相続登記を自分で行う場合の手続き方法を解説します

公開日:2023年12月5日|更新日:2025年7月30日

自分で建物・土地などの不動産を相続登記の手続きをする方法を6ステップで解説!_サムネイル

相続が発生した際、多くの方が直面するのが不動産の名義変更手続きです。この手続きは「相続登記」と呼ばれ、令和6年4月から義務化されたことで注目を集めています。本記事では、相続登記の基本から自分で行う具体的な手順、注意点、費用まで詳しく解説します。適切な知識を身につけて、確実な手続きを進めていきましょう。

相続登記とは

相続登記とは、亡くなった方が所有していた不動産の名義を相続人の名義に変更する手続きのことです。

国内の不動産情報は法務局の登記簿に記録されており、この登記簿で所有者や権利関係を確認できます。しかし、所有者が亡くなったとしても法務局で自動的に名義変更されるわけではなく、権限のある人が「相続を原因とする所有権移転登記」を申請しなければなりません。

例えば、父親名義の家を長男が相続した場合、相続人である長男が管轄の法務局に申請し、相続登記を行います。

相続登記を行うことで所有権の移転が公的に記録され、第三者に対しても権利を主張できるようになります。

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相続登記が義務化されました

令和6年4月1日より、相続登記の申請が法的義務となりました。これまでは相続登記に法的な義務がありませんでしたが、現在は不動産を相続したらかならず相続登記をする必要があります。

相続登記には期限があり、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記申請を行わなければなりません。そして、この期限を正当な理由なく過ぎてしまった場合、10万円以下の過料が課せられる可能性があります。

相続登記を実施する手段と方針

相続登記は法務局で実施する手続きであり、申請に特別な資格はいりません。そのため、専門家でなくても相続人自身が自分で手続きを進めることも可能です。

しかし、相続登記には法的知識が必要な部分もあるため、専門家へ依頼して行う場合が多いです。

どちらの方法にもそれぞれメリット・デメリットがあるため、状況に応じて適切な手段を選択することが大切といえます。

専門家に任せる

相続登記申請の代理を依頼できる専門家は、司法書士と弁護士です。相続登記には法律に関する知識が必要となるため、これらの専門家に依頼することで手続きを確実かつスムーズに行えます。

どちらの専門家に依頼するかによって費用やサービス内容が異なるため、依頼する前にメリット・デメリットを把握しておきましょう。

メリット

専門家に依頼する一番のメリットは、適正な手続きを確実に行えるということです。

相続登記には登記申請書の作成が必要ですが、登記申請書には登記原因、登録免許税など、普段見慣れないような事項を記載しなければなりません。

また、相続登記には添付書類があるため、必要な書類を正確に用意して相続人を確定させる必要があります。

これらの作業をすべて自分で行うのは大変ですが、専門家に依頼すれば安心して手続きを進められます。

デメリット

専門家への依頼には費用がかかるので、相続登記にかかる費用がかさんでしまうというのがデメリットです。

司法書士・弁護士どちらに依頼する場合も費用がかかりますが、一般的に弁護士の方が司法書士よりも費用が高額であり、司法書士の報酬相場は5~15万円程度、弁護士は10~30万円程度とされています。

専門家への依頼料は一律ではありませんが、自分で手続きをすれば報酬分の費用はかからないので、相続登記にかかる費用を削減できます。

自分でやる

相続人が自分で必要書類を収集し、相続申請書を作成して法務局に提出することも可能です。この方法でも手続き自体は可能ですが、メリット・デメリットがあるため十分に理解した上で検討する必要があります。

メリット

自分で手続きを行うことの大きなメリットは、相続登記にかかる費用を抑えられることです。専門家に依頼した場合の報酬相場は先ほど説明した通り、司法書士で5~15万円、弁護士10~30万円程度であるため、自分で手続きすればこれらの費用が節約できます。

複数の不動産がある場合、専門家に支払う費用も高額化しやすいため、相続登記を自分で行うことで費用削減効果が大きくなります。

デメリット

自分で手続きを行う場合、すべての作業を自己責任で進める必要があるため、手間と時間がかかるうえに、手続き上のミスが生じる可能性もあります。手続きに不備があると法務局から補正を求められるため、余計な手間がかかります。

このように、自分で手続きを行えば費用は削減できるものの、手続き上の責任と手間はすべて自分で負担しなければなりません。

その上で、自分で相続登記の手続きをするのであれば、次章以降で解説する手続き方法を参考にしてください。

相続登記のパターン

相続にもいくつかのパターンがあり、それによって相続登記のパターンも変わります。そして相続のパターンは大きく分けると以下の3つに分類されます。

  • 遺言書による相続
  • 遺産分割協議による相続
  • 法定相続分による相続

パターンごとに相続登記の進めやすさは異なり、自分でも相続登記がしやすいパターンと、自分でやらない方がよいパターンがあります。

ここでは、それぞれのパターンにおける具体的な流れや相続登記の内容などにつき、自分でも手続きができるかどうかという観点で解説します。

なお、自分でできるパターンであっても慣れていないとミスが起こりやすいため、法的な手続きに不安がある場合は最初から専門家へ依頼し、確実に手続きをすすめることも検討するのがおすすめです。

自分でできるパターン

自分でできるパターンは、遺言書による相続と遺産分割協議による相続です。それぞれどのような内容の相続なのかを解説します。

遺言書による相続登記

遺言書の中に不動産の相続に関する有効な記載がある場合、その内容に従って遺産分割が行われます。この場合、遺言書に記載された内容どおりに相続登記を行うだけなので、手続きの流れが明確であり、自分でも比較的やりやすいパターンといえます。

なお特定財産承継遺言の場合であれば、遺言執行者に相続登記の権限があるため、相続人が自分で手続きを行う必要がない場合もあります。そのため、遺言書の内容を確認し、必要に応じて遺言執行者の有無も調べておくこととよいでしょう。

参考:民法第1014条(特定財産に関する遺言の執行)|e-Gov法令検索

遺産分割協議による相続登記

遺言書がない場合、被相続人が亡くなると不動産はいったん相続人全員の共有状態になり、遺産分割協議によって具体的な分割方法を決めることになります。そして、協議で分割方法が決まると、その合意内容を記載した遺産分割協議書が作成され、相続登記を行います。

このような相続人全員が署名・押印した遺産分割協議書があれば、それに従って相続登記ができるため、自分で相続登記することが可能です。

ただし、遺産分割協議で折り合いがつかず、全員の合意が取れない場合、弁護士に依頼して話合いを仲裁してもらうことも検討しなければなりません。

自分で行うには難易度が高いパターン

法定相続による相続登記は、自分で行うには難易度が高いパターンに分類されます。どのような相続なのか、また難易度が高い理由について解説します。

法定相続による相続登記

民法では、配偶者や子どもなどの法定相続人ごとに法定相続分が定められています。この法定相続分どおりに遺産分割するのであれば、遺産分割協議書は不要で相続登記を行えます。

ただし、法定相続分での相続登記をするには、法定相続人の範囲と法定相続分の割合を正確に確定させる必要があります。具体的には、被相続人が出生してから亡くなるまでのすべての戸籍謄本・除籍謄本を漏れなく収集しなければなりません。

戸籍謄本の内容を正確に把握することは、慣れていないと大変な作業です。そのため、法定相続による相続登記は自分で手続きを行うには向いていないパターンといえます。

トラブルが発生している場合の登記

相続人同士で意見が対立していたり、法的なトラブルが生じたりしている場合の相続登記は、自分で行うのが困難です。

例えば、遺産分割協議で折り合いがつかず、全員の合意が取れない場合などです。このような状況では相続人間で感情的な対立が生まれやすく、話し合いが長期化することも珍しくありません。

そのほか、遺言書の有効性に疑義がある場合、相続人の一部が行方不明である場合、借金などの負の遺産が発見された場合なども、トラブルに発展しやすいケースといえます。

これらのトラブルが発生している状況では、法的な知識だけでなく当事者間の利害調整や交渉スキルが必要となります。感情的になりがちな相続問題を冷静に整理し、法的に適切な解決策を見つけるためには、弁護士などの専門家に依頼して話し合いを仲裁してもらうのが有効でしょう。

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相続登記を自分で行う手順

相続登記は、以下の手順に従って進めれば自分で行うことができます。ただし、相続の内容や不動産の状況により、詳細な流れや必要書類など細かい部分は調整が必要になります。

ここでは一般的な手順を解説しますので、手続きを行う際の参考にしてください。

相続する不動産を特定する

最初に、相続する不動産を正確に特定することが必要です。固定資産税課税明細書を確認すれば、被相続人が所有していた不動産を把握できます。

固定資産税課税明細書は、毎年固定資産税の納税通知書とともに毎年送られてくるものですが、自宅に明細書が見つからない場合は市区町村役場で不動産の名寄帳を取得しましょう。名寄帳を見れば、その市区町村内で所有していた不動産を一覧で確認できます。

相続人を確定させる

つづいて、法的に有効な相続人を確定させる作業を行います。相続登記では相続人全員の戸籍謄本を提出する必要があるため、市区町村役場で戸籍謄本を収集します。

故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を揃え、相続人を漏れなく把握する必要があるため、正確に戸籍を読み解く知識がなければなりません。

遺産分割協議を行う

遺言書がなく、相続人どうしの話合いで遺産分割方法を決める場合、相続人全員で遺産分割協議を行います。協議で遺産分割の方法が決まれば、その内容を遺産分割協議書に記載し、相続人全員の署名と実印による押印を行います。

遺産分割協議書に決まった様式はありませんが、どの相続財産を誰が相続するかが明確にわかるように記載することが重要です。

必要書類を収集する

相続登記の申請には多くの書類が必要であり、それぞれ正確に準備する必要があります。基本的に戸籍謄本、住民票、不動産の評価証明書などが必要で、相続の方法によっては追加で遺言書や遺産分割協議書なども提出します。

必要書類とは

相続登記では、以下のような書類が必要です。

  • 登記申請書
  • 遺産分割協議書
  • 相続人の印鑑登録証明書
  • 不動産を相続する人の住民票の写し
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 被相続人の住民票(住民票除票)の写し
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍
  • 固定資産評価証明書
  • 相続関係説明図

上記の必要書類は相続のパターンによっても異なります。具体的には、法定相続の場合は遺産分割協議書と印鑑登録証明書は不要であり、遺言による相続の場合は遺産分割協議書と印鑑登録証明書の代わりに遺言書が必要です。

登記申請書を作成する

法務局の公式サイトから登記申請書の様式をダウンロードし、必要事項を記入していきます。登記申請書は遺産分割の方法によって様式が異なるため、自分の相続パターンに合致する様式を選択する必要があります。

法務局の公式サイトからは記載例もダウンロードできるため、そちらを参考にして記載を進めましょう。

参考:不動産登記の申請書様式について│法務局

管轄法務局で申請をする

登記申請書の作成と必要書類の準備が整ったら、法務局で登記申請を行います。不動産の所在地を管轄する法務局に申請する必要があるので、法務局の公式サイトであらかじめ確認しておきましょう。

申請方法は窓口、郵送、オンラインの3つから選択できます。申請後は約1週間で登記が完了し、不備がなければ登記完了証と登記識別情報通知書が交付されます。

参考:管轄のご案内│法務局

相続登記を自分で行う際の見落としがちな注意点

相続登記を自分で行う際の見落としがちな注意点のイメージ

自分で相続登記を行う場合、見落としがちな注意点がいくつかあります。これらのミスをすると手続きに余計な手間がかかってしまいます。

相続登記は不動産に関わる重要な手続きなので、こちらを参考に確実な手続きを行いましょう。

必要書類がすべて揃っていない

相続登記には多くの書類が必要ですが、書類が不足していると申請を受け付けてもらえません。特に戸籍謄本は複数必要になることが多く、故人の出生から死亡まで連続していることを確認する必要があります。

申請前に必要書類のチェックリストを作成し、漏れがないか十分に確認してから提出することが重要です。

書類の不備があった

書類が揃っていても、記載内容に誤りがあったり押印が不適切だったりすると、補正を求められます。遺産分割協議書は相続人全員の押印が必要であり、印鑑登録証明書と照合されます。登記申請書の内容も記載事項をよく確認し、正確に記載しなければなりません。

こうした書類の不備があると、相続登記の手続きが進まないため、提出前に何度も確認することが大切です。

自筆証書遺言の検認を受けていない

自筆証書遺言がある場合、家庭裁判所での検認手続きを受けてから相続登記を申請する必要があります。検認とは、遺言書の存在とその内容を相続人に知らせ、遺言書の偽造や変造を防ぐための手続きです。

検認を受けていない自筆証書遺言では相続登記ができないため、まず家庭裁判所に検認の申立てを行い、検認済証明書の交付を受けてから登記申請を行いましょう。

登記の完了後について

ここまでで相続登記の手続きはほぼ完了となります。法務局での処理が終われば返却書類を受け取り、手続きが完了したことを確認しましょう。

返却書類の受け取り

手続きが正しくできていれば、以下の3つの書類が法務局から郵送されてきます。

  • 登記識別情報通知
  • 登記完了証
  • 戸籍謄本の添付書類(原本還付の手続きを行っている場合)

郵送希望の記載をしていなかった場合、窓口まで書類を受け取りに行く必要があります。法務局のホームページに登記完了予定日が掲載されているので、その完了予定日以降に取りに行きましょう。

相続登記完了後は登記簿謄本を取得できるため、登記識別情報通知と合わせて保管しておくとよいでしょう。

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相続登記を自分で行う際の費用

相続登記を自分で行う場合、専門家報酬は不要ですが、必要書類の取得費用と登録免許税はかならず発生します。これらの費用は不動産の評価額や相続人の人数によって変動するため、事前に概算を把握しておくことが大切です。

ここでは具体的な費用項目と計算方法を詳しく解説します。

必要書類の取得費用

相続登記に必要な書類の取得には以下の費用がかかります。

戸籍謄本450〜750円/1通あたり
住民票・住民票除票200〜300円/1通あたり
印鑑登録証明書200〜300円/1通あたり
固定資産評価証明書300〜400円

これらの書類は、市区町村によって取得費用が異なります。また、相続人の人数や相続の方法によって必要な通数が変わるため、総額は個別の状況により変動することに留意が必要です。

登録免許税

登記申請をする際には、登録免許税を納付しなければなりません。登録免許税の額は、登記対象である不動産の評価額によって変動します。登録免許税の計算式は、以下の通りです。

登録免許税の額=課税標準額×0.4%

課税標準額は、相続人が相続するすべての固定資産税評価額を合算し、1,000円未満を切り捨てた額です。

固定資産税評価額は、固定資産課税明細書に「価格」または「評価額」として記載されており、明細書がない場合は市区町村役場で固定資産評価証明書を取得して確認できます。

評価額100万円以下の土地なら受けられる免税措置

固定資産税評価額が100万円以下の土地については、登録免許税が免税となる特例があります。

この特例は、1筆の土地ごとに判断し、土地が共有状態であれば持分の価額で100万円以下かを判定します。つまり、評価額100万円の土地が複数筆ある場合や、評価額200万円の土地でも被相続人の持分が2分の1なら、特例の対象となります。

特例の適用対象となるのは、以下の期間に該当する登記を行う場合です。

  • 平成30年11月15日~令和9年3月31日までの間に受ける土地の相続による所有権移転登記
  • 令和3年4月1日から令和9年3月31日までの間に表題部所有者の相続人が受ける所有権保存登記

なお、この免税措置を受けるには、登記申請書に「租税特別措置法第84条の2の3第2項により非課税」と記載する必要があり、記載がないと適用されません。

参考:相続登記の登録免許税の免税措置について│法務局

参考:No.7191登録免許税の税額表│国税庁

相続登記の手続きに不安を感じたら専門家へご相談ください

相続登記は令和6年4月から義務化されましたが、自分で手続きを行うことも可能です。

ただし、書類の不備や手続きミスがあると余計な時間と手間がかかります。戸籍の収集や登記申請書の作成、法定相続による登記や複雑なケースなどは、無理をせず専門家への依頼を検討することをおすすめします。

司法書士・弁護士などの専門家へ依頼する費用は5~30万円程度かかるため、遺言書や遺産分割協議による相続であれば自分で行うことも検討するとよいでしょう。

費用と手間のバランスを考え、自分の状況に最適な方法を選択しましょう。

記事の著者紹介

金田直也(ライター)

【プロフィール】

法律×マーケティングの専門家。司法試験予備試験一次合格後、二次試験最終順位は受験者総数の上位約5%。法律ライター歴5年、執筆記事1,000本以上、弁護士への取材100件以上の豊富な実績を持つ。東証マザーズ上場企業(売上高約20億円)、業界トップクラスの大手弁護士ポータルサイト運営企業をはじめ、多様なクライアントと3年以上の長期継続契約を維持。法律知識×弁護士実務への理解×コピーライティングスキルの総合力で、弁護士事務所をはじめ士業の集客・受任数増加に貢献。

【資格】

司法試験予備試験一次合格

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本記事の内容は、記事執筆日(2023年12月5日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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