遺言書で遺留分が侵害されていた場合はどうする?遺留分の計算方法や注意点

公開日:2024年7月17日

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「他人にすべて相続させる遺言があるから何も相続できない?」遺言書で自分以外にすべて相続させる旨が残されていても、遺留分によって一定財産を相続できます。この記事では、遺留分の計算や注意点、また遺留分でトラブルにならない遺言書のための注意点について分かりやすく解説します。

遺言書によって遺留分が侵害されていた場合どうなる?

遺留分を侵害する旨の遺言書であっても遺言書としては有効です。しかし、遺言書よりも遺留分が優先されるため、侵害された分については遺留分侵害額請求できます。ただし、遺留分侵害額請求するかどうかは、侵害された相続人の判断しだいとなり、請求しないことも可能です。

遺留分とは

遺留分とは、相続人の生活を守るために一定の範囲の相続人に最低限保証されている遺産の割合のことです。もし、遺言書で相続人のうちの誰かや相続人以外にすべての財産を譲ると遺されていると、他の相続人は何も相続できなくなってしまいます。しかし、それでは配偶者などは家から追い出されて生活できなくなる恐れもあるでしょう。

そのような事態から相続人を守るためにあるのが遺留分です。

遺留分は遺言書よりも優先され、遺言であっても遺留分を侵害できません。そのため、たとえ愛人にすべての財産を残すという遺言書があっても、一定の範囲の相続人であれば遺留分を主張することで相続財産に応じた金銭を取得できるのです。

ただし、すべての相続人に遺留分が認められているわけではありません。遺留分が認められているのは、兄弟姉妹以外の法定相続人です。

つまり、配偶者と子・孫などの直系卑属、父母・祖父母の直系尊属のうち相続権を持つ人に遺留分が認められます。反対に、兄弟姉妹やその代襲相続人である甥・姪は法定相続人である場合でも、遺留分は認められないのです。また、遺留分の割合は相続人によって以下のように変わってくるので注意しましょう。

相続人の組み合わせ遺留分の合計(総体的遺留分)各人の遺留分(個人的遺留分)
配偶者のみ2分の1配偶者:2分の1
子どものみ2分の1子ども:2分の1
配偶者と子ども2分の1配偶者:4分の1
子ども:4分の1
配偶者と両親2分の1配偶者:3分の1
両親:6分の1
両親のみ3分の1両親:3分の1

「遺留分」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

遺留分を侵害しやすい遺言の例

遺言書で遺留分を侵害しやすいケースには、以下のようなものがあります。

  • 長男にすべてや大半の遺産を相続させる
  • 愛人などの第三者にすべて相続させる
  • 嫌いな相続人には相続させない
  • 不動産しか相続財産がないなか特定の相続人1人に不動産を相続させる

相続人が複数人いるなか、そのうち1人にすべての財産や大半の財産を相続させる遺言書は他の相続人の遺留分を侵害します。相続人以外でも、愛人のように第三者にすべて相続させるケースも少なくありません。

特定の誰かに相続させるのとは反対に、特定の相続人の相続分を少なくする遺言もあります。生前関係性が良くなかったなどで、気に入らない相続人に相続させないように遺言を残す場合でも、その相続人の遺留分が侵害されているとなるのです。

また、相続財産が実家のみのように財産の大半が不動産というケースで、1人がその不動産を相続してしまうと、他の相続人の遺留分を侵害する可能性があるので注意しましょう。

上記のような不公平な内容の遺言書であっても、遺言書に不備がなければ原則遺言書は有効です。そのため、まずは、いったん遺言書の内容に従って相続することになります。その後、遺留分を侵害されている相続人は、遺留分侵害額請求することになります。

遺留分侵害額請求とは

遺留分侵害額請求とは、侵害された遺留分の返還を要求することです。遺留分を侵害された法定相続人は、遺留分を取り戻す権利である「遺留分侵害額請求権」を行使することで侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを求められます。

以前は遺留分減殺請求と呼ばれていましたが、2019年の法改正によって遺留分侵害額請求となり請求方法なども変わっているため、手続きなどを理解しておくことが大切です。以下では、遺留分の計算方法や請求手続きなどを詳しく解説していきます。

遺言で遺留分が侵害されている場合の遺留分の計算方法と例

ここでは、遺留分の計算方法と具体例を見ていきましょう。

遺留分の計算方法

遺留分は、以下の3つのステップで計算します。

  1. 遺留分の対象となる財産の計算
  2. 遺留分の割合の計算
  3. 遺留分額の計算

遺留分の対象となる財産は、以下の通りです。

  • 相続財産(マイナスの財産を差し引いた分)
  • 相続開始前1年以内の生前贈与
  • 相続開始前10年以内の特別受益
  • 遺留分を侵害することを分かったうえで行われた贈与
  • 遺留分権利者に損害を与えることが分かったうえで不当な対価で行われた有償処分

相続開始時点の相続財産だけでなく、一定の生前贈与なども遺留分の対象となります。これらの対象となる財産からマイナスの財産を差し引いた分が遺留分を計算する基礎となる財産です。

遺留分を計算する基礎の財産額が分かったら、遺留分の割合を乗じることで遺留分額が算出できます。遺留分の割合は、全体の遺留分(総体的遺留分)を明らかにしてから、個別の遺留分を計算して算出するという手順です。

総体的遺留分は、誰が相続人かによって以下のように異なります。

  • 原則:2分の1
  • 父母や祖父母(直系尊属)のみが相続人の場合:3分の1
  • 兄弟姉妹・甥姪のみが相続人:なし

それぞれの相続人の個別の遺留分割合は、以下の計算で求められます。

個別の遺留分割合=総体的遺留分×法定相続分

たとえば、相続人が配偶者と子どもの場合、それぞれの法定相続割合は2分の1なので、それぞれの個別の遺留分割合は、2分の1×2分の1=4分の1となります。また、子どもが2人というように複数いる場合は、それぞれの個別の遺留分割合を人数で按分します。仮に、上記で子どもが2名の場合は、4分の1を2人で分けるのでそれぞれ8分の1です。

上記で算出した遺留分額から実際に相続した額を差し引いた分を、遺留分侵害額請求できます。

遺留分の計算例

以下の条件で遺留分を計算してみましょう。

  • 遺留分対象の財産額:6000万円
  • 相続人:配偶者・子ども2人(A・B)
  • 実際の相続額:配偶者1000万円、子どもA5000万円、子どもB0円

配偶者と子ども2人の個別の遺留分割合は以下の通りです。

  • 配偶者:4分の1
  • 子ども2名:それぞれ8分の1

よって、それぞれの遺留分の額は以下の通りです。

  • 配偶者:6000万円×4分の1=1500万円
  • 子ども:6000万円×8分の1=750万円

そのため、配偶者は1500万円-1000万円=500万円、子どもBは750万円-0円=750万円を子どもAに請求することが可能です。

遺留分を侵害する遺言がある場合の対応方法

遺言で遺留分の侵害があった場合、侵害された相続人の対応方法には以下の3つの選択肢があります。

  • 遺留分侵害額請求を行う
  • 遺言無効を主張
  • 何もしない

遺留分侵害額請求を行う

遺留分の計算の結果、自分の遺留分が侵害されていることが分かったら遺留分侵害額請求が可能です。

遺留分侵害額請求を行う場合、以下のような手順で進めてきます。

  • 相手方との交渉
  • 相手方への遺留分侵害額請求の通知
  • 調停
  • 訴訟

まずは、遺留分を侵害している相手方との話し合いで解決を目指しましょう。話し合いに合意できたら、話し合いの結果は合意書として作成しておくことが大切です。話し合いでは解決できない場合、遺留分侵害額請求する旨を通知します。

通知の方法は口頭でも有効ですが、後々トラブルにならないように内容証明郵便を利用することをおすすめします。通知後に、相手方と返還額や返済期限などを話し合っていきます。

話し合いに合意できたなら、合意書として作成しておきましょう。

話し合いではまとまらない場合、調停・訴訟を検討することになります。相手方の住所を管轄する家庭裁判所に、調停の申し立てを行い裁判官などのサポートを得ながら話し合いを進めていきます。

調停でも解決できない場合、裁判所に判断してもらう訴訟で解決を目指すことになります。訴訟を申し立てる場合、請求額が140万円以下なら簡易裁判所、140万円超えなら地方裁判所に申し立てる点には注意しましょう。最終判断の内容は裁判所の裁量によりますが、訴訟で合意することで遺留分侵害額請求は完了となります。

遺言無効を主張

遺留分侵害額請求を行う場合、不公平な内容の遺言であっても遺言自体は有効です。そのため、遺留分以上の財産を取得することはできません。

遺言無効を主張することで、遺言書が無効となり公平な相続が期待できます。ただし、遺言無効の主張は容易に認められるものではありません。

一般的には、以下のようなケースで認められます。

  • 遺言書が形式を満たしていない
  • 遺言書の内容が不明確
  • 遺言書の偽装
  • 遺言能力がない状態で書かれている遺言

遺言内容が不公平・遺留分を侵害されているという理由では、無効は認められないので注意しましょう。

何もしない

遺留分を侵害されている場合でも、侵害されて問題ないのであれば何もしないという選択も可能です。

  • 遺産がなくても生活が成り立っている
  • 生前十分な援助を受けた
  • 他の相続人との良好な関係を優先したい
  • 母親など別の相続人に財産を渡したい

上記のような理由で遺留分侵害額請求しないケースは珍しくありません。請求するかどうかかは侵害された人の判断次第であり、強制ではありません。遺留分侵害額請求することで、少なからず相手方との関係性が悪化する恐れもあるため慎重に判断することが重要です。

遺留分を侵害する遺言がある場合の注意点

遺留分を侵害する遺言がある場合の注意点のイメージ

遺留分を侵害する遺言がある場合の注意点として、以下の6つが挙げられます。

  • 遺留分侵害額請求の時効に注意
  • 財産そのものが返還されるわけではない
  • 不動産評価でトラブルになりやすい
  • 遺留分を請求できないケースもある
  • 遺留分を受け取ると相続税がかかる可能性がある
  • 遺留分の支払いを無視すると裁判を起こさる可能性がある

それぞれ詳しくみていきましょう。

遺留分侵害額請求の時効に注意

遺留分侵害額請求には、「時効期間」「除斥期間」という2つの時効があります。

  • 時効期間:遺留分を侵害されていることがあった日から1年以内
  • 除斥期間:相続開始から10年

つまり、遺留分の侵害があったことを知っている場合は知った時から1年以内に権利を行使しなければ時効となってしまいます。さらに、遺留分の侵害があったことを知らない場合でも、相続開始から10年を超えていると権利が消滅してしまうのです。

遺留分侵害額請求の時効は、請求することでストップできます。しかし、口頭では後々証明しにくくなるため、記録の残る内容証明郵便が適しています。

財産そのものが返還されるわけではない

遺留分侵害額請求を行った場合でも、返還されるのは財産そのものではなく侵害額相当の金銭です。たとえば、不動産の相続で遺留分侵害があった場合、請求しても不動産そのものは返ってきません。

ただし、侵害している人との交渉によっては金銭の代わりに不動産を返還してもらうことも可能です。この場合でも、不動産を共有名義にすると後々トラブルになる恐れがあるので、できるだけ共有名義にはならない方法を検討することをおすすめします。

不動産評価でトラブルになりやすい

遺留分を計算するうえでは、不動産の評価額を巡ってトラブルになりやすいので注意が必要です。財産に不動産が含まれる場合、不動産の評価額は相続時点の時価で行われます。

しかし、評価方法には複数の方法があるため不動産評価を高くしたい遺留分を侵害された側と、不動産評価を低くしたい侵害した側では主張の対立が起こりやすいのです。当事者の話し合いで決まらない場合は、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

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「不動産相続のトラブル」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

遺留分を請求できないケースもある

遺留分は兄弟姉妹・甥姪には請求権がありません。また、それ以外の法定相続人であっても、以下に該当する人は遺留分の請求ができないので注意しましょう。

  • 相続欠格者
  • 相続廃除者
  • 相続放棄した人

犯罪を犯した・遺言を偽装したなどの欠格事由に該当し、相続人の資格をはく奪された人は遺留分の請求はできません。また、被相続人の生前中に被相続人から相続廃除されている人も同様です。自らの意志で相続放棄した場合も、そもそも相続人出ないとされるため遺留分も認められないのです。

遺留分を受け取ると相続税がかかる可能性がある

遺留分侵害額請求の結果、金銭での返還を受けると相続税が課せられる可能性があります。ただし、遺留分の清算が相続税納税前か後では対応が異なるので注意しましょう。遺留分を受け取ったのが相続税の納税前であれば、遺留分の清算後の遺産受取状況に応じた相続税額を遺留分を支払った人・受け取った人がそれぞれ支払います。

一方、相続税の支払い後に遺留分の清算が行われた場合、相続税の支払いが発生するかは遺留分を支払った側が更正の請求するかによって変わってきます。更正の請求とは、税金を支払いすぎた場合に還付を受け取るための手続きです。遺留分を支払った側は、遺留分の支払いによって本来であれば相続税額が減少するため更正の請求が可能です。

そのため、遺留分を支払った側が更正の請求を行った場合は、遺留分を受け取った側は相続税の修正申告または期限後申告を行って、相続税を支払う必要があります。しかし、更正の請求を行わない場合、すでに相続税が納められていることになるので、受け取った側は納税が発生しないのです。

なお、相続税が発生するかは相続財産額によって異なります。相続税が発生しないケースでは、遺留分の支払いや受取で相続税が新たに発生することはありません。また、遺留分侵害額請求が解決する前に納税期限が来るケースでは、遺留分をもらう前の状態で暫定的に相続税を申告する必要がある点にも注意しましょう。

「相続税」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

遺留分の支払いを無視すると裁判を起こさる可能性がある

遺留分は請求する側になるだけでなく、請求される側になる可能性もあります。もし、遺留分を請求されてしまった場合、請求の無視は避けるようにしましょう。

請求を無視していても相手が請求を取り下げることは基本的になく、無視を続けていると裁判を起こされる可能性が高くなります。請求を受けた場合は、まずは請求が妥当なものかを判断し適切に対応するようにしましょう。

遺留分の計算は不動産が含まれる場合など複雑になるものです。また、相手方との交渉も必要になるため、請求された場合は速やかに弁護士に相談することをおすすめします。

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遺留分でトラブルにならないために遺言書を書く人が気をつけること

遺留分の侵害があると、相続トラブルに発展しやすくなります。

遺留分を巡るトラブルにならないためにも、遺言書を作成する際には以下のようなポイントに気を付けておくことが重要です。

  • 遺留分を放棄してもらう
  • 相続財産を減らして遺留分額を減らす
  • 遺言書にメッセージを残す
  • 弁護士を遺言執行人にしておく

遺留分を放棄してもらう

遺留分は放棄が可能です。遺留分をあらかじめ放棄しておくことで相続時にトラブルを避けやすくなります。ただし、遺留分の放棄は相続人の意思で決めることであり強制はできません。

また、遺留分の放棄手続きは、被相続人の生前・死後では異なる点にも注意しましょう。

相続財産を減らして遺留分額を減らす

生前中に相続財産を減らしておけば、遺留分の額を減らすことが可能です。相続させたくない相手がいるという場合は、事前に相続財産を減らしておくのもひとつの手でしょう。ただし、生前贈与を活用する場合は、期間によっては遺留分に贈与した財産が加算されるので注意が必要です。

遺言書にメッセージを残す

遺言書に、円満に相続してもらいたい旨をメッセージで残しておく方法もあります。遺言書には付加事項として、相続人に対するメッセージを記載することが可能です。

メッセージ自体には法的な効力はありませんが、真摯にお願いすることで相続人の心情が変わる可能性もあるでしょう。

弁護士を遺言執行人にしておく

遺言執行人とは、遺言を実現するための手続きを行う人です。遺言執行人を相続人の誰かにしてしまうと、不公平な遺言でトラブルが起きやすくなります。弁護士を指定しておくことで、プロの冷静な意見を受けて相続人も納得しやすくなるでしょう。

そもそも、遺留分でトラブルにならにならないように遺留分を考慮して遺言を作成することも大切です。遺言書作成の段階から弁護士に相談しておくことで、希望の遺言内容で円満な相続を目指しやすくなるでしょう。

遺言書で遺留分が侵害されているなら弁護士に相談を

ここまで、遺留分の計算方法や注意点などを解説しました。遺留分が認められている法定相続人であれば、遺言書で遺留分を侵害されていても取り戻すことが可能です。しかし、遺留分は計算方法が複雑になりやすく、相続人同士の話し合いで解決するのも難しい問題です。

また、時効もあるので早い段階で対応を進めていく必要もあります。遺留分の侵害が分かったら、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

記事の著者紹介

逆瀬川勇造(ライター)

【プロフィール】

金融機関・不動産会社での勤務経験を経て2018年よりライターとして独立。2020年に合同会社7pockets設立。前職時代には不動産取引の経験から、相続関連の課題にも数多く直面し、それらの経験から得た知識など分かりやすく解説。

【資格】

宅建士/AFP/FP2級技能士/相続管理士

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年7月17日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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