遺贈寄付とは、自分の遺産のすべて、または一部を遺言によって公益団体やNPO団体などへ寄付する行為のことです。死亡後に行う寄付であることから、人生最後の社会貢献と呼ばれています。本記事では、遺贈寄付への関心が高まっている背景や遺贈寄付をするメリットについて解説します。具体的に遺贈寄付をするときの流れを解説するため、参考にしてください。
遺贈寄付とは
遺贈寄付とは、遺贈によって自分の遺産を公益団体やNPO団体などへ寄附する行為です。
そもそも遺贈とは、遺言によって相続財産の全部または一部を法定相続人または法定相続人以外の人や団体などに無償で譲り渡すことを指します。一般的に、公益法人やNPO法人、学校法人、国立大学法人、行政団体などの団体・機関に遺贈することを遺贈寄付と呼びます。
遺贈寄付を行う目的の多くは、「社会貢献活動に役立てたい」「よりよい未来のためにお金を使ってほしい」というものです。遺贈寄付は人生最後の社会貢献とも呼ばれ、世界的に見ても珍しいことではありません。
ここでは、遺贈寄付について理解を深めるために下記のポイントについて詳しく解説します。
- 遺贈寄付への関心が高まっている
- 遺贈寄付の例
詳しく確認しましょう。
遺贈寄付への関心が高まっている
近年、日本でも遺贈寄付への関心が高まっています。その背景として、高齢社会化や生涯未婚率の上昇などが考えられます。
寄付への関心は、年齢が高くなればなるほど高まると言われています。結婚や子育てなど生活に必要な費用が落ち着き、定年を迎えたタイミングで社会貢献に関心を持つ方は少なくありません。
事実、内閣府から発表された「2022 年度(令和4年度)市民の社会貢献に関する実態調査報告書」に掲載されている「ボランティア活動経験の有無」「寄付経験の有無」を年代別に見ると、年齢が高くなるにつれ経験がある方の割合が増加する傾向となっています。
年代 | ボランティア経験がある割合 | 寄付経験がある割合 |
---|---|---|
20〜29歳 | 14.9% | 18.2% |
30〜39歳 | 14.1% | 29.4% |
40〜49歳 | 15.9% | 37.6% |
50〜59歳 | 15.4% | 39.4% |
60〜69歳 | 20.3% | 40.6% |
70歳以上 | 21.1% | 38.4% |
高齢者人口が増えている日本において、遺贈寄付をしたいと考える方が増加することは自然な現象と言えるでしょう。
また、核家族社会が進んだことによって「必ずしも家族や親戚に遺産を残さなくてもよい」という考えや、そもそも生涯独身・子なし夫婦などで「遺産を引き継いでほしい子孫がいない」という方も増えています。
事実、平成30年における日本財団の調査では、60歳以上の5人に1人が遺贈に関心があると判明しました。
このような背景から、日本における遺贈寄付への関心が高まっています。
参照:2022 年度(令和4年度)市民の社会貢献に関する実態調査報告書|内閣府/遺贈に関する意識調査|日本財団
遺贈寄付の例
遺贈寄付でよくある寄付先には、下記のようなジャンルがあります。
- 子どもサポート(貧困家庭における教育支援・子どもの難病支援、奨学金)
- 障害者サポート(就労支援・芸術支援・スポーツ支援)
- 震災の緊急支援・災害復興支援
- 開発途上国への支援(医療・教育・技術支援)
- 伝統文化の保護
もっと身近な遺贈寄付もあります。たとえば、下記のような団体へ遺贈寄付する事例は少なくありません。
- 母校(中学校・高等学校・大学)
- お世話になった病院・介護施設
- 出生地や長年暮らした地域の地方自治体
たとえば、「お世話になった大学に新たな施設を建設する」「所有している不動産を地方自治体で活用してほしい」なども遺贈寄付に該当します。
遺贈寄付のメリット
遺贈寄付を行うメリットは、主に3つあります。
- 自分の意思で財産の使い道を決めることができる
- 税金でのメリットがある
- 死後に余った額だけで寄付することができる
詳しく確認し、前向きに遺贈寄付の検討を進めましょう。
自分の意思で財産の使い道を決めることができる
遺贈寄付をすれば、自分が築き上げた財産の使い道を自分の意思で決めることができます。「お世話になった地域社会に貢献したい」「貧しい子どもを助けたい」など、さまざまな目的のために財産を使うことが可能です。
通常、遺言を残さなければ残された遺産は法定相続人が引き継ぎます。法定相続人がいなければ、すべての遺産は国庫に入ります。いずれにしても、財産の使い道は遺産を承継する側の意思によって決まることとなり、被相続人本人の意思は反映されません。
遺言で遺贈寄付先を特定の活動に取り組む団体に指定すれば、遺産の使い方を指定することにつながります。
税金でのメリットがある
遺贈寄付をすると、遺贈した人と遺贈を受けた人(受遺者)の両方に税制メリットがあります。
まず、遺贈した方の準確定申告時に、所得税の寄附金控除を適用できます。準確定申告とは、1月1日から死亡した日までの所得金額と税額を確定させることです。所得税の寄附金控除を適用させられる寄付先には条件があり、税制優遇団体である場合に限られます。
また、遺贈によって受遺者が取得した遺産は原則相続税の課税対象となりますが、受遺者が法人である場合、相続税は課税されません。法人と聞くと民間企業をイメージされるかもしれませんが、一般財団法人や一般社団法人、認定を受けていないNPO法人なども該当します。
ただし、寄付を受けたのが個人の場合や法人格を持っていない団体の場合、原則として相続税が課税される点に注意が必要です。
死後に余った額だけで寄付することができる
遺贈寄付は死後に行われるため、生前の生活費や医療費などを心配する必要がありません。最悪、死亡時点で相続財産がゼロになったとしても問題はなく、老後資金を心配することなく安定した暮らしができます。
なぜなら、遺贈寄付は契約行為でなく、「かならず遺贈する」「300万円の寄付をする」といった決まりはないからです。
遺贈寄付は自分が残せる範囲の財産を寄付する仕組みとなっているため、寄付する方は経済的負担を感じずに社会貢献することができます。
遺贈寄付の流れ
遺贈寄付をするためには、下記の6つのステップを踏む必要があります。
- 遺贈寄付先の団体や寄付する財産を決める
- 遺言書を作成・保管する
- 自分が亡くなったら遺言執行者に連絡する人を決める
- 遺言執行者に死亡の事実が知らされる
- 遺言執行者が遺贈寄付を行う
- 遺贈寄付先の団体から領収書を受け取る
詳しく見ていきましょう。
1.遺贈寄付先の団体や寄付する財産を決める
まず、どの団体・機関に遺贈寄付をするのかを決める必要があります。いままでお世話になった団体や興味のある社会課題に取り組んでいる団体など、選択する基準は人それぞれです。
また、遺贈寄付には下記の2種類の方法があり、どちらの方法で遺贈寄付するか決める必要があります。
- 特定遺贈:不動産や金銭などを指定して遺贈寄付する(例:現金300万円を寄付する)
- 包括遺贈:財産の割合のみを指定して遺贈寄付する(例:相続財産のすべてを寄付する)
どこにどの財産をどれほど寄付するかを決めたら、寄付したい団体・機関にも相談することをおすすめします。なかには寄付を拒否される場合もあるため、いくつか寄付先の候補を決めておくとスムーズです。
2.遺言書を作成・保管する
遺贈寄付の内容が決まったら、遺言書に内容を残しましょう。遺言書の作成にあたって、遺言執行者を決めておくことをおすすめします。遺言執行者とは、遺言者の意思を実現するために手続きを行う人のことです。
遺言執行者は遺言書で指定します。一般的に、専門家や信頼できる親族・知人などが選ばれます。
遺言書の作成にあたっては、相続に強い弁護士や司法書士などの専門家に相談しましょう。遺言書の種類や遺言内容、保管方法など、最適な選択肢を提示してくれます。
3.自分が亡くなったら遺言執行者に連絡する人を決める
遺言書の保管方法を決めたら、遺言者が亡くなった事実を遺言執行者に連絡する人を決めましょう。相続が発生した事実が伝わらなければ、遺贈寄付をふくめた遺言内容は実行されません。
確実に遺言が実行されるように、配偶者や子どもに「自分が亡くなったら、遺言書を託している遺言執行者の〇〇さんへ連絡をしてほしい」などと伝えておきましょう。
4.遺言執行者に死亡の事実が知らされる
遺言者が亡くなったら、遺言執行者へ死亡の事実を身近な方から伝えてもらいます。この連絡によって、遺言執行者としての任務が開始します。
5.遺言執行者が遺贈寄付を行う
通知を受けた遺言執行者は、すべての相続人と遺言書で指定された寄付先に対して遺言執行者に就任したことの通知を行い、遺言書の写しを送付します。
遺言執行者は遺言に書かれた内容を1つずつ実行していき、遺言書で指定された寄付先へ指定された通りに遺贈寄付を行います。
6.遺贈寄付先の団体から領収書を受け取る
遺贈寄付が実行されると、遺贈寄付先の団体・機関から遺言執行者に対して領収書が送付されます。領収書は準確定申告時に使われるほか、他の相続人に対して寄付をした証明として活用されます。
遺贈寄付の注意点
遺贈寄付をしようと考えている方に向けて、知っておきたい注意点を3つご紹介します。
- 有効な遺言書を作成する
- 遺留分の侵害に注意する
- みなし譲渡所得税の負担者を決めておく
順番に確認し、ご自身の意思が反映されるよう対策しておきましょう。
有効な遺言書を作成する
遺贈寄付を行うためには、遺言書を作成しなければなりません。しかし、作成した遺言書が法的に有効でない場合や遺言執行してもらえない場合、あなたの意思が反映されない可能性があります。
遺言書は法律で定められたルールに従って作成しなければならず、エンディングノートや口頭での伝言では遺贈寄付は実行できません。たとえば自筆証書遺言であれば、全文自筆でなければならない、印鑑がおされているなどのルールが1つでも守られていなければ法的に無効であるとみなされます。
法的に有効な遺言書を残すためには、専門家に遺言内容を相談したうえで公正証書遺言を作成することをおすすめします。
また、有効な遺言書を残したとしても、寄付先団体にとって不要なものや負担が大きい財産は受け取ってもらえないかもしれません。このような結果とならないよう、遺言書を作成する前に寄付先の団体・機関に寄付内容を相談するようにしましょう。
さらに、確実に遺言内容を実行してもらうために、専門家を遺言執行者に指定しておくことをおすすめします。
遺留分の侵害に注意する
遺留分の侵害には十分注意しましょう。遺留分とは、配偶者や子ども、両親などの法定相続人に定められた最低限の遺産の取り分です。たとえば、法定相続人が配偶者のみだった場合、遺産の2分の1は遺留分として受け取ることができます。
遺留分を侵害する遺言内容であっても法的には認められます。しかし、遺留分を侵害された法定相続人は、遺留分侵害額を請求することが可能です。トラブルを防ぐために、法定相続人の遺留分に配慮した遺贈寄付をおこないましょう。
また、遺留分を侵害しない配分にするだけでなく、残された家族や相続人の心情にも寄り添う必要があります。遺言者の死後、初めて遺贈寄付の意思があると知ると、驚かせてしまいます。
生前に遺贈寄付の意思があることや、その目的・理由を伝えておき、納得してもらうと円滑に相続手続きが進められるでしょう。
みなし譲渡所得税の負担者を決めておく
みなし譲渡課税とは、現金以外の財産を遺贈する際に取得時から時価が高くなっている場合の差額分に対して課税される税金です。不動産や有価証券などの財産を無償または著しく低い価格で譲り受けた場合に発生します。
遺産が遺贈寄付されたとしても、みなし譲渡所得の納税義務が法定相続人に受け継がれます。トラブルの原因になりかねないため、みなし譲渡所得税が誰に負担してもらうのか、どこから差し引くのかを遺言書に明記しておくようにしましょう。
遺贈寄付は人生最後の社会貢献
日本においても、公益団体への遺贈寄付に関心を寄せる方が増加傾向にあります。その背景として、子どもや身近な親戚がいないこと、社会貢献への関心が高まる高齢者の数が増えていることが挙げられます。
遺贈寄付をするには法的効力を持つ遺言書を作成し、遺言を執行してもらわなければなりません。人生最後の社会貢献を実現するためにも、正しい遺言書の書き方や保管方法を専門家に相談することをおすすめします。
また、遺贈寄付をすることに対して生前に家族や親族に理解を求めることも必要です。スムーズに相続や遺贈寄付を進めるためにも、相続・遺贈に強い専門家の知恵を借りましょう。