遺言信託とは?利用にかかる費用やメリットデメリット、手続きの流れを解説

公開日:2024年7月9日

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遺言書を作成するなら遺言信託を利用した方がいいかとお悩みではありませんか。遺言信託とは金融機関が遺言書の作成サポートから保管、執行までを一連で行ってくれるサービスです。本記事では、遺言信託のサービス概要やメリット・デメリット、費用感について解説します。遺言信託を利用しようか悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。

遺言信託とは

遺言信託とは、銀行や証券会社などの金融機関が遺言書の作成を支援し、保管・遺言執行まで一連で行ってくれるサービスです。

金融機関が提供する遺言信託には、具体的に以下のようなサービスが含まれます。

  • 遺言内容のアドバイス
  • 遺言書作成支援
  • 遺産の調査・財産目録の作成
  • 遺言書の保管
  • 遺言執行(遺言書の内容を実現するための手続き)
  • 資産活用のアドバイス

遺言書を作成するには、遺言者本人が持っている財産額や想定される相続税額、法律上で定められている財産配分について調査・理解しておく必要があります。

しかし、いざ遺言書を作成しようと思っても、「何を書くべきかわからない」「作成ルールが理解できていない」という方は少なくありません。懇意にしている金融機関で遺言書の作成支援から保管、遺言執行を任せたい場合に活用できます。

遺言信託のメリット・デメリット

遺言信託を活用するメリットとデメリットについて、詳しく確認しましょう。

遺言信託を活用するメリット

遺言信託を活用するメリットは、主に3つあります。

  • 遺言書作成から執行まで一連でサポートが受けられる
  • 資産運用のアドバイスが受けられる
  • 法人である安心感が得られる

遺言信託を利用すると、遺言書作成にあたっての準備から作成後の保管、死後の遺言執行までを一任できます。自分が亡くなったあとの手続きを安心して任せられ、家族の負担を大幅に軽減できるでしょう。

また、現在持っている資産の活用についての提案も受けられます。土地活用や資産の組み替えなど、金融機関ならではのアドバイスが期待できます。

さらに、個人に遺言書の保管や遺言執行を依頼するときと比べて、法人に依頼する方が将来的に安心感があるでしょう。依頼した個人が自分より先に亡くなってしまい、遺言書の行方が分からなくなったり、改めて遺言執行者を指定する必要が出てきたりすることも否定できません。

法人である金融機関であれば、安心して依頼できます。

遺言信託を活用するデメリット

遺言信託を活用するデメリットは、主に3つあります。

  • 公正証書遺言にしか対応していない
  • 身分上の行為は受託してもらえない
  • トラブルになる可能性のある遺言内容は断られる

原則、遺言信託では公正証書遺言の作成・保管にしか対応していません。つまり、遺言者本人が自筆で作成する自筆証書遺言や秘密証書遺言の作成サポートや保管はしてもらえないため注意しましょう。

また、子どもの認知や相続人の排除など、身分上の行為については遺言執行してもらえません。遺言書で身分上の行為を指定したい場合は、ほかの遺言執行者を指定する必要があります。

さらに、遺言内容によっては受託を断られるケースがあるようです。トラブルのリスクのある遺言内容である場合やすでに親族同士でトラブルを抱えている場合は、受け付けてもらえない可能性があります。トラブル解決にあたって、弁護士に依頼する必要が出てくるでしょう。

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遺言信託の利用を検討した方がよいケース・しなくてもよいケース

遺言信託の利用を検討した方がよいケース・しなくてもよいケースのイメージ

遺言信託を活用するメリット・デメリットを踏まえ、遺言信託の利用を検討した方がよいケース・しなくてもよいケースをそれぞれご紹介します。

遺言信託の利用を検討した方がよいケース

遺言信託の利用を検討した方がよいケースは、以下の通りです。

  • 懇意にしている金融機関がある
  • 資産運用と終活をまとめて相談したい

事業や資産運用を通じて、すでに懇意にしている金融機関があるのであれば遺言書や相続に関してもまとめて相談にのってもらうとよいでしょう。いつもの担当者が相談にのってくれます。

相談だけであれば無料で受け付けている金融機関も多く、気になることだけを解決するために活用しても問題ありません。

遺言信託の利用を検討しなくてもよいケース

特別懇意にしている金融機関がない場合、遺言信託の利用を検討しなくてもよいでしょう。なぜなら、遺言書作成に関しては、弁護士などの専門家のほうがあらゆる遺言に対応してくれるからです。

特に、以下のようなケースでは遺言信託よりも専門家に依頼することをおすすめします。

  • 公正証書遺言以外の形式も検討したい
  • 遺産分割以外の身分上の行為を委任したい
  • 相続トラブルに備えたい

遺言信託では公正証書遺言以外の形式の作成・保管に対応しておらず、遺言における身分上の行為を受託してくれません。初めから法律に詳しい専門家に依頼するほうが効率的です。

また、相続トラブルが想定されるのであれば弁護士に遺言書作成サポートや遺言執行を依頼しましょう。法に詳しい弁護士がアドバイスすることで、遺言書によるトラブルを最大限回避できるからです。万が一、遺言者の死後に相続人同士が揉めた場合にも、頼りにできます。

一般的な利用の流れ

遺言信託を利用する場合、以下の流れに沿ってサービスを受けられます。

  1. 遺言内容についての相談
  2. 公正証書遺言の作成
  3. 遺言信託の申し込み
  4. 相続開始の通知
  5. 遺言書内容と遺言執行者就任の通知
  6. 財産目録の作成
  7. 遺言執行

7つのステップごとに、どのようなことを行うのか確認しましょう。

1.遺言内容における相談

遺言書を作成するにあたって、以下のような相談を金融機関に対して行います。

  • どのような遺言内容を残したいか
  • 相続人や受遺者は誰か
  • 遺産の内容はどのようなものか

また、生前贈与や土地活用などの遺産承継・資産運用に関する相談にものってもらえます。気になることがあれば質問し、抱えている悩みや疑問を解決しましょう。

2.公正証書遺言の作成

遺言内容の相談を経て、遺言内容を決定します。その内容に基づいて公正証書遺言を作成します。

公正証書遺言を作成するためには、遺言者本人が自分で公正役場へ申し込みを行い、事前打ち合わせを経て決まった日時に証人2名以上と一緒に公正役場へ出向かなければなりません。

証人がいない場合、相談している金融機関の職員が証人として立ち会ってくれる場合があります。

3.遺言信託の申し込み

公正証書遺言を作成したら、金融機関と遺言信託契約を交わします。申し込み時に必要な書類は、以下の通りです。

  • 申込書
  • 公正証書遺言の正本(公証役場で受け取ります)
  • 財産目録(相続財産明細)
  • 預貯金・有価証券などに関する資料
  • 不動産登記事項証明書
  • 戸籍謄本
  • 印鑑証明書

財産や相続人の状況に合わせて、追加で書類の提出を求められる場合があります。

また、遺言者(申込者)が死亡して相続が開始した際、金融機関へ連絡する死亡通知者を申し込み時に指定しなければなりません。配偶者や近隣に住んでいる子どもを指定すると、スムーズに対応してもらえるでしょう。

4.相続開始の通知

遺言者が死亡すると、あらかじめ届け出た通知者は金融機関に対して相続開始の通知を行います。

5.遺言書内容と遺言執行者就任の通知

相続開始の通知を受けた金融機関は、相続人の代表者と相談をしたうえで遺言書の内容を相続人や受遺者に通知します。また、金融機関が遺言執行者に指定されていれば、就任した旨を相続人や受遺者に対して通知します。

6.財産目録の作成

改めて金融機関は遺産や債務状況を調査し、相続財産の対象となる財産について財産目録にまとめます。遺言書作成時から遺産内容が変わっている可能性があるからです。

この際、相続人や遺言者と同居されていた方に協力を求められる場合があります。

7.遺言執行

金融機関が提携している専門家によって不動産の名義変更や預貯金の解約など、遺産を相続人に移転させる手続きが行われます。すべての遺言内容が実現したら、遺言執行が終了して遺言信託のサービスは完了します。

費用

遺言信託にかかる費用は、遺産総額に対して一定の割合をかけて計算されます。金融機関によって料金体系が異なるため、同じ内容のサービスを受けた場合でも費用に大きな差が出る点に注意しましょう。

ただし、メガバンクの場合、最低手数料を100〜160万円程度に設定していて、さらに遺産額に対して上乗せされます。遺言作成サポートから遺言執行までを依頼すると数百万円単位の費用が必要です。

また、公正証書遺言の保管料が年間単位で発生したり、遺言書の内容の変更に追加料金が発生したりと、加算される費用項目がたくさんあります。

一方、専門家に依頼する場合、費用相場は以下の通りです。

専門家の種類費用相場
弁護士遺言書作成サポート:10〜20万円
遺言執行:30万円〜
司法書士遺言書作成サポート:4〜10万円
遺言執行:30万円〜
行政書士遺言書作成サポート:5〜10万円
遺言執行:20万円〜

もちろん、遺産総額や相続人の数によって費用は前後します。ただ、最低報酬は遺言信託と比べると5分の1〜3分の1程度に設定されているため、総額も安くなるケースが多いと考えられるでしょう。

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その他遺言信託でよくある質問・知っておきたいこと

最後に、遺言信託について知っておきたいことをQ&A形式でまとめました。

以下の4つの疑問についてお答えします。

  • 遺言信託と家族信託の違いは?
  • 相続税申告も遺言信託のサービスに含まれる?
  • 遺言信託を使えば家族以外にも財産を残せる?
  • 法律上での遺言信託と同じ意味?

順番に確認しましょう。

相続税申告も遺言信託のサービスに含まれる?

遺言信託を行ったとしても、相続税申告のサポートは受けられないため注意しましょう。そもそも、遺言執行者の業務に相続税申告は含まれておらず、金融機関が代理でおこなうことはできません。

相続税にかかわらず、税務書類の作成や税務代理、税務相談の業務は税理士の独占業務です。そのため、遺言信託を行っている場合でも相続人は税理士へサポートを依頼する必要があります。

遺言信託を使えば家族以外にも財産を残せる?

生前お世話になった方に対して遺産を残したい場合、遺言で指定することが可能です。ただし、法定相続人の遺留分を侵害しないように注意しなければなりません。

遺留分とは、配偶者や子どもなどの法定相続人に認められた最低限の遺産の取り分です。民法で定められており、遺留分を侵害された法定相続人は遺留分を侵害した相続人や受遺者に対して遺留分侵害額請求ができます。

話し合いで解決する場合もありますが、最悪の場合訴訟問題に発展してしまいます。結果としてスムーズに遺言執行ができなくなるため、遺留分には十分に配慮した遺言書を作成しましょう。

法律上での遺言信託と同じ意味?

そもそも法律用語としての「遺言信託」とは、遺言者が信頼できる方に指定した目的に即した管理・処分をすることを遺言で定めることによって設定する信託のことです。しかし、近年では法律用語としての遺言信託ではなく、商品名・サービス名としての遺言信託が一般化してきました。

そのため、遺言信託というと、金融機関が行うサービスを指すことが一般的です。

遺言信託と家族信託の違いは?

遺言信託と家族信託は、言葉が似ているもののまったく異なる意味を持ちます。

遺言信託とは、遺言書の作成サポートから遺言書の保管、執行までを一連してお願いできる金融機関のサービスです。

一方、家族信託は、信頼できる家族に財産を預け、指定の通りに管理・処分してもらう契約です。たとえば、認知症の発症や要介護になった場合に自分で財産が管理できなくなったとしても、家族に財産の管理や処分、運用できる権利を与えられます。

家族信託は自分たちだけで信託契約を交わすことができ、費用はかかりません。司法書士や行政書士に契約のサポートを依頼することも可能です。

遺言信託は資産構成が複雑な方向けの終活サービス

遺言信託は、普段から懇意にしている金融機関がある場合に遺言や相続について相談するためのサービスです。たくさんの銀行口座や証券、不動産を持っていて資産構成が複雑な方にとっては、資産活用のアドバイスも受けられるため価値あるサービスに感じられるでしょう。

手厚いサポートが受けられる一方で、高額な費用がかかります。そのため、多くの財産を家族に残したいと考えている方にはおすすめできません。

遺言書を作成したいという意思があるのであれば、専門家に相談しましょう。遺言書には厳格な要件があり、せっかく作成しても要件を満たしていなければ無効となってしまいます。

家族に自分の意思を確実に残したい場合、専門家のサポートを受けると心強いです。遺言信託と比べて費用がかからないことが多く、気軽に利用できます。とくに、弁護士であれば相続トラブルの解決までサポートしてくれます。

無料相談を受け付けている専門家も数多くいるため、ぜひ活用しましょう。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年7月9日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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