不動産関係の話題で最近よく聞かれるのが「所有者不明土地」の問題。この問題は、有効な土地利用ができないということで国レベルで大きな課題となっているだけでなく、国民一人一人の権利にも大きく関わることです。この問題の対策として、令和3年2月10日に法制審議会民法・不動産登記法部会第26回会議において民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案(案)が決定され、同年4月21日の参議院本会議で成立しました。改正法は令和6年4月1日から施行されました。背景には相続登記の問題も絡んでおり非常に根が深いものですが、本章では「所有者不明土地」とはどういうものか、問題点やリスクなどについて詳しく解説し、またこれに絡めて相続登記の義務化と期限の話題についても取り上げます。
目次
「義務化される相続登記」と「住所変更登記」の改正
所有者不明土地が発生する大きな原因が、相続による名義変更登記や所有者の住所変更登記がされないまま、放置されていることで不動産の所有者が誰なのか判断できないことが大きな理由とされています。
そこで、兼ねてから相続登記を義務化することが検討されており、法案の議論もかなり進み、令和3年2月10日に法制審議会民法・不動産登記法部会第26回会議において民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案(案)が決定されました。政府は3月5日に改正案を閣議決定をし、同年4月21日の参議院本会議で成立しました。改正法は令和6年4月1日から施行されました。
相続登記の義務化について
相続登記の義務化に伴う改正ポイントは下記の通りです。
- 相続で不動産取得を知った日から3年以内に手続きを登記・名義変更をしないと10万円以下の過料の対象となる
- 相続人が遺言で財産を譲り受けた場合も同様に3年以内にしないと名義変更も過料の対象となる
- 遺産分割がまとまらず相続登記をできない場合には、相続人であることを申告をすれば相続登記をする義務は免れる。その場合には、法務局(登記官)が登記簿に申告をした者の氏名住所などを記録する(相続人申告登記(仮称))。
- 相続人申告後、その後の遺産分割協議によって不動産の所有権を取得したときは、遺産分割の日から3年以内に登記しなければならない義務が発生する。
- 相続人申告後、その後の遺産分割協議によって不動産の所有権を取得したときは、遺産分割の日から3年以内に登記しなければならない義務が発生する。
- 住民基本台帳ネットワークシステムで、法務局(登記官)が登記簿上の所有者が死亡していることを把握した場合には、所有者が死亡していることを登記簿に記録することができる。
相続登記が義務化される
不動産の所有者について相続があったときは、相続により不動産の所有権を取得した者は、相続の開始及び所有権を取得したことを知った日から3年以内に不動産の名義変更登記をしなければなりません。これに違反すると10万円以下の過料の対象となります。これは、遺言などの遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も同様です。
法改正以前の相続登記未登記物件にも適用される
この相続登記義務化は、法改正後に発生した相続のみならず、法改正以前から相続登記をしていない不動産についても適用があります。
民法等の一部を改正する法律 附則
第5条
6 第二号新不動産登記法第七十六条の二の規定は、第二号施行期日前に所有権の登記名義人について相続の開始があった場合についても、適用する。この場合において、同条第一項中「所有権の登記名義人」とあるのは「民法等の一部を改正する法律(令和三年法律第 号)附則第一条第二号に掲げる規定の施行の日(以下この条において「第二号施行日」という。)前に所有権の登記名義人」と、知った日」とあるのは「知った日又は第二号施行日のいずれか遅い日」と、同条第二項中「分割の日」とあるのは「分割の日又は第二号施行日のいずれか遅い日」とする。
※引用元:法務省HP
では、いつまでに相続登記をしなければならないかというと、原則、改正法の施行日から3年以内に行う相続登記をする必要があります。
改正法附則の条文では「”知った日”又は”施行日”のいずれか遅い日」と規定されており、自分が相続により不動産の取得を知った日が遅ければ「知った日から3年以内」に相続登記をすればよいとされています。例えば、先代が自宅やアパート以外にも地方に山林など所有していたことを今まで知らず、法改正後に相続していたことを知った場合には、改正法の施行日から3年ではなく、不動産の相続を初めて知った日から3年以内に相続登記する義務を負います。
遺産分割後の名義変更登記も義務化される
相続人間の遺産分割がまとまらず、速やかに相続登記ができないときは民法で定める法定相続人が法定相続分で登記を行うことにより、当初の義務を免れることができます。しかし、そのままだと法定相続割合での不動産の共有となってしまいます。そこで、法定相続分による相続登記後、遺産分割協議を行うことにより遺産分割で取得した相続人は、その名義変更登記を行う必要があります。この遺産分割による名義変更登記においても、遺産分割の日から3年以内に登記をすることが義務づけられます。
相続人申告登記(仮称)が設けられる
家族の内容によっては、遺産分割協議による相続人間の合意形成がなかなかまとまらない場合もあります。その場合において、相続登記義務を免れるために、遺産分割がまとまるまで法定相続分での登記手続きを行うことには手間とコストがかかります。
そこで、遺産分割がまとまらず速やかに相続登記をできない場合には、相続人であることを申告をすれば相続登記をする義務は免れる制度(相続人申告登記(仮称))が設けられました。この制度が利用された場合には、法務局(登記官)が登記簿に申告をした者の氏名住所などを記録します。
ただし、この相続人申告登記は相続登記そのものではないので、あくまで義務を免れることができる予備的な制度にすぎません。そのため、所有権が亡くなった方(被相続人)から相続人に権利が移転したということを示すものではなく、あくまで「登記簿上の所有者」が亡くなったことを示しているに過ぎないという登記手続きです。
後日、遺産分割協議が成立し、不動産を相続する相続人が決まった場合には上記で述べたように遺産分割の日から3年以内にその名義変更登記を行う必要があります。
義務化に伴う登記手続きが一部簡略化される
相続人に対して相続財産の一部を遺贈する内容の遺言があった場合には、不動産の遺贈を受ける者以外に法定相続人全員(遺言執行者がいるときは遺言執行者)の協力がないと遺贈による名義変更手続きができませんでした。協力をしない相続人等がいると義務を履行できないため、改正後は遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)による名義変更は、不動産の遺贈を受ける者が単独で申請することができるようになります。
また、法定相続分による相続登記後、遺産分割による名義変更登記も、他の相続人の協力がなければ名義変更ができなかったのが、法改正により、不動産を取得した者の単独で申請することができるようになります。
法務局が住基ネットで把握した死亡情報を登記できる
住民基本台帳ネットワークシステムで、法務局(登記官)が登記簿上の所有者が死亡していることを把握した場合には、法務局(登記官)の判断で所有者が死亡していることを登記簿に記録することができます。ただし、あくまで死亡情報のみを記録するのみで、その相続登記の義務は免れることはできません。
住所変更登記の義務化について
住所変更登記の義務化に伴う改正ポイントは下記の通りです。
- 個人のほか、会社などの法人が住所・氏名・名称変更した場合における住所氏名変更登記が義務化され、2年以内に手続きをしなければ5万円以下の過料の対象になる
- 法務局(登記官)が住民基本台帳ネットワークシステム又は会社などの法人情報を管理する商業・法人登記のシステムから所有者の氏名及び住所についての変更の情報を把握したときは、その住所、氏名などの変更登記ができる。ただし、所有者が個人の場合には、個人への意向確認と承諾が必要。
住所等の変更登記が義務化される
登記上の所有者の住所・氏名・名称変更についても義務化されます。その登記簿上の住所や氏名、名称の情報が更新されておらず、現在の居所がわからないことも所在不明土地の原因とされているからです。所有者の氏名、住所、名称について変更があったときは、その変更があった日から2年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければなりません。これに違反すると5万円以下の過料の対象となります。
法改正以前の住所等の変更未登記物件にも適用される
この住所等の変更登記義務化は相続登記義務化と同様に法改正後に発生した住所等の変更のみならず、法改正以前から住所等の変更登記をしていない不動産についても適用があります。
民法等の一部を改正する法律 附則
第5条
7 第二条の規定(附則第一条第三号に掲げる改正規定に限る。)による改正後の不動産登記法(以下この項において「第三号新不動産登記法」という。)第七十六条の五の規定は、同号に掲げる規定の施行の日(以下「第三号施行日」という。)前に所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があった場合についても、適用する。この場合において、第三号新不動産登記法第七十六条の五中「所有権の登記名義人の」とあるのは「民法等の一部を改正する法律(令和三年法律第 号)附則第一条第三号に掲げる規定の施行の日(以下この条において「第三号施行日」という。)前に所有権の登記名義人となった者の」と、「あった日」とあるのは「あった日又は第三号施行日のいずれか遅い日」とする。
※引用元:法務省HP
改正法附則の条文では「”変更のあった日”又は”施行日”のいずれか遅い日」と規定されており、法改正以前から住所等の変更をしていない場合には施行日から2年以内に行う住所等の変更登記をする必要があります。
法務局が住基ネット、商業・法人登記システムで把握した住所変更情報を登記できる
法務局(登記官)が住民基本台帳ネットワークシステム又は会社などの法人情報を管理する商業・法人登記のシステムから所有者の氏名及び住所についての変更の情報を把握したときは、法務局(登記官)の判断で、その住所、氏名などの変更登記ができるようになります。ただし、所有者が個人の場合には、個人への意向確認と本人からの申し出が必要です。
所有者情報など連絡先の把握について
所有者情報など連絡先の把握に伴う改正ポイントは下記の通りです。
- 新たに不動産の所有権を取得する個人は、名義変更登記時に生年月日等の情報の提供が義務化される。生年月日は登記簿には記録されないが、法務局内部において検索用データとして保管される。
- 所有者が会社など法人であるときは、商業・法人登記のシステム上の会社法人等番号が登記簿に記録される。
- 海外居住者は、その国内における連絡先(第三者も含む)の申告が必要。その連絡先が登記簿に記録される。
- 所有している不動産の一覧情報(所有不動産記録証明書(仮称))を本人又は相続人から法務局に対して交付を請求できる。
個人は、名義変更登記時に生年月日等の情報の提供が必要
新たに不動産の所有権を取得する個人は、名義変更登記時に生年月日等の情報の提供が義務化されます。
個人の生年月日は登記簿には記録されませんが、法務局内部において登記官は、氏名、住所、生年月日などの情報を元に住民基本台帳ネットワークシステムに定期的に照会及び検索用のキーワードとして利用される予定です。
商業・法人登記のシステム上の会社法人等番号が登記簿に記録される
所有者が会社など法人であるときは、商業・法人登記のシステム上の会社法人等番号が登記簿に記録されます。
海外居住者は、その国内における連絡先(第三者も含む)を申告が必要
不動産を取得する者が海外居住者の場合には、その国内における連絡先となる者の氏名又は名称等の申告及び登記が必要となります。連絡先としては第三者も指定することができますが、その第三者は日本国内に住所を要することが要件とされています。
被害者保護のための住所情報の公開の見直し
登記記録に記録されている者(自然人に限る。)の住所が明らかにされることにより、人の生命若しくは身体に危害を及ぼすおそれがある場合などの事由があるときは、その者からの申し出により、法務局から交付される登記事項証明書に住所を公開せず、住所に代わる事項を記載した登記事項証明書が交付されます。
所有不動産の一覧情報(所有不動産記録証明書(仮称))が発行される
所有している不動産の一覧情報(所有不動産記録証明書(仮称))を本人又は相続人から法務局に対して交付を請求できるようになります。
今までは不動産の所有財産の一覧を調べるには、不動産ごとの所在地にある市区町村役場で固定資産税評価証明や名寄せを取り寄せるなどの必要がありました。しかし、固定資産税が課税されていない不動産については、記載されていないなど問題がありました。
そこで、法務局で自らが所有者となっている物件の明細(所有不動産記録証明書(仮称))を取り寄せることができるようになります。
ただし、この証明書は、その時点における登記簿に記録されている所有者の氏名又は名称及び住所は過去の一定時点のものであり、必ずしもその情報が更新されているものではないことなどから、あくまでこれらの情報に一致したものを一覧的に証明するものであり、正確な網羅ができるかどうかは技術的な問題があるとされています。
なぜ、相続登記義務化がされるのか?
まず所有者不明土地の概念ですが、国土交通省によれば「不動産登記簿等の所有者台帳により、所有者が直ちに判明しない、又は判明しても所有者に連絡がつかない土地」を所有者不明土地と定義しています。
通常、土地など不動産の所有者は「不動産登記簿」で確認することができますが、様々な理由で登記簿に正しい情報が反映されないケースが多くなっています。これによって土地の所有者がだれであるのか分からない、名前が確認できたとしても居所がつかめないという事案が多発しているのです。
登記簿に正しい情報が反映されなくなる理由はいくつかありますが、一番の理由は相続登記がされないケースが多いためと考えられています。平成30年版国土交通書土地白書によると所有者不明土地が発生する大きな原因として、不動産の相続登記がされないことが約66.7%、そして約32.4%が住所変更登記がされないことして上げられています。
現状では相続登記は義務ではないので、手間や登記費用の出費を嫌ったり、遺産分割協議が面倒、法定相続人間の話し合いがまとまらないなどの理由で登記されないまま放置されるケースが多くなっています。その状態で所有者が死亡し、代替わりが続いていけば相続人は鼠算式に膨れ上がり、もはや誰に所有権があるのか分からないということになってしまうのです。また、不動産の所有者の住所変更登記も義務化されないことから、住民票上の住所を変更しても不動産登記簿の住所が反映されておらず、所有者への連絡をとろうとしても所有者の居所がわからないという問題も発生しています。このように相続や住所変更があっても登記が義務化されていないので所有者がどこにいるのか、現在生存しているのかわからないという不動産が多く発生してしまっているのです。
この問題を国や自治体から見た場合、例えば公共用地として土地を取得したいのにその交渉相手が判明せず国土として利用できない、災害対策の工事が必要だが対象土地の権利者が不明で話を進められないということになり、実際に現実の問題として起きている状況です。
また民間同士でも、例えば、空き家となっている不動産を売却したい、街の賑わい創出のために土地を利用したいなど公共性のある事業の話が持ち上がっても、土地所有者が不明では話を進められません。国土交通省の報告によれば、日本全体で所有者不明土地は約410万ヘクタールに相当するとされており、これは九州の土地面積を上回る数値です。また、民間の取引でも、所有者のうち一人が行方不明、所在不明という状態が発生すると、その人の同意が得られないと空き家、空き地である不動産を売却したり、有効活用ができないという問題も発生します。
国や自治体のみならず民間にとっても、国土、不動産の有効利用を妨げられることになり、経済や国力の維持など多方面への影響が危惧されているのです。
所有者不明の土地になってしまうと何が困るのか?
では国民一般から見た場合、所有者不明土地を保有することで具体的にどんなことで困るのか考えてみましょう。不動産の売買では対象不動産の所有者を確認しなければならないので、必ず登記簿を取って所有者を確認します。
土地の売却ができない
相続登記や住所変更登記が放置されていて登記簿で売主の名義が確認できなければ、購入希望者は危険を感じて取引に応じてくれないでしょう。
利用・活用ができない
例えば相続対策でアパートを建てて運用したいといったとき、ハウスメーカーは土地の権利者を正確に知るために登記簿で確認します。所有者の名義が確認できなければ、やはり業者側が危険を感じて取引には難色を示すはずです。
このため売却だけでなく不動産活用も難しくなります。
抵当物件として利用できない
融資を受ける場合には、一般的に建設予定地を金融機関に担保として提供します。相続対策で建築するために土地を担保に出したい場合も、金融機関は必ず登記簿で土地の名義人を確認します。正確な所有者を確認できなければ、金融機関は抵当物件として利用することを拒絶するはずです。
正しい相続ができない
数代にわたって相続登記が放置されているケースでは、被相続人となる人が相続登記が放置されている物件の共有持ち分を仮に保有していたとしても、どれくらいの持分なのか不動産登記簿から確認できませんし、実際にはそもそも持分を保有していない可能性もあります。
遺言書を書くにしても、相続対象となる財産を正しく指定できないことから、遺言の内容の一部が無効になってしまったり、場合によっては遺言全体が無効になってしまう可能性も出てきます。
親が所有している土地に相続未登記不動産があった場合は?
もし、あなたの親が保有する土地が代々相続登記が放置されているなどで正しい所有者が確認できない場合、これまで述べてきたような権利関係の複雑化から不動産の売却や活用ができないといった問題のほかに、今後は、相続登記や住所変更登記の義務違反による罰則(過料)の問題が生じ困ってしまうことになるでしょう。ですから、もし、現時点で相続や住所変更による相続登記や住所変更登記をしていない場合には、速やかに、正しい所有者を登記簿に反映させる必要があります。
相続登記と住所変更登記は、不動産の所在地の法務局で行う
不動産の名義を変更するには、法務局で登記手続きを行う必要があります。
不動産の相続登記登記は全国どこの法務局でも申請できるわけではなく、「不動産の所在地の法務局」で申請します。申請の方法は、①法務局の窓口での申請のほか、②郵送での申請、③オンラインでの申請という3つの方法があります。
郵送申請では申請書や必要書類など専門的知識を有する部分が多いため、間違いがあった場合の訂正対応が難しいこと、オンラインでの申請においては事前に電子証明書などの取得が必要なため、司法書士などの登記の専門家に依頼することが一般的です。一般の方が自分で行う際には、法務局での窓口申請で行います。
必要書類を集め、登記申請書を作成する
登記手続きの一般的な流れは下記の通りです。
- 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本や住民票、固定資産評価証明書などの必要書類を集める
- 登録免許税の税額を計算して登記申請書を作成する
- 申請書と必要書類を法務局に提出して登録免許税を納付する
登記手続きの内容によって、必要な書類や登記申請書の内容も変わってきます。手続きの流れや必要書類は、管轄の法務局にあらかじめ確認するようにしてください。
戸籍謄本は亡くなった方の本籍地の市区町村役場で取得でき、住民票は住所地の市区町村役場で取得できます。必要書類の収集にかかる実費として一般的には概ね2〜3万円ほどかかります。この金額は相続人が増えれば増えるほど必要な書類が増えるので、その集めなければならない書類数に応じて変わります。
登録免許税を計算し、納付する
不動産登記を申請するとき、登録免許税を支払う必要があります。
相続登記においては、相続する不動産の固定資産評価額に応じて、税額が変わります。登録免許税の税率は0.4%です。固定資産評価証明書に記載された額の1,000円未満を切捨てて税率0.4%を掛けて、100円未満を切捨てた額が登録免許税の税額を納付します。
仮に、評価額が3,000万円の不動産であれば12万円の登録免許税がかかります。
住所変更登記については不動産の個数(登記簿の数)1つにつき、1,000円です。
司法書士に依頼した場合の費用
司法書士に登記を依頼した場合の目安として、上記で説明した実費のほかに一般的な相続登記では10万円程度、住所変更登記では2万円程度の報酬がかかります。
ただし、権利関係が複雑化し、相続人が多数登場するようなケースでは案件に応じて費用も変わってくる可能性があります。
自分ですべての書類を収集し、法務局で登記を行うにはそれなりに手間と時間がかかるので、時間がない方は司法書士に依頼するということも一つの方法です。
相続登記を先延ばししてしまうと更に複雑化してしまうかも
相続登記の放置がまだ1世代程度で、過去の相続権利者が生存しているのであれば、遺産分割協議を行って所有者を確定し、正しい登記内容に変更することは十分可能です。
もし何世代にもわたって相続登記が放置されている場合、遡って問題を処理するのは非常に困難になります。実際に当事務所でも取り扱った相談事例では、明治時代から相続登記がされていない事例もあり、世代を追って相続人を調査した結果100名超の相続人が登場し、その合意をとるために個別の合意や裁判手続きを経て2年超の期間を経て名義変更手続きを行ったこともあります。このように、相続登記を怠ってしまった結果、専門家でも対処しきれないことがあるので、相続登記の放置は気づいた時点でできるだけ早く問題の処理に動く必要があります。
所有者不明土地を減らすために国はどんな対策をしている?
さて、これまで見てきたように所有者不明土地は国レベルでも、また民間レベルでも問題の種となっていることから、これに対応するため、いわゆる「所有者不明土地法」(所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法)が作られ、すでに平成30年6月に施行されています。
ただし、この法律の大枠の性質としては、国や自治体、あるいは民間の事業者が国土としての土地を有効利用しやすくするために作られた法律です。その土地を今現在所有している人が抱える問題を解決するという性質のものではないので、この点は理解しておく必要があります。
つまり、売却や利活用、抵当物件として土地を利用できないといった問題を解決するためではなく、国や自治体が行う様々な施策に所有者不明土地を利用できるようにしたり、民間の事業者が公共性のある事業について、所有者不明土地の所有者を探し出す手間なく利用できるようにするのが目的です。
この法律によって可能となった取り組みを以下に挙げて確認します。
平成30年11月15日施行分
民法の特例として、所有者不明土地の管理のために特に必要がある場合に、地方公共団体の長が家庭裁判所に対して財産管理人の選任等を請求することができるようになりました。
平成30年11月15日施行分
土地所有者の探索を合理化する仕組みとして、固定資産税課税台帳や地籍調査票などの公的な情報を行政機関が利用できるようになり、また法務局の登記官が長期間相続登記等がされていない土地について、長期相続登記等未了土地である旨を登記簿に記録することができるようになりました。
令和元年6月1日施行分
反対する権利者がおらず、建築物(一定の簡易小規模なものを除く)がなく、現状で利用されていない土地を「特定所有者不明土地」と位置づけ、以下の仕組みが構築されました。
- 土地収用法に基づき特定所有者不明土地を収用する場合、これまでよりも手続きが簡略化され、知事の決済で土地を取得できるようになりました。
- 自治体だけでなく民間事業者も含めて、公共性の高い事業(地域福利増進事業)を行うために土地を使用したい場合、知事の裁定を受けることで最長10年の使用権を設定することができるようになりました。
公園や広場を整備する事業や、住民の共同の福祉や利便性の増進に寄与する事業を行いたい場合、土地の所有者が分からず交渉ができなくても、手続きを取ることで一定期間土地を使用することができます。ただし使用後には土地を原状回復する義務があります。
まとめ
今回の記事では増え続ける「所有者不明土地」について、当該土地を保有する人に生じる問題点や対応方法、国による対応策などを見てきました。今後、相続登記と住所変更登記の義務化が進む方向です。義務化されるまでにできる対策を早めに行っていきましょう。