遺言書を法務局で預かってもらえる!自筆証書遺言書保管制度とは?

公開日:2024年9月9日

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「確実に遺言書を残したいけどあまり費用をかけたくない」そのような方におすすめなのが法務局で遺言書を預かってくれる自筆証書遺言書保管制度です。自筆証書遺言書保管制度なら遺言の保管だけでなく、相続人への通知などのメリットもあります。この記事では、自筆証書遺言書保管制度の概要や手続きの流れ・注意点などをわかりやすく解説します。

遺言書を確実に遺したいなら公正証書遺言か自筆証書遺言書保管制度

相続の仕方は遺言書が優先されます。そのため、希望の相続を実現するには遺言書が有効な手段となります。しかし、遺言書を作成しても紛失などで希望が反映されない恐れもあるので、遺言書について正しく理解しておくことが重要です。

遺言書の種類と特徴

一口に遺言書といっても以下の3つの種類に分かれ、それぞれ特徴が異なります。

  • 自筆証書遺言
  • 公正証書遺言
  • 秘密証書遺言

自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、遺言者自身が作成した遺言書です。自分だけで作成・修正が自由にできるので、気軽に作成できるだけでなく他の人に遺言書を作ったことを知られないというメリットもあります。
また、自筆証書遺言は費用を掛けずに作成できる点もメリットといえるでしょう。

しかし、遺言書の要件を満たしていなければ無効になるリスクがあり、さらには死後に改ざんや隠されるリスクもあるでしょう。そもそも自分で保管するため、存在や場所を伝えていないと死後に見つけてもらえない恐れもあります。

公正証書遺言

公正証書遺言は、公証人に作成してもらう遺言書です。公証役場で公証人のもと作成し、作成した後は原本が公証役場で保管されます。

公証人が法に基づいて作成するため、遺言書の形式を満たさずに無効となることはありません。
また、原本が公証役場に保管されるので、紛失や改ざんといったリスクも防げます。

しかし、公正証書遺言を作成するには費用がかかり、公証人を用意する必要もあります。財産資料といった必要書類の提出や複数回公証役場に出向くなど、手間と時間がかかる点にも注意が必要です。

秘密証書遺言

秘密証書遺言とは、自分で作成した遺言書の存在を公証役場で証明してもらった遺言書です。

存在を公証役場で証明してもらえるので、「遺言書がある」ということを証明することが可能です。作成自体は自分で行うので、公証人に遺言書の内容を知られないという点もメリットといえるでしょう。

しかし、内容のチェックを受けるわけではないため形式を満たさずに無効になるリスクはあります。原本は自身で保管することになるため、自筆証書遺言書同様、紛失や改ざんのリスクがある点にも注意が必要です。

「遺言書」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

紛失や改ざんを防ぐためには

せっかく遺言書を作成しても、死後に見つけてもらえなければ意味がありません。なかには、相続人が自分に有利なように改ざんするリスクもあるでしょう。希望の相続を実現するには、紛失や改ざんのリスクを防ぐことも重要になってくるのです。

紛失や改ざんを防ぐには、以下の方法が有効的です。

  • 公正証書遺言を作成
  • 自筆証書遺言書保管制度を利用
  • 遺言信託を利用

信託銀行などで遺言書の作成・保管・執行をサポートしてもらう遺言信託でも確実に遺言を残せますが、費用が高額になることから利用者はあまり多くはありません。
一般的には、公正証書遺言か自筆証書遺言書保管制度を利用する人が多いでしょう。

なかでも、自筆証書遺言書保管制度は、簡単・安価という特徴から利用者が増えています。令和2年7月にスタートした新しい制度にもかかわらず、令和6年6月までの約4年間でその利用者は累計77108人にものぼります。

自筆証書遺言書保管制度は、自筆証書遺言の手軽さというメリットを活かしつつ、紛失や改ざんのデメリットを解消できる制度です。
これから遺言書を検討している方にとって有効な選択肢のひとつとなるため、概要や利用方法を押さえておくとよいでしょう。

参考:遺言書保管制度の利用状況|法務省民事局

自筆証書遺言書保管制度とは

自筆証書遺言書保管制度とは、令和2年7月10日にスタートした遺言書を法務局で保管してもらえる制度です。

制度の概要

この制度では自筆証書遺言を作成した本人が法務局に申請することで、法務局で原本と遺言書の画像データが保管されます。

原本であれば遺言者の死後50年間、画像データは150年間という長期間適切に保管されるため、紛失リスクの軽減が可能です。遺言者が亡くなった際には、指定した相続人に遺言書が保管されている旨が通知されるので見つけてもらえないリスクも防げます。

被相続人の死後、相続人は法務局で遺言書を閲覧・証明書の交付請求ができます。さらに、相続人の誰かが証明書を交付されると、その旨が他の相続人に通知されるため、相続人に故意に遺言書を隠される・偽造されるリスクも防げるのです。

ちなみに、自筆証書遺言書保管制度は「遺言書」と書いて「いごんしょ」と法的な呼び方をするので覚えておくとよいでしょう。

メリット・デメリット

自筆証書遺言書保管制度は、自筆証書遺言のメリットを活かしつつ、デメリット部分を解消した制度といえます。とはいえ、いくつかのデメリットがあるので、メリット・デメリット両方を理解しておくことが重要です。

メリット

メリットとしては、以下のようなことが挙げられます。

  • 遺言書の形式をチェックしてもらえる
  • 紛失や改ざんのリスクを防げる
  • 死亡時に遺言書の存在が通知される
  • 遺言書の検認手続きが不要

法務局に預ける際に遺言書の形式ルールを満たしているかのチェックを受けられるため、無効になるリスクを防げます。また、原本と画像データが法務局で保管されるので、偽造や紛失のリスクも防げるでしょう。

遺言書の種類のうち、自筆証書遺言と秘密証書遺言は見つけてもすぐに開封できません。開封するためには家庭裁判所の検認が必要になるのですが、自筆証書遺言書保管制度を利用している場合は、この検認が不要です。

相続開始後に相続人の手間を省けスムーズに手続きに進める点も、メリットといえるでしょう。

デメリット

デメリットとしては以下のようなことが挙げられます。

  • 内容まではチェックしてもらえない
  • 遺言作成者本人が手続きする必要がある
  • 制度のルールに従った遺言書を作成しなければならない

自筆証書遺言書保管制度では、形式的なチェックは受けられますが内容のチェックや相談は受け付けていません。法的には有効でも遺言書の内容によっては相続トラブルに発展する可能性はあるため、遺言については専門家に相談することをおすすめします。

また、この制度を利用するには遺言書作成者本人が法務局で手続きしなければなりません。入院中や高齢などで出向くのが難しい場合でも、家族などに手続きを依頼できない点には注意しましょう。

さらに、制度を利用するには制度のルールに従った遺言書を作成する必要があります。自筆証書遺言であればどんな形式でも利用できるわけではない点にも注意が必要です。

自筆証書遺言書保管制度の手続きの流れ・必要書類・費用

自筆証書遺言書保管制度の手続きの流れ・必要書類・費用のイメージ

ここでは、自筆証書遺言書保管制度の手続きの流れ・必要書類・費用を解説します。

手続きの流れ

自筆証書遺言書保管制度を利用する大まかな流れは以下の通りです。

  • 遺言書の作成
  • 必要書類の準備
  • 法務局に申請予約
  • 法務局で申請手続き
  • 保管証の受取

遺言書の作成

まずは、自身で遺言書を作成する必要があります。遺言書は、作成日・遺言者を自筆するなどの民法上の遺言書のルールだけでなく、以下のような制度を活用する際のルールを守って作成するようにしましょう。

  • A4サイズの用紙で片面に記載
  • 上部5mm・下部10mm・左20mm・右5mm以上の余白を設ける
  • 各ページにページ番号を記載
  • ホチキスなどでとめない

上記のようなルールを満たしていない場合、書き直しなどを指示されます。法務局のホームページには、テンプレートや記載例が用意されているので、事前に確認するとよいでしょう。

必要書類の準備

申請書などの必要書類を用意します。必要書類については、後ほど詳しく解説するので参考にしてください。

法務局に申請予約

申請には事前に予約が必要です。申請する法務局を選んで予約手続きを行いましょう。

申請できる法務局は以下のいずれかです。

  • 遺言者の住所地を管轄する法務局
  • 遺言者の本籍地を管轄する法務局
  • 遺言者の所有不動産を管轄する法務局

なお、遺言書を保管できる法務局は正式には「遺言保管所」と呼ばれます。遺言保管所は法務局のホームページで確認できるので、事前に確認するとよいでしょう。

申請する法務局を決めたら、法務局の予約専用サイトや電話・窓口で予約を行います。

法務局で申請手続き

予約した日時にあわせ、法務局に作成した遺言書と必要書類を持参し手続きを行います。手続きの際には手数料の支払も必要になるので、事前に用意しましょう。

手数料については、後ほど詳しく解説するので参考にしてください。

保管証の受取

申請後の確認で問題がなければ手続き完了です。手続き完了後は、窓口で「保管証」が交付されるので受け取ります。

保管証には、以下のような内容が記載されています。

  • 遺言者の氏名
  • 出生の年月日
  • 手続きを行った法務局
  • 保管番号

保管番号が分かっていると、遺言書の閲覧や撤回時などでスムーズに手続きできます。家族に遺言書について伝える際には、保管番号の写しなどを渡しておくとよいでしょう。

なお、保管証は紛失しても再発行してもらえないため大切に保管することが大切です。

必要書類

制度を利用する際の必要書類は、以下の通りです。

  • 作成した遺言書
  • 保管申請書
  • 住民票の写しなど本籍および筆頭者の記載が入ったもの
  • 顔写真付きの身分証明書

保管申請書は法務局のホームページからダウンロードできます。また、身分証明書は運転免許証やマイナンバーカードなど、官公庁から発行されたものが有効です。

期限のある身分証の場合は、有効期限内であることも確認しましょう。遺言書を外国語で作成した場合は、日本語の翻訳文の貼付も必要です。

費用

制度を利用する際には、手数料として遺言書1通に付き3900円が必要になります。手数料は収入印紙での納付となるため、法務局の販売窓口や事前に郵便局などで購入しておきましょう。

また、閲覧時には別途以下のような費用が必要です。

  • 遺言書の閲覧(モニター):1回につき1400円
  • 遺言書の閲覧の請求(原本):1回につき1700円

なお、遺言者本人が保管の申請の撤回・住所変更などを行う際は手数料はかかりません。

自筆証書遺言書保管制度を利用する際の注意点

自筆証書遺言書保管制度を利用する際には、以下の点には注意しましょう。

  • 遺言内容の助言・審査はできない
  • 本人が必ず法務局に出頭する
  • 遺言書を保管できる法務局は限られている
  • 自筆証書遺言書保管制度ならではの様式ルールもある

遺言内容の助言・審査はできない

申請時に窓口で形式的なチェックは受けられますが、遺言内容についてのチェックやアドバイスを受けることはできません。また、形式的に問題なくても法的に有効であるかは別です。たとえば、遺言書に記載されている不動産情報が誤っていたとしても、形式的に問題なければこの制度は利用できます。

制度を利用できる=法的に有効・相続トラブルが起きない、というわけではない点には注意が必要です。作成に不安がある、相続トラブルが起きないか心配など内容の相談をしたい場合は、専門家に相談しましょう。

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本人が必ず法務局に出頭する

この制度を利用するには、遺言作成者本人が法務局で手続きする必要があり、代理人では手続きできません。病気などでどうしても出頭できない場合は、公証人に出張で来てもらえる公正証書遺言を検討するとよいでしょう。

遺言書を保管できる法務局は限られている

申請できる法務局はどこでもいいわけではありません。以下のいずれかになるため、事前にどこに申請すべきかを決めておくことが大切です。

  • 遺言者の住所地を管轄する法務局
  • 遺言者の本籍地を管轄する法務局
  • 遺言者の所有不動産を管轄する法務局

自筆証書遺言書保管制度ならではの様式ルールもある

前述の通り、自筆証書遺言書保管制度を利用する際には民法上の遺言書のルールだけでなく、制度を利用する際の様式ルールを満たす必要があります。様式ルールでは、用紙サイズや余白などが細かく規定されているので、確認したうえで作成するようにしましょう。

(相続人向け)相続開始後の流れ

相続開始後、相続人は法務局で遺言書があるかを確認する「遺言書保管事実証明書の交付請求」をすることになります。この請求では保管されているかどうか・保管されている場合はどこの法務局なのかを確認可能です。

請求によって遺言書が保管されている場合は、さらに遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の交付請求を行い、遺言内容を確認します。遺言書の内容を確認したら、遺言内容に従って相続していきます。

また、相続人がこの制度を利用していることを知らない場合でも、以下のような通知により遺言書の存在を知ることが可能です。

  • 指定者通知:死亡時にあらかじめ指定した人に遺言書が保管されている旨を通知
  • 関係遺言書保管通知:保管されている遺言の閲覧や証明書の交付時に他の相続人に保管の旨を通知

指定者通知では、申請時にあらかじめ指定していた人に対して遺言書が保管されている旨が通知されます。なお、制度開始時は指定できる人数は1名でしたが、令和5年10月から3名まで通知が可能となっています。

これによって、遺言書を保管している旨を相続人に伝えていなくても遺言書を見つけてもらえる可能性がより高くなります。

ただし、通知先に指定した人であっても相続人または遺言書に記載された人以外であれば遺言書の閲覧ができません。誰に通知するのかは、しっかりと検討したうえで指定することが大切です。

繰り返しになりますが、この制度を利用しても、遺言内容が法的に有効で相続トラブルが起きないという保証はありません。遺言内容によっては相続トラブルに発展する可能性も十分あるため、トラブルを避けるための遺言書の作成や、トラブルになった場合は専門家への相談をおすすめします。

トラブルのない遺言書のために専門家へ相談を

ここまで、自筆証書遺言書保管制度の手続きや注意点などを解説しました。法務局で自筆証書遺言を預かってくれるこの制度であれば、自筆証書遺言の手軽さを活かしつつ、紛失や改ざんのリスクを低減でき、より確実に遺言書を残すことが可能です。

ただし、この制度を活用しても遺言書の内容が法的に有効で相続トラブルが起きないというわけではありません。スムーズかつ満足いく相続にしたいなら、制度を活用する前に遺言書の内容を専門家に相談することをおすすめします。

記事の著者紹介

逆瀬川勇造(ライター)

【プロフィール】

金融機関・不動産会社での勤務経験を経て2018年よりライターとして独立。2020年に合同会社7pockets設立。前職時代には不動産取引の経験から、相続関連の課題にも数多く直面し、それらの経験から得た知識など分かりやすく解説。

【資格】

宅建士/AFP/FP2級技能士/相続管理士

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年9月9日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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