不動産を相続した後は、速やかな相続登記が必要です。しかし、書類集めや手続きなど自分だけで行うのは手間も時間もかかります。さらにトラブルが発生しているケースでは、自分の手に負えないこともあります。そのような場合は、専門家に相談することを検討しましょう。この記事では、相続登記の相談先や相談前に知っておきたいことを解説します。
相続登記とは
相続登記とは、不動産の登記簿上の名義を被相続人から相続人に変更する登記手続きです。
不動産を相続した場合、名義が自動的に変更されるわけではありません。相続後に、相続人が法務局で相続登記することで、不動産の名義人がようやく相続人に変更されるのです。
相続登記は、令和5年12月時点では登記の義務はありません。しかし、登記簿上の名義人が被相続人のままでは、売却や次の相続時にトラブルになる恐れがあるため、速やかな相続登記が必要です。
また、令和6年4月1日から相続登記が義務化されました。義務化後は、相続発生後3年以内に登記しない場合、10万円以下の過料が科せられる恐れもあるので忘れずに手続きするようにしましょう。
なお、この義務化では令和6年4月1日以前の相続も対象です。すでに、不動産を相続し相続登記が済んでいない人も、令和6年4月1日から3年以内に手続きしなけば罰則の対象となるので、注意しましょう。
「相続登記」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
相続登記の相談先は主に7つ
相続登記は自分で手続きできますが、手続きに不安があるという方もいるでしょう。
また、長期間相続登記を放置していた・相続人でトラブルになっているなど自分だけの手には負えないケースも少なくありません。そのような相続登記に関する悩みや不安は、専門家に相談することをおすすめします。
ここでは、相続登記の相談先として下記の7つを紹介します。
- 法務局
- 自治体
- セミナー・相談会
- 相続登記相談センター
- 司法書士
- 弁護士
- その他
法務局
相続登記の申請先である法務局では、相続登記手続きだけでなく手続きについての相談も可能です。登記に関する相談窓口が設置されているので活用しましょう。
法務局の相談窓口では、基本的に申請書の作成や書類の集め方・不備のチェックといった申請についての相談に対応しています。事前予約が必要となり相談時間も限られているので、事前に相談方法を確認することが大切です。
相続登記で必要な書類は法務局によって異なる場合があるので、相談する際には申請する法務局の相談窓口を利用するとよいでしょう。
自治体
自治体では、相続や相続登記についての相談窓口が設置されています。相続登記について全く分からない・専門家にいきなり相談するのはハードルが高いという方は、まずは、自治体の相談窓口を利用するのもおすすめです。
職員や専門家が、相続登記の手続き方法などを無料でアドバイスしてくれます。
ただし、自治体の窓口では手続きの案内などにとどまり、具体的な悩みの相談に対応していないケースも少なくありません。相談に応じた専門家が紹介されるというケースもあるので、改めて専門家に依頼するため手間がかかる可能性もあります。
何から始めればいいのか分からない・どの専門家の分野か分からないという場合の第一歩として利用するとよいでしょう。
セミナー・相談会
自治体や司法書士・弁護士などが主催するセミナーや相談会で相談することも可能です。司法書士などの専門家の主催するセミナー・相談会であれば、法的な相談もできます。
また、自治体主催の相談会でも専門家が対応するケースもあるので、事前に内容を確認するとよいでしょう。対面だけでなく電話相談やオンラインに対応している相談会もあるので、都合に合わせて利用することもできます。
ただし、セミナーや相談会は、形式や主催者によって相談できる内容や相談時間が異なります。書類の確認であれば対面形式で相談時間が長いもの、司法書士が参加しているものを選ぶなど、参加するセミナー・相談会を選ぶ必要があります。
あらかじめ相談内容を明確にして、適切なセミナー・相談会を選ぶようにしましょう。
相続登記相談センター
相続登記相談センターとは、日本司法書士連合会が運営する相談窓口のことです。事前に電話予約し、電話または対面での相談が可能です。
基本的には相続登記に関する内容の相談となりますが、相続人や相続財産の調査や遺言書・遺産分割協議書の作成に関しても相談対応してくれます。
相続登記相談センターに相談する場合は、下記の番号に連絡しましょう。最寄りの相続登記相談センターにつながります。
- 電話番号:0120-13-7832
- 受付時間:月曜日から金曜日10:00~16:00(祝祭日・年末年始・お盆期間を除く)
また、「相続登記相談センター特設サイト」では各都道府県の相続登記相談センターの検索もできます。それぞれのサイトでは無料相談会の日程なども記載されているので、一度チェックしてみるとよいでしょう。
司法書士
司法書士は、法的な書類作成や手続きの代行などの業務を行う専門家です。
司法書士は相続登記の専門家なので、単純な手続きに関する相談なら司法書士が適しています。また、司法書士では相続登記だけでなく財産の調査や遺言書作成・遺産分割協議書の作成なども対応可能です。
相続登記を含め相続全般に対応しているので、トラブルのない相続手続きなら司法書士に相談するとよいでしょう。
相続登記などを司法書士に依頼する場合、報酬が発生する点には注意が必要です。依頼先や相談内容により費用は異なりますが、相続登記で5~10万円ほどが目安となります。
初回相談は無料という司法書士も多いので、費用を含めて相談してみるとよいでしょう。
弁護士
弁護士は、相続全般を取り扱っています。
特に、相続人間トラブルが発生している場合、交渉などを得意としているのは弁護士です。相続登記については専門家である司法書士に、相続登記に関して何らかのトラブルが発生しているのであれば弁護士に相談する、と考えるとよいでしょう。
なお、弁護士の依頼は司法書士よりも高いのが一般的という点に注意が必要です。
その他
その他の相談先には、下記のような窓口があります。
- 銀行
- 信託銀行
- 法テラス
相続が発生すると、お金の相続などで銀行にお世話になります。その際、相続登記について相談することも可能です。登記など実際の手続きについては、司法書士などに紹介してもらうこともできるでしょう。
また、銀行の中でも、信託銀行では相続に関する手続きの相談やサポートを受けることが可能です。相続登記後の資産運用まで含めて相談したい場合は、信託銀行が適しているでしょう。
提携する専門家の紹介を受けることもできます。ただし、信託銀行の相談窓口は費用が高い傾向があるので注意が必要です。
また、特設サイトでは各都道府県の相続登記相談センターの検索もできます。
法テラスとは、国が設置した法律トラブルの相談窓口です。相談内容に適した手続きや専門家の案内を受けられます。相続登記に関するトラブルでどこに相談したらいいか分からないといったケースで、利用するとよいでしょう。
パターン別相談先
相続登記を専門家に相談する場合、適切な相談先を選ぶことが大切です。専門家と言っても得意分野や業務範囲が異なるため、対応できることが違ってくる点には注意しましょう。
ここでは、以下のパターン別での相談先を解説します。
- 何からすればいいのか分からない
- 自分で手続きしたいけど書き方などのアドバイスをもらいたい
- 相続登記を代行してもらいたい
- 相続人間でトラブルになっている
- 長年不動産の相続登記をしていなかった
何からすればいいのか分からない
相続登記が必要なことはわかっても、何をどうすればいいのか分からないという人も少なくありません。
「相続登記が必要だけどどうすればいいのかわからない」、「どんな書類や手続きが必要か知りたい」など、相続登記に関してどう行動すればいいのかわからないというケースでは、下記の相談先が適しています。
- 法務局
- 自治体の相談窓口
- 相続登記相談センター
- 相談会
法務局や自治体の相談窓口・相談会などでは、どのような手続きが必要なのかをアドバイスしてくれます。また、相談内容に合わせて適切な専門家を紹介してくれるので、どこに相談すべきか悩んでいる人にもおすすめです。
自分で手続きしたいけど書き方などのアドバイスをもらいたい
相続登記は単純な登記であれば、自分で手続きも可能です。しかし、書き方やどんな書類が必要か分からず不安という方もいるでしょう。
そのような場合は、下記のような相談先が適しています。
- 法務局
- 相談会
自分で手続きする前提で、書き方などのアドバイスを受けたいなら法務局や相談会が良いでしょう。特に、法務局は実際に相続登記を申請する場所でもあるので、より正確な回答を得られます。
ただし、法務局や相談会では記入内容の事前チェックまではしてくれない点には、注意が必要です。
相続登記を代行してもらいたい
仕事が忙しく自分で相続登記する時間が取れない・遠方で手続きが難しいなど相続登記を丸投げしたいなら、下記の相談先が適しています。
- 司法書士
- 相続登記相談センター
司法書士は相続登記の専門家です。
他の手続きを別の専門家に依頼していても相続登記だけは司法書士に依頼する必要があります。相続登記を含めて他にも手続きが必要なら最初から司法書士に依頼するのが良いでしょう。
司法書士に知り合いがいない、いきなり司法書士に依頼するのはハードルが高いなら、まずは相続登記相談センターで相談先を案内してもらう方法もあります。
相続人間でトラブルになっている
相続登記したいけど他の相続人が納得していないなど、相続登記を巡ってトラブルに発展しているなら弁護士の相談先が適しています。
相続人間の交渉や法的なトラブル解決ができるのは、弁護士だけです。トラブルのある相続登記ならまずは、弁護士に相談するようにしましょう。
長年不動産の相続登記をしていなかった
相続登記は義務ではないため、長年放置しているケースも少なくありません。
相続登記しようとしたら、所有者が大正や明治で止まっているケースや相続人が膨れ上がって把握しきれないというケースも珍しくないのです。そのようなケースで相続登記する場合、必要書類が収集できないなど手続きが煩雑になるので司法書士に相談することをおすすめします。
手続きは煩雑になるけどトラブルに発展していないのであれば、まずは、司法書士に相談するとよいでしょう。
注意点・相談前に知っておくべきこと
ここでは、専門家に相談する前に知っておくべきこととして次の6つを解説します。
- 遺言書の有無や相続人・財産状況は事前に把握しておく
- 相談内容を明確にしておく
- 相談先によって費用は異なる
- 相続関係に強い専門家を選ぶ
- 相続人でないと相談できない場合もある
- 相続手続きによっては期限がある
遺言書の有無や相続人・財産状況は事前に把握しておく
相続の相談は、相続全体の情報を提供しなければ適切な解決が図れません。
相談先によっては、相談時に遺言書の有無や財産状況・相続人を確認される場合もあります。状況が把握できていないと、その場で相談がスムーズに進められない可能性もあるでしょう。
事前に相続に関する情報を整理しておくと、スムーズに相談ができます。
相談内容を明確にしておく
相談先にもよりますが、1回で相談できる時間は30~60分ほどです。
相談内容があいまいでは、相談したいことを説明するだけでも時間がかかって納得いく回答を得られない可能性があります。また、必要な資料が足りずに次回に持ち越しとなるケースも少なくありません。
時間内で効率よく相談するためには、相談内容を明確にして必要な資料を揃えておく必要があります。相談内容を明確にしていても緊張やうっかりで漏れが出てしまう可能性もあるので、事前にメモでまとめておくとよいでしょう。
相談先によって費用は異なる
相談先によって無料・有料は異なります。
自治体の相談窓口や相談会などは、基本的に無料で利用できますが、専門家は相談の段階から費用が発生するケースもあるので注意しましょう。専門家も依頼先や内容によって、費用は異なってきます。
専門家でも初回相談無料の場合も多いので、無料相談を活用するのもおすすめです。
相続関係に強い専門家を選ぶ
専門家であっても、得意・不得意は異なります。相続に関する相談であれば、相続に強い専門家を選ぶようにしましょう。
ホームページで専門分野や実績を確認できるので、自分の悩みに合っているかを確認したうえで相談することが大切です。
相続人でないと相談できない場合もある
相続登記の相談は、相続登記する本人のみからしか受け付けていないケースが多いので注意が必要です。
事前に相談者の制限について確認しておくようにしましょう。
相続手続きによっては期限がある
相続登記を含めて、相続手続きには期限があるものも少なくありません。いつか相談しようと放置していると、間に合わない可能性もあるので相談するなら早めに相談することをおすすめします。
主な期限のある手続きは下記の通りです。
- 相続放棄:相続開始から3か月以内
- 限定承認:相続開始から3か月以内
- 準確定申告:相続開始から4か月以内
- 相続税の納税:相続開始から10か月以内
- 相続登記(令和6年4月1日以降):相続開始から3年以内
期限内に必要な手続きを終えられるように、早めに相談して手続きを進めていくようにしましょう。
相続登記は専門家に相談して速やかに手続きしよう
相続登記は、令和6年4月1日から義務化されたので速やかな手続きが必要です。
相続登記の手続きが分からない・書類は何が必要と悩んでいる間にも時間は進んでしまい、手続きが煩雑になったり期限を超えてしまう恐れがあります。
スムーズに相続登記を進めたいのであれば、司法書士などの専門家に相談することから第一歩を踏み出すとよいでしょう。