」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

相続時精算課税制度が向いているケース

相続時精算課税制度の活用が向いているケースは、下記の通りです。

  • 短期間で大きな資産を譲り渡したい
  • 将来値上がりすると予想される財産がある
  • 収益をもたらす不動産を贈与したい

順番に確認しましょう。

短期間で大きな資産を譲り渡したい

相続時精算課税制度で設定されている特別控除枠は2500万円と大きいため、一度に大きな資産を譲りたい時に最適です。控除額2500万円を超えたとしても、贈与税の税率は一律20%と決まっています。

暦年贈与だと累進課税で、最大55%の税率が課税されます。暦年贈与と比較すると、税負担を軽減できるでしょう。

将来値上がりすると予想される財産がある

将来的に値上がりが予想される財産を持っている方は、相続時清算課税制度で贈与することをおすすめします。なぜなら、相続時に相続財産として加算されるときに、贈与した時点での評価額で相続税額が算出されるからです。

都市開発計画が決まっているエリアの土地や値上がりが期待される株、知名度が上がってきた作家の作品など、相続発生時に財産の評価額が高騰していれば相続税の金額が跳ね上がってしまいます。

相続時よりも現時点での評価額が低いのであれば、相続時精算課税制度を活用して相続税節税に役立てましょう。

収益をもたらす不動産を贈与したい

家賃や宿泊料など、収益をもたらす不動産を持っている場合は、相続時清算課税制度を活用しましょう。

収益をもたらす不動産を生前贈与すると、不動産から発生する収益は贈与された受贈者の収入になります。贈与しないまま相続が発生すると、不動産価値に加えて不動産がもたらした収益すべてが相続財産に含まれるため、相続税の負担が大きくなる可能性があります。

相続時に財産を持っていなければその分相続人らにかかる相続税は低くなるため、相続税節税に役立ちます。

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暦年課税が向いているケース

一方、暦年課税が向いているケースは、下記の通りです。

  • 相続発生までに時間的余裕がある
  • 推定相続人以外に贈与したい
  • 複数人に贈与して相続税対策をしたい

順番に確認しましょう。

相続発生までに時間的余裕がある

贈与者が年齢的に若く、相続発生までに時間的余裕があるのであれば、暦年課税で生前贈与すると節税効果が期待できます。

暦年贈与をすると、相続発生から遡って7年間に贈与した財産は相続財産に持ち戻されてしまいます。時間的余裕がない方が暦年課税で贈与しても生前贈与加算されてしまうため節税効果は実感できないでしょう。

若いうちからコツコツと基礎控除内に収まる範囲で贈与し続ければ、税金をかけずに資産を次世代に譲り渡すことが可能です。

推定相続人以外に贈与したい

推定相続人以外に贈与したいときは、暦年課税が向いています。たとえば、同居している息子の妻や、内縁の妻・夫、孫などです。法定相続人以外が贈与された財産は、相続財産の持ち戻しの対象外だからです。

そもそも、相続時精算課税制度は、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の推定相続人および孫への贈与に限られます。子どもや孫以外に財産を譲りたい場合は、暦年課税で贈与するしか資産を譲り渡す方法はありません。

複数人に贈与して相続税対策をしたい

複数人に贈与して相続税対策をしたい場合は、暦年課税がおすすめです。

暦年贈与は、贈与を受けた者に対して年間110万円の基礎控除が設定されています。贈与者が贈与する額に対しての制限は設けられていないため、同時に複数人へ110万円以内の贈与をすれば、短期間で相続税対策ができます。

たとえば、配偶者・子ども2人・孫4人の合計7人に対して110万円ずつ贈与すると年間770万円の財産を譲り渡すことができ、毎年770万円ずつ相続財産を減らすことが可能です。

相続時精算課税制度の手続き方法

相続時精算課税制度の手続き方法のイメージ

暦年課税と比べて相続時精算課税制度の方が適していると判断した方向けに、相続時精算課税制度を利用するための手続き方法について下記の順番に解説します。

  • 相続時精算課税制度の手続きの流れ
  • 相続時精算課税制度の手続きで必要な書類

順番に確認しましょう。

相続時精算課税制度の手続きの流れ

相続時精算課税制度の利用を開始する際、初めて贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日の間に受贈者の住所地を管轄する税務署へ相続時精算課税選択届出書を提出する必要があります。手続きは贈与者ではなく、受贈者が行います。

贈与を受けた最初の年の贈与額が基礎控除の110万円以下で贈与税の申告が不要な場合でも、期限までに書類を提出しなければなりません。受理されれば、相続時精算課税制度の利用が認められます。

相続時精算課税制度の手続きで必要な書類

相続時精算課税制度の利用を開始する際、税務署に提出しなければならない書類は下記の通りです。

  • 相続時精算課税選択届出書
  • 受贈者の戸籍の謄本または抄本

相続時精算課税選択届出書は、「国税庁の公式サイト」からダウンロードが可能です。

参照:No.4304 相続時精算課税選択届出書に添付する書類|国税庁

相続時精算課税制度の注意点・知っておきたいこと

相続時精算課税制度の利用を開始するまえに知っておきたい項目について、解説します。相続時精算課税制度の注意点・知っておきたいことは、下記の通りです。

  • 暦年課税制度には戻れない
  • 小規模宅地等の特例が適用されない
  • 申告時期・期限に注意
  • 基礎控除により計算が複雑に
  • 相続時精算課税制度を利用しても相続放棄は可能
  • 相続税の申告までに災害被害を受けた場合は再評価となる

順番に確認し、相続時精算課税制度の選択を後悔しないようにしましょう。

暦年課税制度には戻れない

税務署に相続時精算課税選択届出書を提出すると、撤回することはできません。つまり、暦年課税制度に戻ることはできないため注意しましょう。

相続時精算課税制度の利用を申請する前に、十分な検討が必要です。

小規模宅地等の特例が適用されない

相続によって取得した土地に対して適用できる「小規模宅地等の特例」は、相続時精算課税制度によって贈与された土地には適用されないため注意しましょう。

特例の対象となる土地を贈与することで、かえって税負担が重くなる可能性があります。前述の通り、相続時精算課税制度を適用させると撤回できないため、税対策に適しているかどうかを見極めたうえで制度を利用しましょう。

申告時期・期限に注意

相続時精算課税制度を利用している際、贈与税の申告時期や期限に注意しましょう。

税制改正以前は、相続時精算課税制度を利用していると少額であっても贈与税の申告が必要でした。しかし、税制改正後は毎年設定されている基礎控除額110万円を上回った場合にのみ申告義務が発生します。

申告義務が発生する場合、申告・納税の期限は贈与を行った翌年の2月1日から3月15日までの間に申告をしなければなりません。初めて相続時精算課税制度による贈与を受け取った場合は、相続時精算課税選択届出書も同様の期間に提出する必要があります。

基礎控除により計算が複雑に

令和6年1月1日の贈与から適用される基礎控除によって、贈与税や相続税の計算が複雑になりました。贈与税額の計算方法については前述の通りです。ここでは相続税の計算時に相続財産に加算される金額の算出方法について詳しく確認しましょう。

贈与者が死亡したときの相続税の対象となる額は、下記の通り計算します。

相続税の課税額=(年間贈与額-110万円)の合計

仮に、相続時精算課税制度を利用して父から息子へ以下のように贈与が行われていたとしましょう。

  • 1年目:500万円
  • 2年目:600万円
  • 3年目:300万円
  • 4年目:100万円
  • 5年目:200万円

このときの相続税の課税額は、それぞれの贈与額から110万円を上回る部分を合計した1160万円です。

相続財産と相続税の課税対象である贈与財産の合計が相続税の基礎控除額を上回るとき、相続税が発生するため注意しましょう。

相続時精算課税制度を利用しても相続放棄は可能

相続時精算課税制度で贈与を受けていた方であっても、相続発生後に相続放棄することが可能です。ただし、生前に受け取った贈与財産にかかる相続税は課税されます。相続放棄したからといって相続税が免除されるわけではないため注意しましょう。

もちろん、贈与財産を含めた相続財産の総額が基礎控除額を下回っていれば、相続税の納税義務は発生しません。

相続税の申告までに災害被害を受けた場合は再評価となる

相続時精算課税制度を利用して贈与を受けた土地や建物が令和6年1月1日以降に災害被害を受けた場合、相続時に再評価を行って相続税額を算出できる可能性があります。

原則として、相続税の課税対象となる贈与財産額は、贈与時の評価額が採用されます。しかし、一定の災害被害を被った場合には土地や建物の評価が著しく低下することを考慮して、再評価するといった例外が付け加えられました。

相続時精算課税制度の利用前に専門家に相談しよう

大きな財産を生前に引き継ぎたい場合に相続時精算課税制度は向いています。さらに令和6年1月1日から相続時精算課税制度に年間110万円の基礎控除が設けられ、より相続精算課税制度のメリットが感じられやすくなっています。

しかし、相続時精算課税制度を1度適用させると暦年課税制度に戻ることができません。相続時精算課税制度の手続きや税額計算も複雑になるため、どちらが適切なのかを十分に判断する必要があります。

相続税や贈与税の節税対策をしたい方は1人で判断せずに、相続・贈与に詳しい専門家に相談することをおすすめします。専門家からのアドバイスを聞き、後悔しない選択をしましょう。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年9月17日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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