親などが死亡したら、銀行の「預金口座」はどのような相続手続きをすればよいのでしょうか?
銀行口座の解約や名義変更などの相続手続き際に、「口座凍結」や「休眠口座」という言葉を聞くと、「死亡したらすぐに引き落せなくなるのか?」と不安に感じる相続人もいるかもしれません。
こちらの記事では「口座凍結」などの言葉の意味を始めとして、死亡した人の名義で銀行の預金口座を、問題なく遺産相続するためのお役立ち情報を提供します。また、相続手続きの流れや必要書類に加えて、知っておきたい注意点や取っておきたい身近な対策についても解説していきます。
目次
金融機関の相続手続き全体の流れ
銀行などの金融機関で名義変更などの相続手続きを、相続人がどのような流れで行うべきか解説します。相続人が取る主な手続きの流れは次の通りです。
- 金融機関へ連絡
- 必要書類の準備
- 必要書類の提出
- その他手続き:農協などでの払い戻し・残高証明書の発行
正しい流れで名義変更などの相続手続きを行わないと、預金口座から遺産を相続できません。とくに、相続人が面倒だと感じる手続きが必要書類の準備で、最も時間を要します。預金口座の名義変更といった相続手続きにかかる期間は、1週間~数週間を見込んでおきましょう。
また、金融機関での相談手続きを行う上で、前提として知っておきたいのが預金口座の相続方法には2種類あるということ。1つは死亡した人の預金口座の名義変更をして、相続人が継承する方法。もう1つは預金口座を解約して、預貯金の払戻しを受ける方法です。一部の銀行では、払戻ししか対応していないケースもあります。
それでは、預金口座の名義変更などの相続手続きを上記の流れに沿って行っていきましょう。
金融機関への連絡
自分の親などが死亡した際に、相続人が最初に相続手続きで取るべき行動の1つが「金融機関への連絡」。その理由は、預金口座の名義人が死亡した際に、口座凍結を行うことで預貯金を守るためです。
「口座凍結」とは、死亡した人の名義で預金口座を守るために、預金口座から現金の引き出し・引き落とし・振込などの一切の取引ができなくなる状態を指します。銀行などの金融機関は、名義人が死亡したという連絡を受けたら、預金口座の凍結を即日実行します。
間違えやすい注意点が、死亡届を市区町村役場に提出しても、預金口座の凍結は行われないということ。市区町村役場と銀行などの民間企業の情報は連携していないため、死亡届を提出すれば、一括で相続関連の手続きが完了するというわけではありません。したがって、自分から銀行などの金融機関に、預金口座の名義人が死亡した事実を報告しましょう。
ちなみに、金融機関への報告方法は「Web・電話・来店・郵送」などがあります。最近では、Webや郵送での手続きをメインにしている金融機関もありますので、事前に金融機関のホームページで調べておくといいでしょう。もし、来店する場合は、取引店にWebや電話などで来店予約をしておくと、その後の手続きもスムーズに進むはずです。
必要書類の準備
銀行などの金融機関で、名義変更などの相続手続きをするための主な必要書類は次の通りです。
- 通帳およびキャッシュカード
- 遺産分割協議書
- 相続人全員分の戸籍謄本
- 相続人全員分の印鑑登録証明書
銀行などの金融機関によって、必要書類は若干異なりますが、ほとんどの場合は共通しています。上記に加えて、各銀行所定の「相続手続き依頼書」が必要です。主要な銀行の「相続手続き依頼書」の名称は次の通りです。
- ゆうちょ銀行:相続確認票
- 三菱UFJ銀行:相続届
- 三井住友銀行:相続に関する依頼書
- みずほ銀行:相続関係届書
「相続手続き依頼書」は各銀行で名称こそ異なりますが、法定相続人全員に関する必要事項の記入と署名捺印など共通している部分が多いです。そのため、各銀行所定の「相続手続き依頼書」は、実質的に同じ役割を果たす書類であるといえます。
さらに、上記の必要書類に加えて、「遺言書」や「遺産分割協議書」があるかどうか、そして「遺言執行者がいるか」といった条件により、準備する必要書類は変動します。なお、金融機関に提出する必要書類の詳細については、「金融機関に提出する必要書類」の段落にて解説しますので、そちらもあわせてご確認ください。
必要書類の提出
収集した戸籍謄本などの必要書類を金融機関に提出します。必要書類に不備がないように、提出する前にもう一度内容を確認しましょう。提出方法は、金融機関の取引店に来店し、窓口に直接提出する方法がメインですが、郵送でも対応しているケースもあります。
銀行によって提出する必要書類が異なりますので、名義人が死亡したという連絡を入れるタイミングで一緒に確認しておくとよいでしょう。
その他手続き:払い戻し・貸金庫の解約・残高証明書の請求など
必要書類を提出した後に、死亡した人の名義になっている銀行によっては、その他にも相続手続きが発生することがあります。
もし、銀行以外の「信用金庫・信用組合・労働金庫・農協(JA)」などの金融機関で預金口座を作成する場合、口座開設時に出資をして会員(組合員)にならなければなりません。
出資金は解約すると払い戻されますが、出資金(出資配当金)の払戻手続きが完了するタイミングは、年に1回の3月や12月といった「決算月」の後になることが多いです。したがって、預貯金の払戻のタイミングと異なり、数か月経過しないと出資金の払い戻しや、配当金の受け取りができない場合があるので注意しましょう。
死亡した人が銀行と「貸金庫契約」をしていた場合、契約者が死亡すると解約手続きをしなければならないため、相続手続きが発生します。貸金庫の中身に、遺言書などの重要な財産が収められている可能性があります。解約手続きの前に行う貸金庫の中身の確認手続きは、申請から1か月ほどの日数を要することもあるため、相続手続きを滞りなく進めるためにも早めに手続きを行ってください。
死亡した人が貸金庫を契約していたかの確認方法は、通帳に「カシキンコ」「キンコシヨウリョウ」などの記載があるかどうかで確認できます。なお、貸金庫の中身を確認する際に、基本的に相続人全員の同意が必要なケースがほとんどです。金融機関によっては、同意だけでなく相続人全員の立ち会いが必要なケースもありますので注意しましょう。
ちなみに、相続税申告で必要となる残高証明書の請求については、各銀行または各支店によって発行方法や発行日数が異なります。死亡した人の名義になっている銀行を把握して、死亡した時の残高証明書の請求方法を問い合わせて確認しましょう。
金融機関に提出する必要書類
金融機関の相続手続きで必要となる書類は、条件によって変わります。一番大きな判断基準となるのが、遺言書の有無。遺言書がない場合は、遺産分割協議書が行われていれば、遺産分割協議書も出しましょう。
必要書類の分類はややこしい一面があり、たとえば戸籍謄本1つを取っても、死亡した人のものか、相続人のものかが条件によって異なるのです。必要書類の収集が一番大変な作業となるので、専門家にお願いすることを検討に入れてもよいといえます。
遺言書があるケースの必要書類
死亡した人の遺言書があるケースで、預金口座の相続手続き上、必要となる書類は次の通りです。遺言書の内容に「遺言執行者」が指定されているかどうかでも若干異なります。
- 銀行所定の相続手続き依頼書
- 預金通帳とキャッシュカード
- 遺言書
- 検認調書、または検認済証明書
- 受遺者、または遺言執行者の印鑑登録証明書
- 遺言執行者の選任審判書謄本(※家庭裁判所に選任された場合)
- 死亡した人の戸籍謄本または戸籍全部事項証明書(死亡記載のもの)
遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。公正証書遺言以外の場合は、家庭裁判所で「検認」という作業が原則必要です。「検認」とは、遺言書の存在を相続人に明らかにし、また遺言書の偽造・変造を防止するための手続きのこと。
遺言書の取り扱いの注意点として、検認作業が完了する前に遺言書を開封してしまうと5万円以下の過料に課せられてしまうことが挙げられます。ただし、内容自体は無効にはなりません。
「検認調書、または検認済証明書」は、遺言書の検認を証明するための書類として必要です。ただし、自筆証書遺言であっても「自筆証書遺言書保管制度」を利用していれば、検認は不要になります。
印鑑証明書については、「受遺者(じゅいしゃ)」または「遺言執行者」のもので、一般的には、発行日から6か月以内の印鑑証明書が必要となります。ただし、期間については金融機関により取扱いが異なりますので確認しておきましょう。
「受遺者」とは、遺言書に遺産の受取人として指定されている人のこと。一方で、「遺言執行者」とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人です。遺言執行者の選任方法は、遺言書で指定されるか、遺言書で遺言執行者を“決めてもらう人”を指定するか、家庭裁判所に選任されるかの3パターンがあります。
いずれにせよ、遺言執行者が指定されている場合、相続手続きを担当するのは受遺者ではなく遺言執行者。なお、遺言執行者が家庭裁判所により選任された場合は、「遺言執行者選任審判書謄本」が追加で必要となるので覚えておきましょう。
「死亡した人の戸籍謄本または全部事項証明書」については、「法定相続情報証明制度」を利用すれば、戸籍謄本の代わりに「法定相続情報一覧図」を提出すれば問題ありません。
戸籍謄本と戸籍全部事項証明書は、名称が違うだけで同じ証明書です。各自治体が戸籍情報を電子化(データ化)して管理している場合、「戸籍全部事項証明書」という名称になります。つまり、戸籍謄本と戸籍全部事項証明書の違いは、戸籍情報が電子化されているかどうかです。
このように必要書類はケースによって細かく分かれるため、面倒だと感じた場合は専門家に必要書類の収集をお願いすることを検討してもよいかもしれません。
参考:法務省「自筆証書遺言書保管制度について」、法務局「「法定相続情報証明制度」について」、一般社団法人 全国銀行協会「預金相続の手続に必要な書類」
遺言書がないケースの必要書類
死亡した人の遺言書がないケースで、預金口座の相続手続き上、必要となる書類を解説します。遺言書がないケースでの必要書類は次の通りです。
- 銀行所定の相続手続き依頼書
- 預金通帳とキャッシュカード
- 遺産分割協議書(※遺産分割協議を行っている場合のみ)
- 死亡した人の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍謄本・改正原戸籍を含む)
- 相続人全員の戸籍謄本または戸籍全部事項証明書
- 相続人全員の印鑑登録証明書
遺言書がない場合、遺産分割協議を行っていれば、「遺産分割協議書」を必要書類として提出しましょう。「遺産分割協議書」は、遺産分割協議で合意した内容をまとめた文書です。法定相続人全員の実印による押印が必要です。
また、法定相続人の範囲を調査するために、死亡した人のこれまでの戸籍をすべて証明する必要があります。人は生まれてから死亡するまで、1つの戸籍に属し続けるとは限りません。たとえば、結婚や養子縁組をして本籍地が移動すると、その人は別戸籍に編入します。他にも、法律による戸籍簿の改製がされたときも同様に「戸籍簿」が切り替わります。
このように、死亡した人が今までどのような戸籍に属していたのか変遷(履歴)を確認するために、「出生から死亡まで記載された戸籍謄本」が必要となるのです。死亡した時点で取得する「戸籍謄本」は、あくまでも死亡した時点だけの戸籍の状態を証明するに過ぎないため、死亡した人が生まれた時の古い戸籍までさかのぼり、調査しなければなりません。
そして、「出生から死亡まで記載された戸籍謄本」に付随して必要となるのが、「除籍謄本」や「改正原戸籍」です。
まず、「除籍謄本」とは、簡単にいうと「誰もいなくなった戸籍」であることを証明する書面。除籍が、結婚や死亡などでそれまでいた戸籍から抜け、在籍しなくなっていることを意味します。つまり、除籍謄本とは「その人が除籍されている状態の戸籍謄本」ともいえます。
次に、「改正原戸籍(かいせいげんこせき)」とは、戸籍法が改正される前の戸籍である「原戸籍」に記載されている戸籍。戸籍に関する法律である戸籍法は改正が行われる度に、戸籍の様式も変更がされてきました。死亡した人の戸籍の様式に変更がある場合、その変更される前の古い戸籍を証明するために必要になるということです。
遺言書がない場合の「印鑑登録証明書」と「戸籍謄本または戸籍全部事項証明書」については、相続人全員分のものを用意します。「印鑑登録証明書」や「戸籍謄本または戸籍全部事項証明書」については、金融機関により発行日の指定がありますので、書類の発行日にも注意を払いましょう。
このように遺言書がないケースだと、死亡した人と相続する予定の人との関係性を戸籍で証明する必要があるため、大変だと感じる人がいるかもしれません。その場合の有効な対策として、専門家への依頼を検討してもよいかもしれません。
家庭裁判所の調停調書・審判書があるケース
相続人同士の遺産分割協議で、話し合いがまとまらないことも起こりえます。遺産分割協議がまとまらなかった際は、家庭裁判所による調停調書・審判書で決まることが多いです。家庭裁判所による調停調書・審判書があるケースでの必要書類は次の通りです。
- 銀行所定の相続手続き依頼書
- 預金通帳およびキャッシュカード
- 家庭裁判所の調停調書謄本、または審判書謄本
- 預金を相続する人の印鑑証明書
家庭裁判所の調停調書謄本または審判書謄本について、審判書上の確定表示がない場合は、さらに「審判確定証明書」も追加で必要になります。
参考:一般社団法人 全国銀行協会「預金相続の手続に必要な書類」
口座凍結後に相続手続きをしない方が良いケース
銀行などの金融機関において預金口座の凍結が完了したら、すぐに死亡した人の遺産を相続しようと考える人もいるかもしれません。しかし口座凍結しても、預金口座にある預貯金の相続手続きをしない方が良いケースもあります。
口座凍結後に、名義変更などの相続手続きをしない方がよい2つのケースを解説します。
プラスの財産よりマイナスの財産の方が多いケース
銀行の預金口座だけでなく、死亡した人の遺産総額を確認したとき、貯金や不動産などの価値があるもの(プラスの財産)よりも、借金などの負債(マイナスの財産)の方が上回っているケースも考えられます。
マイナスの財産がプラスの財産を上回っているケースでは、相続を承認しない方がよいかもしれません。プラスの財産の範囲でマイナスの財産を相続する「限定承認」や、プラスの財産やマイナスの財産を両方とも相続しない「相続放棄」を選択肢に含めて、遺産相続するかどうか検討した方がよいでしょう。
「相続放棄」について、さらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
「相続放棄の方法や手続き」について、さらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
《注意点5選》知っておくべき銀行口座の相続手続き
名義変更といった預金口座の相続手続きを行う際に、知っておきたい注意点を解説します。正しい知識をしっかりと押さえておかないと、思いもよらぬ結果を招いてしまうこともあります。うっかり落とし穴にはまらないように、注意点を理解しておきましょう。
1. 早めに相続手続きをしないとトラブルになることがある
銀行などの金融機関にある預金口座の名義変更や相続手続きの注意点は、口座凍結などの手続きをなるべく早めに完了させておくということが挙げられます。
仮に、口座凍結を行わないで預金口座をそのまま放置しておくと、口座番号やパスワードを知る親族などが、死亡した人の名義の預金口座から自由に預貯金を引き落とせてしまいます。正しい遺産総額が把握できなくなるため、相続する際の遺産相続争いの原因になりかねません。
口座凍結を行えば、遺産分割協議が完了するまで、死亡した名義人の口座を金融機関に保護してもらえます。遺産相続争いを回避するためにも、親などが死亡したら早い段階で銀行などの金融機関へ連絡をいれることが有効だといえます。そのため、死亡した預金口座の名義人が利用していた金融機関を、確認しておくとスムーズに進むでしょう。
ただし、速やかに相続手続きをすればよいということでもありません。前述の通り、マイナスの財産とプラスの財産がいくらかなのか、しっかりと相続財産調査などを行ってから、慌てずに銀行口座の相続手続きを行ってください。
2. 銀行口座を長期間放置し続けると「休眠口座」になる
預金口座の名義人が死亡した際、銀行などの金融機関にある預金口座を、長期間にわたり放置していると「休眠口座」になってしまうことがあります。休眠口座とは、一般的に10年以上取引がない状態が続き、放置されている銀行口座を指します。
一度、預金口座が休眠口座になってしまうと、2018年に施行された「休眠預金等活用法」に基づき、休眠口座の中にある預貯金は公益活動に活用される流れになります。預貯金が公益活動に活用されてしまった後でも、自分の預金を取り戻して復活させることはできますが、払い戻しに時間や日数がかかることがあります。
また、10年未満でも長期間口座を放置しているだけで、口座を維持・管理するための手数料を徴収する銀行もあるようです。したがって、「休眠口座」に代表されるように、死亡した人が名義になっている銀行口座でも、何もせずにそのまま放置しないように気を付けましょう。
3. 口座凍結後は解除手続きをしないと引き落としできない
口座凍結後は、銀行窓口にて口座凍結解除の依頼が必要になります。郵送やWebでは、口座の凍結解除に対応していない金融機関がほとんどのようです。
口座凍結を依頼するときと同様に、自分から銀行などの金融機関に忘れずに連絡を行います。遺産分割協議など相続手続きで、一段落が付いたタイミングで行うとよいでしょう。
口座凍結を解除するための必要書類は、口座を開設している金融機関によって、またどのような条件で相続したのかによっても異なります。概して共通する必要書類を挙げると、戸籍謄本、印鑑登録証明書、キャッシュカードや通帳などが基本的に必要といえるでしょう。
4. 現金が必要な時は「預貯金の払戻制度」を利用する
遺産分割協議や名義変更などの相続手続きが完了する前に、生活費や葬儀費用など相続人に現金が必要になるケースがあります。たとえ自分の相続遺産分がほぼ確定している状況でも、残りの相続人の遺産相続の話し合いがまとまらないと、凍結された預金口座から現金を引き出せません。
そのようなケースで活用できるのが「預貯金の払戻制度」です。預貯金の払戻制度とは2019年7月に施行された制度。預貯金の払戻制度のポイントは、遺産分割前に現金が必要になったときに、他の相続人の同意がなくても、各相続人が死亡した人の凍結された預金口座(相続預金)の払い戻しを受けられることです。預貯金の払戻制度の手続き方法には、2種類の方法があります。
- 家庭裁判所で手続きを行う
- 金融機関で手続きを行う
「預貯金の払戻制度」の手続きを、家庭裁判所で行うケースでは金額の上限がなく、家庭裁判所で仮取得を認めた金額が払い戻されます。
一方で、金融機関で行うケースでは、下記の計算式で算出された金額が払い戻されます。ただし、上限金額は1つの金融機関につきは150万円まで。1つの金融機関に複数の預金口座があるケースや、複数の支店に預金口座があるケースも同様に、上限金額は150万円までです。
死亡した人の預金残高 × 1/3 × 払戻しを求める相続人の法定相続分
たとえば、預金残高が900万円で配偶者が払戻制度を利用するとします。すると、子のいる配偶者が引き出せる金額は、「150万円(=900 × 1/3 × 1/2 )」ということになります。
なお、上記の2つ以外の方法では、相続人全員の同意書を銀行などの金融機関の窓口に提出して申請する方法もあります。いざというときに死亡した名義人の預金口座から勝手に現金を引き出すのではなく、「預貯金の払戻制度」があることを覚えておきましょう。
参考:一般社団法人 全国銀行協会「遺産分割前の相続預金の払戻し制度のご案内チラシ」
5. 死亡する前後に、現金を勝手に引き落とす
死亡する直前または直後に、死亡した名義人の預金口座にある現金を勝手に引き落とす、もしくは自分名義の預金口座に振り込まない方がよいといえます。死亡した人の現金を私的に利用すると、相続を「単純承認」したとみなされ、「相続放棄」ができなくなります。遺産分割協議でも正しい遺産総額が把握できなくなるため、面倒になることが予想されます。
前述の通り、相続が発生して遺産分割協議が確定する前にお金が必要になったら、「預貯金の払戻制度」を活用して、きちんとした手順を踏んで死亡した名義人の預金口座から現金を引き落とすようにしてください。
名義人が死亡して銀行口座が凍結される前に預金を引き出したい場合は、引き出す前に他の相続人の了承を事前に得ておきましょう。もし、他の相続人の了承を取るのを忘れてしまったときは、引き出したお金の使途を明確にするために、領収書を大切に保管し、私的に使用していないことを証明しましょう。
このように死亡する前後に、死亡した人の名義の預金口座から現金を移動させる際は、細心の注意を払うようにしてください。
【対策】預金先など相続財産が把握しやすいように
近年、預金口座の相続を含む遺産相続トラブル件数は微増傾向にあります。
司法統計によると、家庭裁判所で発生した遺産分割事件数は、2006年度に初めて1万件を超えて以降、微増傾向にありました。2020年度の遺産分割件数は前年よりも若干減少しましたが、直近数年の遺産分割件数は1万1000~1万3000件の間を推移している状況です。
親などの預金口座の名義人が死亡した際に、預金口座の相続がこうした遺産相続トラブルに発展しないように、家族間で対策を練っておくとよいといえます。預金口座の相続手続きにおいて、具体的な対策は次の通りです。
- 親などに預金先の銀行を教えてもらう
- 複数ある預金口座は1つにまとめてもらう
- 遺言書・財産目録、エンディングノートを作ってもらう
- 親族と話し合い、誰が法定相続人になるかを認識しておく
相続財産と相続人調査の観点から上記のような対策をしてもらえると、預金口座の相続もスムーズに済むはずです。
出典:最高裁判所「44 遺産分割事件数 終局区分別 家庭裁判所別|家事令和2年度/家事令和元年度/家事平成18年度」
まとめ:まずは日頃の事前準備を大切に
銀行の預金口座は、多くの人が自分名義の預金口座を開設し、日常的に利用しています。そのため、とても身近な財産の1つだといえ、遺産相続の際も関係する可能性が高いといえます。
「相続」は突然発生するものです。預金口座の相続手続き以外にも、お葬式の執り行いが終われば、相続財産の調査や相続人の把握など必要な手続きは数多いでしょう。気持ちの整理がつかない状態だと、ミスをしたり手続きを忘れたりする可能性も十分に考えられます。
親などが死亡した際の対策として、真っ先に「親名義の預金口座を凍結すればよい」というものではありません。まずは、先にも説明したような身近な預金口座の対策を日頃から準備して、親族ともコミュニケーションを取っておくことが有効だといえるでしょう。仕事などで忙しかったり、自分たちで対応が難しかったりする場合は、専門家に必要書類の収集などをお願いしてもよいでしょう。