「遺産の分け方で話がまとまらない」「不当な遺言書が見つかったが、遺留分を請求したい」このようにトラブルが発生することは珍しくありません。自分たちで解決できない場合、裁判所に判断を委ねる方法があります。本記事では、相続トラブルで裁判になるケースや裁判の流れについて詳しく解説します。相続人同士で揉めそうと感じている方は、参考にしてください。
相続トラブルで裁判になるケース
相続トラブルで裁判に発展するケースは、以下の通りです。
- 遺産分割協議がまとまらない場合(遺産分割調停・審判)
- 相続人の範囲に争いがある場合(相続権不存在確認調停・訴訟)
- 遺産の範囲に争いがある場合(遺産確認訴訟)
- 遺言の有効性を争う場合(遺言無効確認の調停・訴訟)
- 遺留分が侵害されている場合(遺留分侵害額の請求調停・遺留分侵害額請求訴訟)
- 遺産の使い込みの疑いがある場合(損害賠償請求訴訟・不当利益返還請求訴訟)
このように、一概に相続トラブルといっても、トラブルの内容によって利用する手続きが異なります。どの手続きだと最適に解決できるのか順番に確認しましょう。
遺産分割協議がまとまらない場合(遺産分割調停・審判)
相続人同士で遺産分割協議を行っても、意見が割れてまとまらない場合、通常遺産分割調停を行います。遺産分割調停では調停委員が当事者たちの意見を聞き、和解するためのアドバイスをしてくれます。和解すれば調停は成立し、争いは終了です。
調停が成立しなければ遺産分割審判に移行し、裁判所が当事者の主張や事実にもとづいて合理的な判断を下します。原則、裁判所が出した結論に基づいて遺産分割を行わなければなりません。
それでも納得がいかず、異議申し立てを行う際は高等裁判所に向けて即時抗告を行います。これまで行っていた家庭裁判所の裁判官とは異なる人が結論を下すため、内容が覆ることもあります。
「遺産分割調停」「遺産分割審判」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
相続人の範囲に争いがある場合(相続権不存在確認調停・訴訟)
相続人の範囲を確定する際に、特定の相続人を正当な理由をもって相続人として認めたくない場合、相続権不存在確認調停・訴訟を起こせます。
具体的には、以下のようなケースにおいて相続権不存在確認調停・訴訟の手続きを行います。
- 相続発生後、被相続人に対して虐待や侮辱行為、脅迫によって遺言書を書かせる行為などの欠格事由に該当する疑いがある人を相続人から除外したい
- 相続発生後、まったく存在を知らされていなかった隠し子が現れた
- 相続発生後、後妻を名乗る女性が現れたが、認知症を患ってから婚姻届を勝手に提出した疑いがある
それぞれが証拠となる書類や資料を提出し、裁判所で相続権の有無を争います。
ただし、相続権不存在確認が認められた場合でも、代襲相続は発生します。代襲相続とは、相続人の代わりにその子どもや孫が相続権を得ることです。
「代襲相続と相続放棄」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
遺産の範囲に争いがある場合(遺産確認訴訟)
遺産の範囲について争いがある場合、遺産確認訴訟を起こして相続財産の範囲を確定させることができます。
具体的には、以下のようなケースにおいて遺産確認訴訟の手続きを行います。
- 被相続人が子どもや孫の名義で預貯金を積み立てていた
- 被相続人が亡くなる直前に不動産の名義が別の方の名義に変わっていた
- 同居していた長男が被相続人の財産を隠している疑いがある
遺産の範囲が定まっていない状態だと、遺産分割ができません。遺産確認訴訟の判決が出たら、その判決を前提として初めて相続人で遺産分割を行います。
遺言の有効性を争う場合(遺言無効確認の調停・訴訟)
偽造・変造や形式不備などの正式な理由をもって、遺された遺言書が無効だと主張するには、遺言無効確認の調停・訴訟を起こせます。
具体的には、以下のようなケースにおいて遺言無効確認の調停・訴訟の手続きを行います。
- 認知症で遺言能力が欠如している時期に遺言書が書かれていた
- 遺言に必要な証人の条件が満たされていない
- 法定で定められた形式で遺言が書かれていない
- 相続人に脅迫されて書かされた遺言書だった
遺言無効確認の調停・訴訟の判決が出るまでの期間は、準備期間も含めると数年以上かかるケースが少なくありません。さらに、判決の結果が出なければ遺産分割ができないため、相続の手続きを終えるまでに多くの年月がかかる点に留意しましょう。
「認知症と遺言」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
遺留分が侵害されている場合(遺留分侵害額の請求調停・遺留分侵害額請求訴訟)
遺留分を持つ法定相続人にもかかわらず、遺留分に相当する遺産を引き継げなかった場合、遺留分侵害額の請求調停・遺留分侵害額請求訴訟を起こせます。
そもそも、遺留分とは、法定相続人に定められた最低限取得できる遺産の取り分です。遺言書や贈与によって、遺留分をもらえなかった相続人が他の相続人に対して請求できます。
具体的には、以下のようなケースにおいて遺留分侵害額の請求調停・遺留分侵害額請求訴訟の手続きを行います。
- 被相続人が遺言書に「内縁の妻にすべての財産を譲る」と記載していた
- 被相続人が特定の相続人にだけ生前贈与を行っており、相続財産がなくなってしまった
ただし、遺留分は法定相続人全員に定められているわけではありません。被相続人との関係が、以下の場合にのみ遺留分が決められています。
- 配偶者
- 子ども
- 直系尊属(父母・祖父母など)
被相続人の兄弟姉妹には遺留分がないため注意しましょう。
また、遺留分の請求には2つの期限が設けられています。
- 時効:相続が開始し、遺留分侵害を知ってから1年以内
- 除斥期間:相続開始から10年以内
いずれかの期限を過ぎてしまうと遺留分を請求する権利を失うため、早めに対応しましょう。
「遺留分」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
遺産の使い込みの疑いがある場合(損害賠償請求訴訟・不当利益返還請求訴訟)
特定の人物が被相続人の相続財産を勝手に使い込んでいた疑いがある場合、損害賠償請求訴訟・不当利益返還請求訴訟によって損害を受けた相続人が利益の返還を請求できます。
使い込みの代表的なケースは、以下の通りです。
- 被相続人の預貯金を他の相続人に無断で使い込んだ
- 被相続人の不動産を他の相続人に勝手に売却し、売却金を使い込んだ
- 被相続人が貸し出していた賃貸不動産の賃料を他の相続人に無断で受け取って使い込んだ
不当利益の返還請求には、以下の2つの時効があります。
- 遺産の使い込みがあったことを知ったときから5年
- 遺産の使い込みがあったときから10年
いずれかの期限を過ぎてしまうと遺留分を請求する権利を失うため、早めに対応しましょう。
相続に関する裁判にかかる費用
相続に関する裁判を行う場合、家庭裁判所で定められた手数料を納める必要があります。ここでは、手続きごとに費用の目安をご紹介します。
- 調停・審判にかかる費用の目安
- 訴訟にかかる費用の目安
あらかじめ費用の目安を理解し、手続きを開始しましょう。
調停・審判にかかる費用の目安
相続に関する調停・審判の申し立てにかかる費用は、数千円〜1万円程度です。内訳は、以下の通りです。
収入印紙 | 1200円※遺産分割調停・審判の際は、1200円×相続人数 |
---|---|
予納郵券(切手代) | 数千円※家庭裁判所によって設定額が異なる |
調停が不成立となって審判に移行する際は、自動で移行となるため改めて申し立て費用が発生することはありません。
訴訟にかかる費用の目安
相続に関する訴訟を起こす場合、裁判所に一定額の手数料と予納郵券(切手代)を支払わなければなりません。
手数料は、訴訟の目的の価格によって大きく異なります。
訴訟の目的の価格(金額) | 手数料額 |
---|---|
〜100万円までの部分 | その価額10万円までごとに1000円 |
100万円超〜500万円までの部分 | その価額20万円までごとに1000円 |
500万円超〜1000万円までの部分 | その価額50万円までごとに2000円 |
1000万円超〜10億円までの部分 | その価額100万円までごとに3000円 |
10億円超〜50億円までの部分 | その価額500万円までごとに1万円 |
50億円超〜の部分 | その価額1000万円までごとに1万円 |
手数料額の計算が難しい場合は、弁護士に確認を取るか、裁判所が公開している「手数料額早見表」を参考にしましょう。
また、予納郵券(切手代)の相場は、5000〜6000円程度です。裁判所によって設定されている金額が異なるため、気になる方は管轄の裁判所に確認しておきましょう。
調停・審判・訴訟の概要と流れ
ここまでは相続に関する裁判についてご紹介しましたが、そもそも調停・審判・訴訟がどのようなものなのか分からない方もいると思います。
調停・審判・訴訟のそれぞれの概要と流れについて詳しく解説します。
調停の概要と流れ
調停とは、裁判官と調停委員が構成する調停委員会が間に入り、話し合いによって合意を目指す裁判所におけるトラブル解決方法です。
当事者同士が直接話すことはなく、それぞれの調停委員が当事者から意見・主張を聞き、双方の意見のすり合わせを行います。調停委員は和解に対するアドバイスも行ってくれます。
調停の流れは、主に以下の通りです。
- 当事者の1人が調停を申し立てる
- 他の相続人に呼び出し状が郵送される
- 期日に出頭し、調停委員による聞き取り・すり合わせが行われる
- 話がまとまれば調停成立、まとまらなければ調停不成立として審判へ移行する
期日は1回で終わるケースと2度・3度と何度か開催されるケースがあります。
審判の概要と流れ
審判とは、調停で話がまとまらない場合に調査官の調査結果をもとに、最終的に裁判所が審判を下すトラブル解決方法です。当事者は、裁判所が出した審判に従わなければなりません。従わない場合は、強制執行を受けることになるほどの強制力を持っています。
審判の流れは、主に以下の通りです。
- 審判に移行する、もしくは審判を申し立てる
- 期日に出頭し、主張書面や証拠資料を提出する
- 裁判所によって審判が下される
- 不服があれば即時抗告をする、即時抗告がなければ審判の翌日から2週間で審判が確定
裁判所が判断するまで期日は続きます。
訴訟の概要と流れ
訴訟は、公開された法廷で裁判所に判決を下してもらうトラブル解決方法です。
訴訟の流れは、以下の通りです。
- 訴訟を提出する
- 訴訟のお知らせと期日の呼び出しが郵送で行われる
- 頭弁論期日が開催される
- 裁判所が判断できるまで頭弁論期日が続く
- 和解期日が設けられる
- 判決を下される
- 不服があれば控訴・上告をする、控訴・上告がなければ判決書の送達を受けてから2週間で判決が確定
裁判の途中で和解を促されることもあり、和解が成立した際には紛争解決となります。和解に至らない場合は、最終的に裁判所が出した判決に従わなければなりません。
相続の裁判で有利に進めるためのポイント
裁判で必ず勝てる方法はありませんが、できるだけ有利に進めたいものです。相続の裁判では、以下の2つのポイントを知っておくと有利に進められます。
- 譲歩して調停での解決を目指す
- 弁護士は早い段階から依頼する
詳しく確認しましょう。
譲歩して調停での解決を目指す
調停で解決を目指すために譲歩するラインを決めておきましょう。たしかに希望を100%通したいと考える方は多いですが、審判や訴訟になると裁判所が法的な観点から妥当な審判・判決を下すため、当事者の主張が通りづらくなります。
一方、調停では当事者の話し合いで解決を目指すため、お互いが譲歩し合えば調停成立となります。譲れない1点だけでも希望通りになるのであれば、それを確保するために調停で成立させることを目指しましょう。
弁護士には早い段階から依頼する
弁護士には早い段階から依頼しましょう。主張書面を適切に記載するために審判や訴訟から弁護士を雇う方は多いですが、調停での主張内容も審判や訴訟では重視されます。つまり、調停での話し合いにおいても適切な主張をしなければなりません。
弁護士は過去の事例を踏まえた上で、的確なアドバイスをしてくれます。調停から依頼する場合でも、審判・訴訟から依頼する場合でも弁護士費用は大きく変わらないため、早めに依頼しておくことが得策です。
「相続の弁護士費用」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
相続トラブルが発生したら裁判前から専門家に相談しよう
相続について揉めた場合、遺産分割については審判、それ以外のトラブルについては訴訟で争います。裁判に発展した際は、当事者同士だけではスムーズに解決できず、希望がまったく通らない結果に陥る場合があります。
もし、相続に関して相続人同士で意見が異なってまとまらない場合、早めに専門家に相談しましょう。話し合いの間に専門家が入ることで、冷静な話し合いができ、法的なアドバイスがもらえるからです。
裁判に発展した際にも専門家は強い味方になってくれます。早期解決や親族間での円満な関係を保つためにも、専門家の力を借りましょう。