養子縁組によって発生しうる相続トラブル事例と解決策・対処法をご紹介

公開日:2024年4月5日

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養子縁組をすると法定相続人が増えるため、もともと法定相続人だった人の遺産の取り分が減ってしまう場合があります。そのため、相続発生時に養子と親族との間にトラブルが発生するケースは珍しくありません。本記事では、養子縁組に関するトラブルの事例と解決策・対処法をご紹介します。相続トラブルにお困りの方はぜひ参考にしてください。

養子縁組とは

養子縁組とは、法的に親子関係を結ぶための手続きです。養子縁組には以下のように2つの種類があります。

  • 普通養子縁組:実親との関係が継続したまま新たに親子関係を成立させる
  • 特別養子縁組:実親との関係を終了して新たな親子関係を成立させる

以下の2つの条件を満たせば、普通養子縁組においての制限はありません。

  • 養子が養親よりも年少者である
  • 養子が養親の直系尊属(父母・祖父母など)でない

そのため、孫が祖父の養子になったり、子どもの配偶者を養子にしたりすることが可能です。

養子縁組の制度は、以下のようなケースで活用されます。

  • 再婚相手の子どもと自分の間に親子関係を成立させるため
  • 婚姻関係のない女性との間の子どもに法律上の親子関係を成立させるため
  • 死亡時に財産を相続できる権利を持たせるため

養子縁組をすると両者には法律上の親子関係が成立するため、法定相続人として認められます。そのため、節税対策や孫に相続する権利を持たせるために養子縁組をするケースは珍しくありません。

ただし、養子縁組を一度成立させると解消することが難しいです。両者で合意すれば離縁によって解消できますが、合意できなければ離縁の訴えを提起しなければなりません。

また、相続発生後にトラブルになることも十分考えられます。養子が相続分を得ることで実子の相続分が減ってしまうからです。そもそも養子縁組を快く思っていなかった場合や養子縁組の事実を知らなかった場合にトラブルに発展しやすいです。

このような養子縁組による相続トラブルや揉める原因について、次の章で詳しく解説します。

養子縁組による相続トラブル・揉める原因

養子縁組による相続トラブル・揉める原因は、主に3つあります。

  • もともとの相続人の取り分が減ってしまった
  • 節税対策に結びつかなかった
  • 関係を解消したくても離縁手続きできなかった

事例とともに3つの原因について詳しく深掘りしましょう。

もともとの相続人の取り分が減ってしまった

養子がいることで、もともとの相続人の取り分が減ってしまった場合に、トラブルに発展しやすいです。

たとえば、実子2人と養子1人が法定相続人だったと仮定しましょう。このとき、養子縁組をしていなければ、実子2人は総額の2分の1ずつが取り分です。しかし、養子がいれば均等に3分の1ずつの取り分となります。

また、実子のいない夫婦が養子縁組をしていた場合、養子がいなければ第2順位の両親や第3順位の兄弟姉妹が法定相続人となるはずです。しかし、養子縁組をしていることで第1順位の養子が法定相続人となり、第2順位の両親や第3順位の兄弟姉妹が法定相続人になることはありません。

このように、本来の取り分よりも少なくなったり、もらえたはずの遺産がもらえなくなったりすると、血縁関係のある相続人と養子との間で争いごとに発展する可能性があります。

ただし、そもそも養子縁組をする際に実子や親族に了承を得ていなかったことがトラブルの真の原因である可能性が高いです。自分の知らない人が親の遺産を無条件に手にすることや遺産分割協議に参加することがおもしろくないと感じても仕方ないでしょう。

血縁関係のある相続人と養子との関係が良好であっても、「もらえたはずのものがもらえない」と感じると「損をした」という感情から、トラブルに発展する可能性も否定できません。

節税対策に結びつかなかった

節税対策のために養子縁組をしたにもかかわらず、対策に結びつかなかったことがトラブルの原因となる場合もあります。

たしかに、養子縁組をすると法定相続人の人数が増えるため、基礎控除額が増えて節税対策につながる場合があります。このような理由から、孫を養子にして節税対策をしようとする人も少なくありません。

節税対策に結びつかなかった具体的な事例は、以下の通りです。

  • 相続税の2割加算の対象になってしまい税金が高額になった
  • 節税のための養子縁組と判断されて養子の相続権が認められなかった

詳しく確認しましょう。

相続税の2割加算の対象になってしまい税金が高額になった

孫を養子にし、その孫が代襲相続人でない場合、相続税の2割加算という制度が適用されてしまいます。そのため、相続税対策のために孫と養子縁組をしていると相続税が2割加算されてしまい、節税どころか相続税が増えてしまう場合があります。

孫を養子にしたとき2割加算となる理由は、被相続人の子どもの相続税を1度免れることとなるためです。本来、祖父→父・父→孫の順番で相続するはずのところ、祖父→孫と相続を1度飛ばして財産を受け取ることになるため、2割加算されます。

もちろん、基礎控除額より遺産総額が少なければ2割加算の心配は不要です。しかし、遺産総額が基礎控除額より多くなる場合は、孫を養子にしたことで相続税の金額が高くなる場合もあるため注意しなければなりません。

節税のための養子縁組と判断されて養子の相続権が認められなかった

節税を目的とした養子縁組だと判断されると、相続税を申告するときに養子の相続権が認められない場合があります。

相続税の基礎控除額は3000万円+600万円×法定相続人の数で決まるため、養子が1人増えるごとに600万円分の基礎控除が増えます。そのため、相続税の節税のためだけに養子縁組を行うケースは少なくありません。

しかし、養子を法定相続人の数に含めると、相続税の負担が不当に軽減される結果となると判断されてしまうと、養子は法定相続人の数に含められないと定められています。このように法定相続人の数を増やすためだけに養子縁組をすると、トラブルの元となりかねません。

関係を解消したくても離縁手続きできなかった

養子縁組をした相手と関係を解消したくても離縁手続きをしないまま相続が発生した場合、トラブルに発展する恐れが十分に考えられます。

たとえば、以下のようなケースではトラブルに発展しやすいです。

  • 結婚相手の連れ子を養子にしたあと離婚した
  • 実子の配偶者を養子にしたあと、実子夫婦は離婚した
  • 同性のパートナーを相続させる目的で養子にしたがパートナー関係を解消した

このように夫婦関係やパートナー関係を解消したとしても、養親と養子の関係は変わらずに継続します。別途、離縁の手続きをする必要があります。

養子縁組をしたときは周りが相続分が減ることに同意をしていた場合でも、関係の変化によって「相続してほしくない」と考えも変化することは珍しくありません。

お互いが離縁に納得していれば、協議離縁や調停離縁が可能です。しかし、なかには「離縁すれば遺産を相続できない」と考え、離縁を拒む人もいるでしょう。合意できなければ離縁の訴えを提起しなければならず、時間と労力がかかってしまいます。

このように、離縁したい関係でありながらも関係を解消できないまま相続が発生してしまった場合に、実子や親族と養子の間にトラブルが発生することがあります。

養子縁組による相続トラブルへの対応策

被相続人が養子縁組をしていたことで相続トラブルへ発展するケースは、珍しくありません。ご紹介したような相続トラブルが発生しないための対応策は、主に2つあります。

  • 養子縁組を解消する
  • 遺産分割で合意できない場合は遺産分割調停を申し立てる

2つの対応策について詳しく確認しましょう。

養子縁組を解消する

まず、養子縁組を解消することを検討しましょう。養子縁組を解消するためには、市区町村役場に養子離縁届を提出しなければなりません。

養子離縁届はどちらか一方の意思で提出することはできず、双方の合意が必要です。合意がもらえない場合は、以下の手続きをして養子縁組の解消を目指します。

  • 離縁調停
  • 離縁審判
  • 離縁に向けての裁判
  • 死後離縁許可の申し立て

離縁する方法について、詳しく確認しましょう。

養子離縁届の提出

養子離縁届とは、養子縁組を解消するために必要な届出です。養子離縁届が受理されると、法律上における親子関係が解消され、戸籍が書き換えられます。

養子縁組によって名字が変わっていた方は、従来の名字に戻ります。ただし、7年以上の縁組期間がある場合、離縁した日から3か月以内に「離縁の際に称していた氏を称する届」を届け出れば縁組中の名字を名乗ることが可能です。

離縁調停

話し合いをしても合意が得られない場合や、話し合いの場に来てもらえない場合、家庭裁判所に離縁調停の申し立てを行います。

離縁調停では、調停委員が双方の間に入って離縁のための話し合いを仲介してくれます。もし、元配偶者の子どもと養子縁組をしたあとに離婚したのであれば、養子縁組を継続する必要はないとして調停委員から解消に応じるよう説得してもらえるはずです。

離縁調停で双方が解消に納得をすれば、調停によって親子関係の解消が可能です。

調停が成立すると調停調書が作成されます。家庭裁判所からこの謄本の交付をしてもらい、市区町村役場に持参すると離縁届の届け出を認めてもらえます。離縁届は、調停が成立した日から10日以内に提出する必要があります。

離縁審判

調停での話し合いにおいて、おおむね縁組関係を解消することで合意が取れているにもかかわらず、相手が裁判所に来られなくなり調停が成立しない場合もあるでしょう。このようなとき、離縁を認めることが相当だと判断され、審判によって離縁が認められます。

審判が成立すると自宅に審判書が届き、2週間後に審判が確定します。確定後、家庭裁判所で確定証明書を交付してもらいましょう。審判書と確定証明書を市区町村役場へ持参すれば離縁届の提出が認められます。

離縁に向けての裁判

離縁調停で養子縁組解消に向けての合意が取れない場合、離縁に向けて裁判を起こすしか方法はありません。裁判で離縁を認めてもらうには、法律上の離縁理由がなければなりません。

具体的な例は、以下の通りです。

  • 相手からの悪意によって遺棄された
  • 3年以上相手の行方不明の状態が続いている
  • 養子縁組の継続が困難である重大な事由がある

たとえば、「養子に相続させたくない」「親が離婚した」という理由だけだと離縁を認められない可能性もあります。できるだけ、離縁調停で解決するようしっかりと話し合いをしましょう。

裁判で離縁が認められると自宅に判決書が届き、当事者のどちらかが控訴しなければ2週間以内に確定します。確定後、家庭裁判所にて確定証明書を交付してもらいましょう。判決書と確定証明書を市町村役場へ持参すれば離縁届の提出が認められます。

死後離縁許可の申し立て

養子・養親のどちらかが死亡してしまった場合でも、死後離縁という方法で離縁手続きができます。死後離縁以降、法律上における両者の親子関係がなくなり、相続や扶養義務がなくなります。

死後離縁をするには、家庭裁判所における死後離縁許可の申し立てが必要です。申し立てができるのは生存している当事者のみであり、亡くなった養親の子どもや親族が申し立てることは不可能です。

ただし、死後離縁をしたからといって、相続がなかったことにはなりません。そのため、相続を理由に養子縁組を解消したいのであれば、お互いが生きている間に手続きを完了させる必要があります。

参照:死後離縁許可|裁判所

遺産分割で合意できない場合は遺産分割調停を申し立てる

養子縁組をしたまま相続が発生し、遺産分割で合意できない場合は遺産分割調停を申し立てましょう。それでも解決できない場合、遺産分割審判に移ります。

それぞれ、どのようなことを行うのか詳しく確認しましょう。

遺産分割調停

法定相続人同士で遺産分割方法について合意に至らない場合、遺産分割調停で解決する方法があります。家庭裁判所の調停委員が間に入って合意を促してくれるため、感情的にならずに話し合いを進められます。

ただし、調停委員はあくまでも第三者目線で進言をするだけの存在です。結果的に合意に至らないケースもあり、合意に至らない場合は遺産分割審判にて解決を目指します。

遺産分割審判

遺産分割調停が不成立になった場合、遺産分割審判の申し立てができます。

裁判官が審判によって遺産分割の方法を決定し、相続人はこの決定に従わなければなりません。もちろん、裁判官は養子を含むすべての法定相続人の主張を確認してくれます。

もし、判決に納得できない場合は不服申し立てをすることも可能です。不服申し立てがあった場合、高等裁判所における抗告審によって、再度裁判官の判断を仰ぎます。

養子縁組で相続トラブルにならないための事前対策

養子縁組で相続トラブルにならないための事前対策のイメージ

養子縁組を理由とした相続トラブルに発展させないためには、相続が発生する前に被相続人となる人が事前に対策しておくことが大切です。

対策できることは、主に3つあります。

  • 養子縁組を行う前に親族に説明して合意を得る
  • 遺言書を作成する
  • 弁護士に入ってもらう

順番に確認しましょう。

養子縁組を行う前に親族に説明して合意を得る

養子縁組を行うとき、実子や親族にしっかりと説明をして合意を得ましょう。

もちろん、養子・養親の当事者同士の同意だけで養子縁組することが可能です。しかし、実子や兄弟姉妹などが、「養子縁組を快く思っていなかった」ことが1番のトラブルの原因です。

血縁関係のない養子が法定相続人となり、ほかの親族の取り分が減ってしまうことになるため、親族が不満を持ったとしても自然なことと考えるべきです。このような状況で強引に養子縁組を行ってしまえば、相続争いへ発展することは容易に想像がつきます。

養子縁組をしたいと思ったときは親族に養子縁組をする目的や経緯を伝え、同意のもと手続きを進めるよう配慮しましょう。

遺言書を作成する

相続トラブルに備えて、遺言書を作成しておきましょう。遺言書の役割は、誰にどの遺産を相続させるかを指定するだけではありません。

自分とともに養子を受け入れてくれたことへの感謝や、自分がいなくても養子・実子ともに協力して仲良くしてほしいという意思を書き残すだけで、相続人は養子を受け入れやすくなります。

また、一緒に遺産の配分の理由も書いておけば、「できるだけ故人の意思を尊重しよう」と納得してくれるでしょう。

弁護士に入ってもらう

養子縁組によって相続トラブルが予想される場合、弁護士への相談を検討しましょう。養子縁組をする段階から弁護士のアドバイスを受けることで、相続を含めたトラブル回避に役立ちます。

また、養子縁組を活用した節税対策や効率のよい相続を実現するための助言ももらえるでしょう。法律の専門家である弁護士のサポートを受ければ、適切な判断を下せるはずです。

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養子縁組による相続トラブルは弁護士に相談しよう

養子縁組をすると本来相続人でなかった人が相続人となることで、もともと相続人だった人の取り分が少なくなり、トラブルに発展するケースは少なくありません。

とくに、親族が養子の存在を「知らなかった」「認めていなかった」という場合には、円滑に話し合いが進まないときもあるでしょう。

もちろん、被相続人が相続トラブルを回避するための対策をしておくことが大切ですが、相続発生後は養子と相続人で解決を目指さなければなりません。

もし、養子縁組によって相続トラブルが起きてしまったら、弁護士に相談しましょう。経験豊富な法律の専門家である弁護士が、あなたの気持ちに寄り添ってベストな解決方法を提案してくれるはずです。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年4月5日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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