相続で揉めるケースは珍しくありません。どんなに親しい親族間でもお金が絡むと円満に相続できない可能性は十分あるのです。大切な家族が亡くなった悲しみの中、さらに親族間で揉め事になるのは避けたいものです。この記事では、相続で揉める原因やその対処法・生前にできる対策を詳しく解説します。
目次
相続する遺産が少ないからといって揉めないとは限らない
相続での揉め事というと、高額な資産の相続がある一部のお金持ちの話とイメージしている方も多いでしょう。しかし、実際には一般的なご家庭の相続においても、揉め事に発展するケースもあります。
「令和3年司法統計年報」によると、令和3年に遺産分割について家庭裁判所で調停が成立・容認された件数は6934件です。そのうち、遺産の価格が1億円以上は521件にとどまっています。反対に、遺産額5000万円以下で3037件、1000万円以下で2279件と、5000万円以下での合計が約77%を占めているのです。
高額な遺産が予想される相続では、ある程度生前中に相続対策が進められている傾向があります。反対に、資産が少額になると相続について何も対策することなく相続が発生してしまうケースも少なくありません。
たとえ少額といえど、お金が絡むと何が起こるか分かりません。また、金額ではなく遺産に対する思い入れなどから分割時に揉めてしまうケースも少なくありません。このように遺産の額に関わらず相続での揉め事が起きることは充分に考えられ、誰であっても身近に起こりうる問題でもあるのです。
相続でよくある揉め事と原因
遺産の内容や相続人との関係性など相続で揉める理由はさまざまあります。相続での揉め事を避けるには、どのような理由で揉めるかを把握しておくことが大切です。
ここでは、相続でよく揉めるケースを、次の3つの原因別にみていきましょう。
- 相続人が原因となる揉め事
- 相続財産が原因となる揉め事
- 遺言書が原因となる揉め事
相続人が原因となる揉め事
被相続人の死後に相続人間で揉めてしまうケースはよくあります。相続人間の仲が悪く話し合いが進まないことや、相続人の誰かが一方的な主張をするケースは珍しくありません。
相続人が原因となる揉め事のケースには次のようなパターンがあります。
- 仲が悪く相続割合で意見が合わない
- 感情的になって話し合いができない
- 相続人の1人が相続割合について一方的な主張をする
- 遺産分割協議に参加してくれない
- 疎遠で連絡が取れない
- 介護の負担が偏り相続割合で揉める
- 特定の人が生前中に財産を管理していて使い込みが疑われる
- 前婚の子どもや内縁者がいる
- 相続人が多い
相続が発生すると遺言がない限り法定相続分で相続するか、相続人全員で遺産分割協議して相続割合を決めることになります。しかし、相続人間の仲が悪いと話し合いでは相続割合を決めることが難しくなる恐れがあるのです。
仲の悪さから意見が合わなかったり、ろくに話し合いが進められなかったりというケースは多いでしょう。反対に、仲が疎遠なことで相続時に連絡が取れずに、遺産分割協議を進められないというケースもあります。被相続人の生前中に相続人や相続人の配偶者など、誰かが介護の負担を多くしていた場合も、介護の負担に対する相続の割合で揉めることがあります。
また、相続人が多すぎることで分割時にトラブルになりやすいものです。一般的には配偶者と子ども・兄弟姉妹の誰かが相続人になるケースが多いでしょう。しかし、被相続人に離婚・再婚歴があり前婚者との間に子どもがいる・内縁の妻と子どもがいる、養子縁組している場合などで相続人の数が多くなります。
とくに、前婚者との子どもように配偶者や実子が普段関わらない人が相続人になっている場合に、トラブルになりやすいので注意が必要です。
相続財産が原因となる揉め事
相続財産の額ではなく、財産の内容は揉める原因となりやすいものです。財産内容が原因となる揉め事には、下記のようなケースがあります。
- 相続財産に不動産が含まれる
- 相続財産が実家しかない
- 不動産の評価額で意見が割れる
- 不動産を共有状態にしてしまい活用できない
- 相続財産に借金がある
- 誰か1人が高額な生前贈与を受けていた
- 被相続人が事業をしていた
不動産は現金のようにきっちり分けることができません。そのため、相続財産に不動産が含まれると相続割合で揉めやすくなります。
複数不動産があると誰がどの不動産を相続するかで揉めてしまい、反対に実家しかないようなケースでも実家の相続をする・しないで揉める可能性があります。
仮に、誰かが不動産を相続して代償金を支払うとしても、不動産評価額を巡って揉め事になるケースも珍しくありません。とりあえず共有状態にしてしまい、相続後に売却や活用が難しくなるケースもあります。
また、不動産以外でも相続財産が借金というケースでも揉めやすくなります。相続財産が借金という場合、相続放棄という方法が検討できますが、相続人が相続放棄することで別の人が借金を背負うことになり揉め事になりやすいのです。
相続人が生前中に事業を営んでいた場合も、事業の継承をめぐって揉める恐れがあります。相続対策として生前贈与を行うケースは珍しくありません。しかし、相続人のうち誰か1人が高額な生前贈与を受けている場合、相続財産の分割時に生前贈与分を巡って揉め事に発展する恐れがあります。
遺言書が原因となる揉め事
遺言書のある相続では、遺言書が優先されます。遺言書通りに相続するため揉めにくいようですが、遺言書の内容によっては揉め事の種になるものです。
遺言書をめぐっての揉め事には、下記のようなケースがあります。
- 遺言書の内容が不公平
- 遺言書の無効を主張する親族がいる
- 遺留分を侵害している
- 遺言書に含まれていない財産がある
子どものうち1人にすべて相続させる、といった不公平な遺言書は揉め事につながりやすくなります。たとえ不公平な内容であっても遺言書は有効です。
しかし、納得できない親族が無効を主張することで揉め事になる恐れがあります。また、遺言書であっても遺留分は侵害できないため、遺留分の侵害がある相続人から遺留分侵害額請求が行われる可能性もあるでしょう。遺留分侵害額請求が行われるほどになると、親族間の仲も悪くなっていることも予測できます。
遺言書であれば、相続人以外に財産を残すことも可能です。そのため、家族も知らない人や慈善団体に寄付といった相続が記載されていて揉め事になるケースもあります。
遺言書に記載のない財産がある場合は、その財産について遺産分割協議が必要です。遺産分割協議の過程で揉め事に発展するケースもあるので、注意しましょう。
相続で揉めた場合の対処法
ここでは相続で揉めた場合の対処法として、下記のよくある揉め事での対処法を解説します。
- 相続割合で意見が合わない
- 相続財産に不動産が含まれる
- 介護の負担が不公平だった
- 遺言の内容が不公平
- 生前贈与が行われている
相続割合で意見が合わない
どんなに仲の良い兄弟間であっても、遺産が絡むと揉め事になる可能性は十分にあります。相続人同士が互いに自分の主張を譲らず相続割合で揉める場合、次のような対処法が検討できます。
- 相続人間で遺産分割割合を確認し話し合う
- 調停や審判に進む
- 専門家に相談する
まずは、相続人間で冷静に話し合うことが大切です。その際、法定相続割合や正確な財産を把握しておくことが重要です。遺言のない相続の場合は、一般的に法定相続割合で相続することになります。
法定相続割合は相続人によって異なるものです。遺産割合について一方的に主張する方の中には、そもそも相続人でない・遺留分がないというケースも少なくありません。どのような財産があり、どれくらい相続するのが妥当かを明確にしておくことで、話し合いを進めやすくなるでしょう。
遺産分割協議で相続割合が決まらない場合は、家庭裁判所の調停・審判で解決することになります。また、当事者同士の話し合いでは、なかなか冷静になれないものです。弁護士などの専門家に間に入ってもらうことで、冷静に話し合いで解決できる可能性があります。調停・審判に進む場合でも、弁護士に相談しておくことでスムーズな解決を目指しやすくなるでしょう。
相続財産に不動産が含まれる
きっちり分割できない不動産が相続財産の場合、揉め事に発展しやすいものです。相続財産に不動産が含まれる場合、下記のような分割方法があります。
- 共有分割
- 代償分割
- 換価分割
持分に応じて所有権を分割する共有分割であれば、不動産を相続人全員で所有できます。しかし、名義が共有になると将来の売却や活用がしにくくなり、さらに相続が発生するとより所有権が複雑になるので、共有分割はあまりおすすめできません。
誰か1人が不動産を所有し他の相続人に代償金を支払う代償分割や不動産を売却して売却金を分割する換価分割であれば、公平に相続を進めやすくなるでしょう。
介護の負担が不公平だった
被相続人の生前中に相続人のうち誰か1人が介護を負担していたケースでは、介護費用や負担に対して相続分を多くもらうことを主張するなどで揉めやすくなります。実際に誰か1人に負担を強いていたのが明らかなのであれば、他の相続人がその点を考慮して相続割合を決めることが理想です。話し合いで解決が難しい場合は、寄与分を主張することになります。
寄与分とは、被相続人の財産形成や療養看護に後見した相続人とそれ以外の相続人の公平さを図るための制度です。寄与分を主張することで、法定相続分以外に寄与分として遺産を上乗せすることができます。
ただし、寄与分を主張できるのは相続人のみです。相続人の配偶者のように介護を担った人が相続人でない場合は、寄与分は主張できません。しかし、相続人以外の人でも、特別寄与料制度で寄与度に応じた金銭を請求することができます。
寄与分が主張できるか・どれくらい請求できるのかは、一度弁護士に相談することをおすすめします。
遺言の内容が不公平
遺言書にどのような内容を書くかは被相続人の自由です。そのため、偏った内容の遺言書が残されるケースは珍しくありません。
遺言書の内容に不満がある場合、次のような解決方法があります。
- 遺言書の無効を主張する
- 遺産分割協議を行う
- 遺留分侵害額請求を行う
遺言書の内容に疑問がある場合は、無効を主張する方法があります。遺言が法律上の要式を満たしていない・作成時に被相続人に正常な判断能力がないといった場合に無効が認められる可能性があります。
また、遺言書がある場合でも相続人全員の合意があれば、遺産分割協議で遺言以外の分割が可能です。ただし、遺言で遺産分割協議が禁止されていると、遺産分割協議を進められないので注意しましょう(遺産分割の禁止は相続開始から5年以内に限る)。
最後の対処法としては、遺言通りに相続して遺留分侵害額請求する方法があります。兄弟姉妹以外の相続人には遺留分が認められており、遺言であっても遺留分は侵害できません。遺留分を侵害する内容であるなら、遺留分侵害額請求で侵害された額を請求するとよいでしょう。
生前贈与が行われている
誰か1人が生前贈与で高額な財産を受け取っているというケースでは、生前贈与分を「特別受益」として相続財産に持ち戻して遺産分割することで公平に相続することが可能です。
ただし、生前贈与が特別受益として認められるためには、生前贈与を受けた相手や贈与の内容など贈与が認定される必要があります。生前贈与を受けた側は、特別受益でないと主張する可能性も高いため、特別受益を主張する場合は専門家に相談することをおすすめします。
相続争いにならないために事前にできる予防策
相続争いが一度起こると、解決が長引くだけでなく親族間の仲も悪くなります。親族同士が争うのは被相続人も望まないところでしょう。相続争いは、生前中に対策することである程度回避できるものです。
ここでは、事前にできる予防策として次の5つを解説します。
- 生前中に話し合っておく
- 遺言書を作成する
- 生前贈与する
- 家族信託する
- 専門家(弁護士)に相談する
生前中に話し合っておく
相続について家族で認識を一致させておくことが大切です。相続の希望や遺産の内容など、家族で情報を共有しておくとスムーズな相続をしやすくなります。
生前中から相続の話し合いをすることに抵抗があるかもしれませんが、いきなり相続の話である必要はありません。まずは、身近な話題からコミュニケーションを深めていき、相続についても少しずつ話していくとよいでしょう。
遺言書を作成する
遺言書があれば、相続人同士で話し合う必要がなくなり無用な揉め事を避けやすくなります。しかし、遺言書の内容によっては逆に揉め事になる恐れもあるので、作成は慎重に進めておくようにしましょう。
遺言書を作成する際には、次のようなポイントを押さえることが大切です。
- 公正証書遺言で作成する
- 遺留分を侵害しない
- 不公平な内容にならないようにする
不公平な内容や遺留分を侵害した遺言では、揉め事に発展しやすくなります。法定相続人がだれで・どのくらい遺留分を持っているのかは理解したうえで相続割合を決めることが大切です。
また、遺言書を無効と主張されないためにも、公正証書遺言での作成をおすすめします。
生前贈与する
相続財産に不動産がある・特定の人に確実に財産を譲りたいといった場合では生前贈与を検討するとよいでしょう。生前贈与は相続財産を減少させることにもつながるので、相続税対策にもなります。
ただし、生前贈与は仕方を間違うと贈与税が発生して贈与された人の負担が増えたり、揉め事に発展したりする可能性があるものです。生前贈与を検討している場合は、弁護士や税理士に相談してアドバイスをもらうことをおすすめします。
家族信託する
家族信託とは、認知症などに備えて財産の管理を信頼できる家族などに任せる制度です。認知症対策として利用される方法ですが、相続対策としても活用できます。
家族信託では、信託契約で死後の財産継承者を二次相続以降まで指定することが可能です。相続人を数代先まで決めることができるので、自分の希望に合った相続ができるだけなく相続トラブルを避けやすくなるのです。
専門家(弁護士)に相談する
相続の揉め事は、あらかじめやっておくべき事前の準備をやっていなかったことが理由であることが多いです。とはいえ、実際にはどのような準備をすべきか分からない、という方も多いでしょう。この点、専門家(弁護士)にあらかじめ相談しておくのがおすすめです。
相続関連の実績豊富な弁護士であれば、法律的観点のアドバイスだけでなく、どのような準備をしておくべきかといったアドバイスを受けることができるでしょう。
相続で揉めてしまったときは弁護士に相談することも検討する
相続で揉めてしまうと当事者での解決は難しくなります。当事者同士の話し合いでは、法的な知識が不足しているだけでなく感情的になってしまい冷静な話し合いができないケースも少なくありません。
相続の揉め事は放置していても時間が解決してくれるものではありません。むしろ、時間が経つほど話し合いがこじれ・調停などが必要になるなど揉め事も深刻になります。そのため、揉め事が発生したら早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
相続問題を弁護士に相談するメリットには、下記のようなことがあります。
- 法的に正しい判断をしてもらえる
- 相手との交渉を自分に代わってもしてもらえる
- 調停・裁判になっても任せられる
- 有利に相続できる可能性がある
弁護士は、相続に対する法律の正しい知識を有しています。代理で相手との交渉も依頼できるので、自分で交渉するストレスからも解放されます。
相手も弁護士が間に入ることで、冷静に判断してくれる可能性もあるでしょう。万が一、調停などに進む場合でもそのまま手続きなどを任せることも可能です。
相続の揉め事は弁護士に相談して対策・解決を
相続の揉め事は、相続財産の額に関わらず誰にでも起こる可能性がある問題です。
相続人の仲が悪い・相続財産が不動産しかない・遺言が不公平など揉める原因はさまざまありますが、どのような揉め事であっても一度トラブルになると解決が難しくなります。相続で揉めているなら、自分たちだけで解決しようとせず弁護士に相談することでスムーズな解決が期待できます。
また、そもそも相続で揉めないために対策しておくことも重要になるので、相続前から弁護士に相談して円滑な相続ができるようにしましょう。