不在者財産管理人とは?必要になるケースと手続きの流れ・注意点を解説

公開日:2024年11月28日

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「相続人に行方不明がいるけど相続はどう進めればいい?」「不在者財産管理人の選任ってどうすればいい?」相続人に行方不明者がいると遺産分割協議を進められません。そのような場合に必要になってくるのが、不在者財産管理人です。この記事では、不在者財産管理人の基本や手続きの流れ・注意点などをわかりやすく解説します。

不在者財産管理人とは

不在者財産管理人とは、不在者(行方不明)の財産を管理する人です。不在者の利害関係者が家庭裁判所に申し立てることで選任されます。

遺産分割協議で相続を進める場合、相続人の誰か1人が行方不明では遺産分割協議が終了しません。不在者財産管理人を選任することで、行方不明の相続人に代わって遺産分割協議や相続手続きを進められるようになるのです。

ただし、不在者財産管理人は選任されたからといって自由に財産を管理できるわけではないので、役割を理解しておく必要があります。

不在者財産管理人の役割

不在者財産管理人は主に以下のような役割を担います。

  • 不在者の財産の管理
  • 財産目録の作成・報告
  • 遺産分割協議への参加

不在者財産管理人のメインの役割となるのが、不在者の財産の管理です。しかし、不在者の財産を自由に管理できるのではなく、権限は以下に限定されています。

  • 保存行為:財産の価値を保存・維持する行為
  • 利用・改良を目的とする行為:財産の保存・利用・改良を目的とする行為

たとえば、財産が家の場合、家の修繕や固定資産税の支払いなどは保存行為として行えます。一方、家の売却は処分行為になり、保存行為・利用改良行為には該当しないため、勝手に行うことはできません。

また、不在者財産管理人は、選任後不在者の財産目録を作成し家庭裁判所に提出することが必要です。さらに、選任期間中は年に1回、財産の管理状況を家庭裁判所に報告する必要もあります。

相続の場面においては、遺産分割協議へ参加して協議を成立させるのも重要な役割となります。ただし、遺産分価値協議への参加は処分行為に該当するため、先述した権限の範囲外です。そのため、遺産分割協議への参加には家庭裁判所の許可が必要になる点は注意しましょう。

誰が不在者財産管理人になり得るか

不在者財産管理人は、申し立て後、家庭裁判所が選任します。ただ、申し立て時に不在者と利害関係のない人を推薦することは可能です。不在者と同じ相続人といった利害関係者では、不在者の利益と管理人の利益が相反してしまうため、推薦しても選任されません。

利害関係がなければ推薦する人に特別な資格や条件はなく、申し立て人本人や不在者の親族などを推薦できます。近親者でなく、弁護士・司法書士などの士業を推薦することも可能です。

推薦した候補者が不適格でなければ、候補者がそのまま選任されるケースが多いでしょう。候補者がいない・推薦した人が不適格といったケースでは、家庭裁判所が弁護士や司法書士などから選任します。

不在者財産管理人が必要なケース

不在者財産管理人は、具体的に以下のようなケースで必要です。

  • 相続人に行方不明者がいて遺産分割協議ができない
  • 不在者に相続放棄させたい
  • 不在者との共有不動産を処分したい
  • 不在者の財産が高額で管理が必要

それぞれ見ていきましょう。

相続人に行方不明者がいて遺産分割協議ができない

遺産分割協議は、相続人全員の合意がなければ成立しません。誰か1人でも合意しない・参加していない状況では、いつまでも協議が成立せず相続手続きに進めないため不在者財産管理人に代理として参加してもらう必要があるのです。

不在者に相続放棄させたい

被相続人に借金が多いなど、不在者に相続放棄されたい場合にも不在者財産管理人が必要です。相続放棄は、相続があったことを知った日から3か月以内となるため、不在者が仮に見つかった場合、不在者が相続があったことを知ってから(見つかってから)3か月以内に相続放棄すれば問題ありません。

しかし、不在者が相続放棄すると、その相続権は次の相続人に移るため、不在者が相続放棄するまで相続人が確定しない状況が続きます。そのような場合で、不在者財産管理人による相続放棄を検討するとよいでしょう。

ただし、他の相続人が財産を多く取得したいと言った理由で相続放棄させることはできません。不在者財産管理人で相続放棄できるのは、あくまでも不在者に相続放棄することが利益となるケースです。

不在者との共有不動産を処分したい

相続財産の不動産が不在者と被相続人の共有というケースもあります。この場合、被相続人の分を相続人が相続しても、共有者が不在者では相続人は自由に売却できません。不在者が共有名義人の1人では不動産の活用が難しくなるので、このようなケースでも不在者財産管理人が必要です。

なお、不動産の売却は財産の処分行為に該当するので、家庭裁判所の許可が必要になります。

不在者の財産が高額で管理が必要

基本的に不在者の財産は、不在者本人でしか処分できません。不在者の財産が高額で、管理や適切な処分が必要があるというケースでは不在者財産管理人が必要になります。

不在者財産管理人の申し立て

ここでは、不在者財産管理人の申し立ての要件や流れ、必要書類について解説します。

申し立ての要件

不在者財産管理人の申し立てには、以下のような要件を満たす必要があります。

  • 不在者であること
  • 財産管理人がいないこと

それぞれ見ていきましょう。

不在者とは、従来の住所を去り容易に戻る見込みのない人です。つまり、長期間行方不明で連絡の取れない人が該当します。住所が分からなくても連絡が取れるといった人は不在者には該当しません。

さらに、「容易に戻る見込みがない」とあることから、行方不明になって数カ月や半年といった期間では認められない可能性があるでしょう。少なくとも1年以上所在が不明で連絡も取れない状態の人であることが必要になってきます。

不在者本人が財産管理人を選任しているケースでも、不在者財産管理人を選任できません。財産管理人とは、本人に代わって財産を適切に管理する委任契約を結んでいる人です。財産管理人がいるケースでは、遺産分割協議への参加や財産の管理は財産管理人で行えるため、そもそも不在者財産管理人を選任する必要がありません。また、不在者は親権者や後見人といった法定代理人がいるケースでも、不在者財産管理人は不要です。

申し立ての流れ

申し立ての大まかな流れは、以下の通りです。

  • 不在者財産管理人選任の申し立て
  • 審判
  • 選任

不在者財産管理人の申し立ては、不在者の従前の住所または居住地を管轄する家庭裁判所です。また、申し立てできるのは不在者の配偶者などの利害関係者が検察官となります。

必要書類を提出し申し立てると、家庭裁判所で不在者について調査・審判が行われ、審判の結果に応じて不在者財産管理人が選任されます。

不在者財産管理人の審判では、家庭裁判所による不在者の確認などが慎重に行われるため、審判・選任にはかなりの時間が必要です。一般的には、選任までに2~3か月ほどの時間が必要になります。遺産分割協議や不動産の売却などは、さらに家庭裁判所の許可が必要になるため、選任後にも時間がかかってきます。

相続では、相続開始から10か月以内という相続税の期限があり、それまでに遺産分割協議を終えなければ相続税への対応が難しくなる恐れがあるでしょう。遺産分割協議で不在者財産管理人が必要なケースでは、できるだけ早く動くことが大切です。

申し立てに必要な書類

申し立て時には、以下のような書類が必要です。

  • 申立書
  • 不在者の戸籍謄本・戸籍附票
  • 候補者の住民票または戸籍附票
  • 不在であることを証明できる資料
  • 不在者の財産に関する資料
  • 申し立て人と不在者の利害関係を証明する資料

不在者が不在であることを証明できる資料としては、調査会社の報告書や返還された手紙などがあります。また、不在者の財産に関する資料は通帳や不動産登記簿などが該当します。

状況次第で必要書類は異なってくる場合もあるので、事前に家庭裁判所で確認するようにしましょう。

不在者財産管理人の申し立て・選任で発生する費用

不在者財産管理人の申し立て・選任で発生する費用のイメージ

不在者財産管理人の申し立て・選任には費用が発生します。

申し立て費用

家庭裁判所への申し立て時には、以下のような費用が必要です。

  • 収入印紙800円分
  • 連絡用の切手
  • 書類取得費(1通300~450円ほど)

連絡用の切手については申し立てする家庭裁判所によって異なります。また、戸籍謄本などを取得するための取得費も必要です。

不在者財産管理人の報酬

専門家が不在者財産管理人に選任された場合は、専門家への報酬が発生します。財産管理の手間などによって費用は異なりますが、月1~5万円ほどが目安となるでしょう。

なお、専門家への報酬は不在者の財産から支払うため、申し立て人が負担する必要はありません。ただし、不在者の財産が少なく支払いに対応できないケースでは、申し立て人が次に紹介する「予納金」を負担する必要があるので注意しましょう。

予納金

不在者の財産で報酬を支払えない場合、申し立て人は家庭裁判所に予納金を納めることになります。予納金の額は、不在者の財産額によっても異なりますが20~100万円が目安です。また、財産管理が終了して予納金が余った場合は、残額は申し立て人に返還されます。

不在者財産管理人について知っておきたいこと

ここでは、不在者財産管理人について知っておきたいこととして、以下の8つを紹介します。

  • 失踪宣告との違い
  • 行方不明から7年以上制化している場合は「失踪宣告」の申し立てが可能
  • 不在者財産管理人は不在者のために職務を行う
  • 申し立てから選任まで時間の余裕を持つ
  • 一度選任された不在者財産管理人は変更できない
  • 不在者に不利な遺産分割協議はできない
  • 不在者財産管理人の職務が終了するタイミング
  • 不在者財産管理人の選任申し立てを取り下げることもできる

失踪宣告との違い

失踪宣告とは、一定の条件を満たした人を死亡したとみなす制度です。死亡したとみなされる期間は、普通失踪で生死が7年間明らかでない場合、戦争や震災が原因となる特定失踪(危難失踪)で危難が去ってから1年となります。

失踪宣告をすると、不在者は死んだものとして扱われます。一方、不在者財産管理人制度での不在者は、行方不明ではありますが生死は明らかになっていない状態です。

失踪宣告が確定すると、たとえ生存が判明した場合でも、審判を取り消さなければ効果が消えません。不在者が戻ってくる可能性があるなら、不在者財産管理人が適しているでしょう。

行方不明から7年以上経過している場合は「失踪宣告」の申し立てが可能

行方不明から7年生死が明らかでない不在者は普通失踪の失踪宣告が可能です。そのため、不在者財産管理人を選任するか失踪宣告するか慎重に選ぶ必要があります。

前述のとおり、不在者が戻ってくる可能性があるという場合は、不在者財産管理人制度がよいでしょう。また、不在者の家族にとっても死亡したとみなされる失踪宣告が精神的に受け入れがたい場合もあります。そのような場合も、まずは不在者財産管理人制度を選ぶとよいでしょう。

一方、失踪宣告は不在者財産管理人を選任するよりも費用負担が少なく・手続きも比較的簡単というメリットがあります。不在者財産管理人や失踪宣告が必要な目的や状況に応じて、適切に判断するようにしましょう。

判断に迷う・手続きに不安があるという場合は、専門家に相談することをおすすめします。

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不在者財産管理人は不在者のために職務を行う

不在者財産管理人に選任された人は、不在者のために適切な財産管理を行うことが必要です。不在者に不利なことはできません。もし不在者に不利になるような行為を行った場合、解任されるだけでなく損害賠償請求や刑事罰が問われる恐れがあります。

申し立てから選任まで時間の余裕を持つ

不在者財産管理人を申し立てた後、家庭裁判所は本当に不在なのかなど慎重に調査し、審判を行います。そのため、選任までに2~3か月ほど時間がかかります。

相続手続きの中には期限が設けられているものもあるため、できるだけ早い段階で不在者財産管理人の手続きができるようにしましょう。

一度選任された不在者財産管理人は変更できない

不在者財産管理人は、一度選任されると財産を不正に管理したなどの理由がなければ基本的に変更できません。不在者の家族と相性が悪い、管理の負担が思ったより大きいといった理由で変更できないので、注意しましょう。

不在者に不利な遺産分割協議はできない

不在者財産管理人は、不在者のために財産管理を行うため遺産分割協議においても不利な相続はできません。基本的には、法定相続分は最低限相続させる必要はあるでしょう。

法定相続分を下回る相続になると、家庭裁判所から原則許可が下りないので慎重に遺産分割協議を進める必要があります。

不在者財産管理人の職務が終了するタイミング

不在者財産管理人の職務が終了するタイミングは、以下のいずれかです。

  • 不在者が現れた
  • 不在者が死亡した
  • 不在者の失踪宣告をした

不在者が現われたら以降は不在者が財産を管理します。死亡確定・失踪宣告の場合は、不在者の財産は相続人が継承することになるのです。

たとえ遺産分割協議のために不在者財産管理人を選任した場合でも、遺産分割協議後も上記の条件を満たすまで職務は続きます。親族が選任されていると、遺産分割協議も職務が終了するまで毎年家庭裁判所に報告するなどで負担になってくるでしょう。

専門家が選任されると、職務終了までずっと報酬が発生するので注意が必要です。

不在者財産管理人の選任申し立てを取り下げることもできる

申し立て後であっても、選任されていない状態であれば申し立ての取り下げが可能です。予納金が高額になるといった理由でも取り下げることができます。ただし、行方不明者が遺産分割協議で不在者財産管理人の申し立て取り下げると、遺産分割が進まないなどのリスクもあるため慎重に判断するようにしましょう。

不在者財産管理人の選任を検討しているなら専門家に相談を

不在者財産管理人を選任することで、相続人の誰かが行方不明でも遺産分割協議を進められます。しかし、不在者財産管理人は不在者のために職務を行う必要があり、自由に遺産分割協議を進めたり・財産を管理できない点には注意が必要です。申し立てには複数の書類が必要になり、選任までに時間もかかります。

スムーズに不在者財産管理人の選任を行いたい場合は、専門家に相談しサポートしてもらうことをおすすめします。

専門家であれば不在者財産管理人の選任だけでなく相続手続き全般をサポートできるので、スムーズに相続を行えるでしょう。

記事の著者紹介

逆瀬川勇造(ライター)

【プロフィール】

金融機関・不動産会社での勤務経験を経て平成30年よりライターとして独立。令和2年に合同会社7pockets設立。前職時代には不動産取引の経験から、相続関連の課題にも数多く直面し、それらの経験から得た知識などわかりやすく解説。

【資格】

宅建士/AFP/FP2級技能士/相続管理士

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年11月28日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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