「先祖代々のお墓を相続したけど登記って必要?」そのようなお悩みを抱えている方もいるでしょう。お墓を相続した場合、お墓の種類によっては名義変更が必要になるケースがあります。とはいえ、お墓の種類の違いや相続登記の必要性などよくわからないという方も多いものです。この記事では、お墓の相続登記について解説していきます。
墓地の定義
墓地とは、亡くなった方の遺骨や遺体を埋葬し弔う場所やそこに建てられた建造物のことをいいます。
日本では、自治体の許可を得た墓地にしか遺骨の埋葬はできません。自宅などに埋葬することは認められておらず、散骨などの例外的なケースを除いて、基本的に必ずお墓に埋葬することになります。
しかし、墓地とひとくちに言ってもその種類はさまざまです。
寺の境内にある墓地や霊園と呼ばれる広大な土地にいくつも建てられる墓地など、運営者や管理方法によって種類が異なります。
代表的な墓地の種類には、下記のようなものがあります。
- 寺院墓地
- 民営墓地
- 公営墓地
- 個人墓地
寺院が運営している寺院墓地では、檀家などが利用するのが一般的です。檀家や宗派を限定せずに広く利用できる墓地が民営墓地です。
民営墓地は寺院が運営しているケースや社団法人が運営しているケースなどさまざまあります。また、自治体の運営する公営墓地や個人が所有する個人墓地などの種類もあるのです。
なお、墓地は祭祀財産であり、相続財産の対象ではありません。祭祀財産とは、墓地や仏壇仏具・神棚・位牌・家系図といった先祖を祀るための資産のことです。
祭祀財産については、相続財産とは異なる扱いとなり、遺産分割の対象とはなりません。誰か1人を祭祀継承者として定めて、墓地を継承することになるのです。
墓地を継承した場合の相続手続きは、墓地の種類によって異なります。基本的には、墓地のある土地の所有者かどうかが相続登記が必要かどうかにつながってくるのです。
登記が必要な墓地と必要ない墓地について、下記で詳しくみていきましょう。
登記が必要な墓地・必要ない墓地
墓地の所有者として登記できるのは、墓地のある土地に対してのみです。石碑などの建造物は登記できません。そのため、墓地の相続登記が必要なのは、被相続人が墓地のある土地の所有者として登記されているケースです。
墓地のある土地の所有者になれるかは、墓地の種類によって異なります。
登記が必要ない墓地
登記の必要のない墓地としては、下記の種類が挙げられます。
- 寺院墓地
- 公営墓地
- 民営墓地
上記の墓地の場合、土地の所有者はそれぞれの運営者です。その土地に墓地を立てる場合、所有者から区画を使用する権利として永代使用権を与えられている形になります。
この永代使用権は、登記簿に記載できる権利ではないため、相続登記が必要ないのです。
ただし、墓地を相続した場合、永代使用権の名義変更は必要になります。名義変更の方法は墓地により異なるので、確認するようにしましょう。
登記が必要な墓地
登記が必要な墓地には、下記の種類が挙げられます。
個人墓地
自分の所有する土地にお墓を立てている個人墓地は、被相続人が土地の所有者である可能性が高く、土地の所有者である場合は相続登記が必要です。個人墓地に関しては、先祖代々のお墓が存在するなど地方で見かけることがあります。
ただし、昭和23年に施行された墓地埋設法によって、個人が新たに墓地を新設することは基本的にできません。そのため、法律設立以前からある墓地でのみ発生するケースと考えてよいでしょう。
また、個人墓地を引き継ぐ場合、祭祀財産として継承するか、相続財産として相続するかによって登記の方法が異なってきます。自分の親族の墓地として使用する場合は、祭祀財産として継承することとなり、継承を原因とする登記が必要です。
一方、墓地として他人に貸し出しているといったケースでは、土地を相続財産として相続するので通常の相続登記と同様の手順で手続きを行います。継承を原因とする登記のやり方については、下記で詳しく解説していきます。
相続登記とは異なる「継承」を原因とする登記のやり方
墓地を祭祀財産として継承する場合、通常の相続登記とは必要書類や手続きが異なります。ここでは、祭祀財産の登記の必要書類・手続き方法・費用について解説します。
必要な書類
必要書類は下記の通りです。
- 登記原因証明情報
- 登記識別情報又は登記済証
- 祭祀主催者の住民票
- 遺言執行人または相続人全員の印鑑証明など
登記原因証明情報とは、誰か祭祀継承者に指定されたのかを証明する書類のことです。
遺言書で指定されているなら遺言書が登記原因証明情報となります。また、土地の権利を証明するための登記識別情報又は登記済証が必要です。
登記識別情報は平成17年度から順次導入されています。古い墓地の場合は、紙で発行された登記済証(権利証)が必要になるでしょう。
祭祀主催者とは、祭祀財産を継承する人のことです。継承する人の住民票が必要になるので、取得しておきましょう。
手続方法
祭祀財産を登記する場合は、継承する祭祀主催者と遺言執行人または主催者以外の相続人全員の共同申請が必要です。
相続発生から登記までの大まかな流れは以下の通りです。
- 祭祀主催者の決定
- 必要書類の収集と申請書作成
- 登記手続き
相続が発生したら、墓地を継承する祭祀主催者を決定します。祭祀主催者は、遺言による指定や慣習による決定・家庭裁判所による決定方法があります。
祭祀主催者に選任された人は、登記の準備を行い墓地のある土地を管轄する法務局で手続きしましょう。登記手続きは自分で行うこともできますが、司法書士に依頼することも可能です。
墓地が遠方にある・書類の収集ができないなど自分での登記が難しい場合は、依頼を検討するとよいでしょう。
費用
継承での登記の場合、登記手続き時に登録免許税が必要です。
継承を原因とする登記の登録免許税は、固定資産税評価額×2%となります。たとえば、固定資産税評価額1000万円の土地であれば、20万円が必要です。
ただし、土地の地目が「墓地」となっている場合、登録免許税はかかりません。しかし、墓地として利用している場合でも地目が墓地でない場合は、非課税とならない点には注意しましょう。
また、登記手続きで司法書士に依頼する場合は、別途依頼料が掛かります。
誰が継承すべきか
祭祀財産を継承する祭祀主催者を決める方法には、次のような方法があります。
- 遺言がある場合は遺言に従う
- 慣習に従う
- 親族間で話し合う
- 家庭裁判所の調停は審判
遺言書で継承者を指定している場合は、指定された人が継承することになります。遺言がない場合は、その地域の慣習などで決められるケースも珍しくありません。
地域や慣習によって継承者は異なりますが、長男が継承する慣習がある地域が多いでしょう。
継承者は相続人である必要はなく、慣習にならう必要もありません。遺言がなく慣習に習わない場合は、親族間で話し合って決めることが可能です。
親族間の話し合いで決まらない場合は、家庭裁判所に申立し、調停・審判で決めることになります。
墓地を継承すると、墓地の管理だけでなく法要の主催や供養や墓じまいの仕方を決めるなど、さまざまな手間や金銭的な負担があります。家庭裁判所の申し立てで無理やり決めると相続人間のトラブルになりかねないので、できるだけ話し合いで円満に決められるようにしましょう。
継承せず放置したらどうなる?
相続財産として墓地を継承する場合、継承せずに放置していると相続登記が進みません。
相続登記は、令和6年4月1日に義務化され、相続から3年以内に登記しない場合罰則の対象となります。この義務化では、施行以前の相続も義務化の対象となるので、すでに相続し登記していない場合は、速やかに登記手続きするようにしましょう。
相続登記せずに放置していると、罰則の対象となるだけでなく土地の活用が難しくなる・次の相続が発生するとより手続きが困難になるなどのデメリットもあります。相続登記が必要な場合は、早めに手続きを行うことが大切です。
祭祀財産として登記する場合、令和5年12月時点では祭祀財産の相続登記は義務化の対象とならないと考えられています。ただし、今後登記の義務化が行われないとは限りません。
登記を放置していると、デメリットも大きくなるので登記手続きをすることをおすすめします。
登記の必要のない墓地であっても、永代供養権の継承の手続きは必要です。名義変更を怠り、管理費などの支払いが滞ると永代使用権を失い、無縁仏として扱われる可能性があるので注意しましょう。
墓地を相続したくない場合であっても、墓地は相続財産の対象とならないので相続放棄ができません。誰かが引き継ぐ必要がありますが、少子化が進む日本ではお墓の維持が難しくなるケースも少なくないでしょう。
墓地の管理が難しいといった場合は、放置せずに改葬や墓じまいの検討をおすすめします。
墓地を相続したらまずは土地の所有権の確認を
墓地を相続した場合、個人墓地など墓地の土地の所有権があるなら相続登記か継承を原因とする登記が必要です。反対に、運営団体が土地を所有する寺院墓地や公営墓地・民営墓地であれば、登記は不要です。
ただし、永代供養権の名義変更は必要なので速やかに手続きしましょう。登記の必要な墓地を継承する場合、継承するか相続するかによって費用や手続き・必要書類が異なります。
墓地の継承の手続きに不安がある人は、司法書士に相談して適切な登記ができるようにするとよいでしょう。