遺言書は撤回できる?撤回方法や撤回する際の注意点

公開日:2024年8月19日

遺言書は撤回できる?撤回方法や撤回する際の注意点_サムネイル

「遺言書を作成したけど撤回したい」遺言書は一度作成したら変更できないわけではなく、いつでも撤回・修正が可能です。しかし、撤回方法を間違ってしまうと、撤回が無効になるなどの恐れがあるため正しい撤回方法を理解しておく必要があります。この記事では、遺言書の撤回方法やその注意点などを分かりやすく解説します。

遺言の撤回は可能

遺言の撤回とは、遺言者の意志によって遺言の全部または一部を遺言を行わなかった状態に戻すことです。民法では、遺言の撤回を以下のように認めています。

遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。※引用:民法|第1022条(遺言の撤回)

そもそも遺言とは、被相続人の財産に関する最終の意思表示を法的に認めるものです。死亡する瞬間に意思表示をすることは極めて難しく、そのため生前作成する遺言書を被相続人の最終意思として認めています。

遺言は被相続人の意思であり、意思は不変ではありません。したがって、遺言書も作成後に意思に応じて自由に撤回することが認められているのです。

遺言書を作成してから時間が経てば、財産の状況や相続人との関係性も変わってくるでしょう。たとえば、遺言書を作成した後に離婚する・子どもが生まれるなどの変化は珍しくありません。財産を相続させようと思っていた人との関係性が悪化するケースもあるものです。

遺言書の撤回には期限はなく、特別な理由も必要ありません。一度作成したとしてもその時の状況に応じて撤回し、新たに遺言書を作成することで死後に自分の意志をより正確に反映できるのです。

もっともわざわざ撤回しなくても以下のような場合は、撤回したとみなされます。

  • 前の遺言書と内容の抵触する部分
  • 遺言に抵触する生前処分
  • 遺言者による故意の遺言書の破棄
  • 遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄

上記のような撤回を撤回擬制と呼び、遺言者による撤回の意思表示がなくても一定の事実があることで遺言が撤回(法定撤回)されたとみなされるのです。

撤回擬制で撤回となる場合でも、撤回した遺言の効力が回復することはありません。ただし、撤回が詐欺や脅迫など遺言者の意志と異なる場合は、遺言としての効力が回復します。遺言を撤回する意志がない場合でも、上記の行為で撤回とみなされる場合があるので注意しましょう。

遺言すべてを撤回する方法

遺言には、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類がありますが、どの種類であっても撤回可能です。さらに、撤回前の遺言書と撤回後新たに作成する遺言書の種類が異なっても、前の遺言書の撤回は有効となります。ただし、遺言書の種類によっては正しい撤回方法でなければ撤回の効力が発揮できない場合があるので、正しい撤回方法を覚えておくことが大切です。

遺言すべてを撤回する方法には、以下の4つがあります。

  • 撤回する旨の遺言書を作成する
  • 新しい遺言書を作成する
  • 遺言書を破棄する(自筆証書遺言・秘密証書遺言)
  • 撤回の申述をする(公正証書遺言)

撤回する旨の遺言書を作成する

「遺言書を撤回する」という旨の遺言書を新たに作成すれば、前の遺言書は撤回されます。これは、前に作成した遺言書が公正証書遺言や秘密証書遺言で、撤回する旨の遺言が自筆証書遺言であっても撤回可能です。

ただし、撤回する旨を口頭やメモ書き程度で意思表示しても撤回にはなりません。撤回する旨の遺言書であっても、遺言書の書式を満たさなければならない点は注意しましょう。

新しい遺言書を作成する

遺言書は新しい日付が優先されるというルールがあります。そのため、前の遺言書よりも新しい日付で遺言書を作成すれば、新しい遺言書が有効となり前の遺言書は無効となります。この場合、新しく作成する遺言書に「前の遺言書を撤回する旨」の記載は不要です。

また、撤回する旨の遺言同様、前の遺言書と種類が異なっていても新しい日付の遺言書が有効となります。自筆証書遺言よりも公正証書遺言の方が優先されそうですが、遺言書の種類による優劣はなく日付が判断基準となるのです。

遺言書を破棄する(自筆証書遺言・秘密証書遺言)

自身で保管している遺言書を破棄することでも撤回とみなされます。シュレッダーにかける・燃やすなど完全に復元できないように物理的に破棄してしまうだけなので、撤回する遺言書を作成するよりも簡単に撤回できます。

ただし、この方法が選択できるのは遺言書が手元にある場合のみです。自筆証書遺言・秘密証書遺言であれば、原本が手元にあるため破棄による撤回が可能です。しかし、公正証書遺言は原本は公証役場にあり手元にあるのは謄本のため、謄本を破棄しても遺言の撤回とはなりません。

公正証書遺言の場合は、撤回する遺言・新しい遺言、または次に紹介する方法で破棄することになります。

「自筆証書遺言」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

撤回の申述をする(公正証書遺言)

公正証書遺言を撤回する方法として、公証役場に撤回の申述をする方法があります。撤回の申述では、公正証書遺言を作成したとき同様に証人2名の立ち合いのもと、公証人に遺言書を撤回する旨を申述する方法です。

撤回の申述をすることで、公正証書遺言は無かったことになります。なお、撤回の申述をするには、実印と印鑑証明・手数料として11000円必要です。撤回だけでなく新たに公正証書遺言を作成する場合は、撤回の手数料ではなく作成の手数料が必要になります。

公正証書遺言は、自筆証書遺言で撤回の旨の遺言書や新たな遺言書を作成することでも撤回可能です。しかし、自筆証書遺言は紛失のリスクがあるため、原本が公正役場に残ったままでは撤回の遺言が発見されないおそれがあります。

公正証書遺言を撤回する場合は、撤回の申述をするか、新たに公正証書遺言を作成することをおすすめします。

「公正証書遺言」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

遺言すべてを撤回する場合の文例

遺言をすべて撤回する場合の文例は、以下の通りです。

遺言書

遺言者は、○○年○月○日付で作成した自筆証書遺言をすべて撤回する。

作成日:○○年○月○日
住所:××県●●市△△町◯丁目□□番地
名前:〇〇

作成するうえで、押さえておきたいポイントとして以下の2つがあります。

  • 撤回する遺言を明確にする
  • 遺言のどの部分を撤回するか明確にする

撤回する遺言書の種類や作成日、公正証書遺言であれば番号なども明記して、撤回する遺言がどれなのかを明らかにします。また、遺言の撤回はすべてだけでなく一部撤回も可能です。そのため、すべて撤回するなら「すべて撤回する」というように、どこの部分を撤回するのかも明確にする必要があります。

一部撤回や修正・訂正する方法については、次の章で解説するので参考にしてください。

遺言の一部のみを撤回または修正・訂正する方法

遺言の一部のみを撤回または修正・訂正する方法のイメージ

遺言は、一部のみを撤回することや撤回ではなく修正・訂正することも可能です。ここでは、「一部撤回」と「修正・訂正」の方法を解説します。

遺言の一部のみを撤回したい場合

一部のみ撤回する場合は、撤回の旨の遺言に撤回する部分を明記することで撤回が可能です。

たとえば、「『長男Aに不動産を相続させる』の部分を撤回する」というように、具体的にどの部分を撤回するかを明記します。さらに、内容を変更する場合は、修正後の内容も以下のように併記します。「『長男Aに不動産Cを相続させる』の部分を撤回し、次男Bに不動産Cを相続させると改める」

また、同時に「その余の部分はすべて上記自筆証書遺言記載の通りとする」というように他の部分が前の遺言書のままでいい旨も明記しておきましょう。

修正・訂正したい場合

軽微な内容の変更であれば新たに遺言書を作成するのではなく、作成した遺言書への修正・訂正でも有効です。この場合は、該当箇所に二重線で消し、修正後の内容を記入します。

訂正した部分には、作成時に使用した印鑑で押印が必要です。また、修正箇所について修正部分近くや欄外・遺言書の末尾に「○○行目○○削除・○○加筆」「○○条について○○を○○に訂正した」など訂正箇所を付記したうえで署名します。

訂正ルールは厳密に決められているので、無効にならないようにルールに従って訂正することが大切です。

「遺言書の書き方」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

撤回前の遺言書の管理について

遺言書のすべてを撤回して新しく作成する場合、前の遺言書は破棄することをおすすめします。遺言書が複数ある場合、日付が新しいものが有効とはなりますが、以前のものが残っていると混乱が生じかねません。

自筆証書遺言の場合、新しく作成したものが見つからない恐れもあるでしょう。混乱を避けるためにも、常に新しく作成したもののみ残し、古いものは破棄することが大切です。また、一部撤回の場合は、前の遺言書の撤回した箇所以外は有効なため、前の遺言書と新しい遺言書を合わせて保管しておく必要があります。

なお、公正証書遺言の場合は原本は公正役場に保管されているため、自分での管理は不要です。

遺言書を撤回する際に知っておきたいこと・注意点

遺言書の撤回は正しい方法でなければ撤回できない恐れがあるため、押さえておくべきポイントがいくつかあります。

ここでは、遺言書を撤回する際に知っておきたいこと・注意点として以下を解説します。

  • 撤回の撤回はできない
  • 撤回後の遺言書が無効だと前の遺言書が有効になる
  • 自筆証書遺言書保管制度で法務局に預けている場合の対応
  • 撤回後の遺言書が見つからないリスクがある

撤回を撤回できない

遺言書の撤回は可能ですが、撤回したことを撤回はできません。「前の遺言書の撤回した遺言書を撤回する」と遺言しても、前の遺言書は有効にならないので注意しましょう。一度撤回した遺言書を有効にするには、同じ内容・新しい日付で新たに遺言書を作成する必要があります。

撤回後の遺言書が無効だと前の遺言書が有効になる

撤回する旨の遺言書や新しく作成した遺言書が形式を満たさず無効となる場合、前の遺言書が有効のままです。特に、前の遺言書が公正証書遺言で自筆証書遺言で撤回する場合に、自筆証書遺言が要件をみなさないリスクが高くなります。

撤回が無効にならないためには、撤回する遺言について専門家のチェックを受けることをおすすめします。

自筆証書遺言書保管制度で法務局に預けている場合の対応

自筆証書遺言書保管制度とは、令和2年にスタートした自筆証書遺言の保管制度です。この制度では、自筆証書遺言とその画像データが法務局に保管され、死亡時には指定した相続人に保管している旨が通知されます。また、保管申請時に遺言書の外形的なチェックも受けられるので、無効になるリスクも抑えられるというメリットもあるのです。

自筆証書遺言書保管制度を利用する場合、原本は法務局に保管されるため破棄して撤回することはできません。撤回する場合は、撤回する遺言書や新しく遺言書を作る必要があります。

なお、自筆証書遺言書保管制度であっても、保管申請の撤回を申し出ることで原本を返還してもらうことはできます。返還後に原本を破棄すれば、遺言の撤回が可能です。保管の申請の撤回は特別な理由は必要なく・いつでも申し出ることが可能ですが、本人が法務局に出向く必要がある点は注意しましょう。

撤回後の遺言書が見つからないリスクがある

遺言書はそもそも発見してもらえないと死後に自分の意志を反映してもらえません。仮に、作成した遺言書を撤回する場合でも、撤回前の遺言書のみ発見され撤回後の遺言書が発見されなければ前の遺言書の内容で相続が執行されてしまいます。

発見されないリスクを避けるために、公正証書遺言や自筆証書遺言書保管制度を利用することをおすすします。また、遺言書の内容を相続人に明らかにする必要はありませんが、遺言があることは伝えておくことも大切です。

遺言を撤回するなら弁護士に相談を

遺言書は一度作成した後でも、いつでも・なんどでも撤回や訂正・修正が可能です。しかし、撤回や訂正方法にはルールがあり、正しく撤回しなければ撤回前の遺言が有効になってしまいます。

撤回が無効になると、希望の相続を実現できないだけでなく相続トラブルに発展する恐れもあるでしょう。確実に撤回して希望の相続を実現させるためには、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

遺言についてお困りの方へ_専門家をさがす

記事の著者紹介

逆瀬川勇造(ライター)

【プロフィール】

金融機関・不動産会社での勤務経験を経て2018年よりライターとして独立。2020年に合同会社7pockets設立。前職時代には不動産取引の経験から、相続関連の課題にも数多く直面し、それらの経験から得た知識など分かりやすく解説。

【資格】

宅建士/AFP/FP2級技能士/相続管理士

専門家をさがす

専門家に相談するのイメージ

本記事の内容は、記事執筆日(2024年8月19日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

記事をシェアする