夫婦で共有名義の家のリフォーム費用を、どちらかが負担すると贈与税が発生する恐れがあります。さらに、リフォーム費用を親から援助してもらうと税負担がより大きくなる場合もあります。共有名義の家や親からの援助でリフォームする際には、税負担についても理解しなければなりません。この記事では、リフォームにかかる贈与税とその対策をわかりやすく解説します。
目次
共有名義の家のリフォームには贈与税がかかる可能性あり
築年数が経過し傷みが出てきた・子ども部屋が不要になったなどの理由で家をリフォームするケースは珍しくありません。リフォームすれば当然お金がかかりますが、そのお金が贈与にあたり贈与税が課せられるケースがあるのです。
贈与税とは
贈与税とは、個人から財産を取得した際に贈られた側にかかる税金です。贈与は贈る側と贈られる側の合意で成立し、現預金だけでなく不動産や有価証券など金銭的価値のある資産が税金の対象となります。
親から子どもに土地を譲った・祖父が孫に現金1000万円を渡したなどが贈与となり、受け取った側に贈られたものの価値に対しての贈与税が課税されるのです。なお、贈与は親族間でよくありますが、親族以外への贈与も可能であり贈与税の対象になります。
贈与税には年間110万円の基礎控除があり、基礎控除を上回った部分に対し贈与税が課せられます。たとえば、年間の贈与額が500万円であれば、500万円-110万円=390万円が贈与税の対象です。390万円に贈与税の税率を乗じて税額を算出しますが、税率は誰から贈られたかによって以下の2つに分かれます。
- 一般贈与財産(一般税率):一般的な贈与
- 特例贈与財産(特例税率):直系尊属からの贈与
特例税率は、贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上の人が父母や祖父母(直系尊属)から贈与されたときに使用する税率です。一方、それ以外の贈与は一般税率で計算します。
親から子どもへの贈与であっても子どもが18歳未満であると一般税率での計算となるので注意しましょう。
共有名義の家のリフォーム費用に贈与税がかかる理由
共有名義の家とは、ひとつの家に2人以上の所有者(名義人)がいる不動産です。共有名義が発生する要因としては、住宅ローンを夫婦で組んだ・親子で二世帯住宅を建てたといったケースが挙げられます。
仮に、夫婦共有名義の家でリフォームが必要になり、夫または妻がリフォーム費用を全額負担したとします。このリフォーム費用を全額負担したことが贈与とみなされ、贈与税が課税される可能性があるのです。
共有名義の家の維持管理費用は、所有者が持分に応じて負担するのが原則です。家の維持管理費用とは、固定資産税や修繕費などが該当しリフォーム費用も当てはまります。そのため、どちらかが持分割合よりも多く費用を負担すると、負担しなかった方への贈与とみなされ贈与税の対象となるのです。
ちなみに、共有名義に限らず、親名義の家のリフォーム費用を子どもが出した・子ども名義の家のリフォーム費用を親が出したというケースも贈与税の対象になります。相手のためと思って資金援助したのに、相手に思わぬ税負担となる恐れがある点は覚えておきましょう。
リフォーム費用にかかる贈与税の計算方法
共有名義の家のリフォーム費用を負担するパターンとしては、「夫婦で負担する」「夫婦のどちらか一方が負担する」「親から援助を受ける」が主ですが、贈与税のかかり方が異なります。ここでは、以下を前提条件としてパターン別にどのように贈与税がかかるのかを具体的にみていきましょう。
- リフォーム費用総額:600万円
- 持分割合:夫2分の1・妻2分の1
なお、購入した不動産の持分割合は単純に所有者の人数で割るのではなく、出資額に応じて按分されるため2分の1ずつではないケースも多いことは覚えておきましょう。
夫婦それぞれがリフォーム費用を負担
夫婦それぞれがリフォーム費用を負担するケースでは、持分割合と負担割合が一致するなら贈与税は発生しません。リフォーム費用総額が600万円で持分割合が2分の1ずつなので、夫・妻それぞれ300万円ずつ負担するケースです。
一方、持分割合とは異なる負担割合にすると、差額分が負担の少なかった方への贈与となり贈与税の対象となる場合があります。
たとえば、夫500万円・妻100万円で費用を負担した場合をみてみましょう。本来、妻は300万円負担すべきところを100万円で済んでいるため、差額の200万円は夫からの贈与とみなされます。贈与税には110万円の基礎控除があるので、このケースでは200万円-110万円=90万円に贈与税が課せられる可能性があります。
夫婦どちらか一方がリフォーム費用を負担
どちらか一方が全額負担するケースも、持分割合と負担割合が一致しないケース同様に差額分に対して贈与税が課税されます。仮に、夫がリフォーム費用600万円の全額を負担すると、妻は本来の負担である300万円を夫から贈与されたとなり、300万円-110万円=190万円が贈与税の対象となるのです。
贈与税は贈与額が高くなるほど税率も上がる仕組みのため、リフォーム費用を全額負担すると税負担も大きくなります。贈与税の負担を抑えたいなら、夫婦それぞれの負担を持分割合に近づける方がよいでしょう。
夫婦どちらか一方が親から援助を受けて費用を負担
親から資金援助を受けるケースでは、「親がどちらか一方に援助する」「親が夫婦それぞれに援助する」の2パターンが考えられます。パターンによって贈与税の負担も変わってくるので注意しましょう。
親がどちらか一方に援助するとは、夫の親が夫に援助し、そこから夫が費用を出すといったケースです。この場合、贈与税の対象が「親から夫」「夫から妻」の2回になります。
たとえば、夫の親が600万円を夫に援助したケースでみてみましょう。まず、親から夫への600万円の援助が贈与となり、600万円-110万円=490万円を贈与税の対象として夫に課税されます。さらに、そのお金で夫がリフォーム費用を全額出しているので、妻は本来負担すべき300万円の贈与をうけたとなり、300万円-110万円=190万円に贈与税が課せられる可能性があります。
2回にわたって贈与税が発生するため、税負担が大きくなる恐れがあるので注意が必要です。
夫婦それぞれが親から援助を受けて費用を負担
夫・妻がそれぞれの親から援助を受けるケースをみてみましょう。
夫の親が夫に300万円、妻の親が妻に300万円援助し、夫婦が300万円ずつ出し合ってリフォームするケースでは、親から子どもへの贈与は贈与税の対象となる場合がありますが、リフォーム費用は贈与税の対象とはなりません。この場合、夫婦それぞれの親からの贈与300万円-110万円=190万円に贈与税が課せられる可能性があります。なお、夫妻のリフォーム費用の負担が持分割合と異なれば、リフォームの際にも贈与税は課税されるので注意しましょう。
夫婦それぞれの親が援助するケースは親からの援助に対し贈与税がかかりますが、基礎控除を適用できるため、税負担を抑えやすくなります。そのうえで、持分割合に近づけてリフォーム費用を負担することで税負担の軽減が見込めるでしょう。
このケースでは夫婦それぞれの親が援助していますが、どちらか一方の親が夫・妻に分けて援助する場合でも同様の方法で計算されます。そのため、共有名義の家のリフォーム費用を援助してもらう際には、夫婦分けての援助をお願いするとよいでしょう。
リフォーム費用にかかる贈与税をおさえる方法

持分割合に合わせて夫婦で費用を出せば税負担を抑えられるといっても、資金の都合上難しいケースもあるでしょう。また、相手の好意で費用を負担してもらったのに、贈与税の負担が大きくなる可能性があるのは避けたいものです。
ここでは、共有名義の家のリフォーム費用にかかる贈与税をおさえる方法として、以下の4つを紹介します。
- リフォーム前に持分を移転させる
- リフォーム後に代物弁済をする
- リフォーム費用を贈与ではなく貸付にする
- リフォーム費用を基礎控除の範囲内におさめる
リフォーム前に持分を移転させる
持分割合は、共有者や第三者に売買や贈与して変更できます。そのため、費用負担割合にあわせてあらかじめ持分割合を移転しておくことで、贈与税を軽減させることが可能です。たとえば、持分割合が2分の1ずつでリフォーム費用を夫が全額負担するなら、妻の持分を夫にすべて移転させることで贈与税の負担をおさえられる可能性があります。
ただし、持分を贈与により移転する場合は、移転に対して贈与税が課税される点には注意が必要です。しかし、持分移転の贈与税は固定資産税評価額をベースに算出されるため、築年数が古い家であればそれほど税額は高額にならないでしょう。また、売買で持分を移転する場合は、譲渡所得税の対象となります。
リフォームに対する贈与税と持分移転に対する贈与税・譲渡所得税のいずれが高くなるかは、家の資産価値やリフォーム費用によって異なります。持分移転する際には、司法書士報酬や登録免許税などの費用もかかるため、パターン別にシミュレーションして税負担をおさえられる方法を選ぶとよいでしょう。
なお、住宅ローン残債がある家の持分移転は、事前に金融機関への確認が必要です。無断で行うと住宅ローン契約に抵触する可能性があります。
リフォーム後に代物弁済をする
代物弁済とは、本来のものの代わりに別のもので債務を相殺させる方法です。たとえば、100万円の借金を現金ではなく土地を譲ることで完済したとしてもらう方法などが挙げられます。
共有名義の家のリフォーム費用についても、本来負担するべき費用を別のものを渡す方法で贈与とみなされなくなります。リフォーム後にリフォーム費用相当分の持分を譲るケースが一般的です。ただし、リフォームしたことで家の価値が変動している点に気を付けなければなりません。
仮に、リフォーム前の家の価値が1000万円・持分が2分の1ずつで、夫がリフォーム費用800万円を全額出したケースをみてみましょう。この場合、妻が本来負担すべきリフォーム費用400万円は夫からの贈与になります。
リフォーム前であれば妻の持分を全部移転する必要がありますが、リフォーム後は家の価値が変わっているため、持分に対する家の価値にも変動が出ています。リフォーム後の家の価値は、1000万円+800万円=1800万円になるので、持分が2分の1なら妻の所有分は900万円です。贈与である400万円を代位弁済するためには、900万円のうちから400万円に相当する分の持分を夫に移転することになります。
ただし、代位弁済の際に持分を売却して支払うという形となり、譲渡所得税が課税される恐れがある点には気を付けましょう。
リフォーム費用を贈与ではなく貸付にする
夫婦でリフォーム費用を出すのではなく、どちらかに「貸した」という形にすることができれば贈与税は発生しません。
しかし、口約束で貸して返済の実態もないとなれば、贈与税の対象となる可能性があります。夫婦間の貸し借りであっても借用書を作成し、振込・返済の履歴を残すなど貸与であることを証明できるようにしましょう。
リフォーム費用を基礎控除の範囲内におさめる
贈与税は基礎控除を超えた部分に課税されるため、年間110万円を超えなければ発生しません。持分割合と費用負担の差額を110万円以内に抑えれば贈与税は課税されなくなります。部分的なリフォームや設備交換であれば、リフォーム費用もそれほど高額にならないので検討しやすいでしょう。
ただし、フルリノベーションといった大規模なリフォームは1000万円以上かかるケースもあるので、別の方法とあわせて検討することも大切です。また、贈与税は年間の贈与額の合計に対して課税されるため、同じ年にリフォーム費用以外の贈与があると課税される恐れがある点にも注意しましょう。
親から子・孫への贈与なら効果的に活用できる制度がある
リフォーム費用を夫婦間ではなく親から援助してもらうケースも贈与に該当しますが、親からの贈与には節税効果が期待できる制度がいくつか設けられています。ここでは、親から子・孫への贈与で検討できる制度として、以下の2つを紹介します。
- 住宅取得等資金の非課税制度を活用する
- 名義変更の贈与で相続時精算課税制度を活用する
住宅取得等資金の非課税制度を活用する
住宅取得等資金の非課税制度とは、直系尊属から贈与で住宅取得する際、贈与額の最大1000万円までが非課税となる制度です。住宅取得資金としては、購入だけでなく増改築も含まれるのでリフォームでも適用できます。
増改築では、以下のような要件を満たす必要があります。
- 増改築後の床面積が40㎡以上240㎡以下でかつ2分の1以上を受贈者の居住の用に供される
- 「確認済証の写し」「検査済証の写し」または「増改築等工事証明書」により一定の工事に該当することが証明できる
- 増改築にかかる工事費用が100万円以上
なお、この特例を適用できるのは令和8年12月31日までの贈与が対象です。しかし、制度は延長される可能性もあります。
名義変更の贈与で相続時精算課税制度を活用する
相続時精算課税制度とは、子や孫への2500万円までの贈与を控除できる制度です。
2500万円を超えた部分は一律20%で贈与税が課税されます。相続時精算課税制度は110万円の基礎控除も適用されるので、最大2610万円までは贈与税がかからなくなります。
まとまったリフォーム資金を援助してもらう場合、相続時精算課税制度を活用すれば税負担の軽減が可能です。また、子どもが親の家をリフォームするというケースでも、親の家の名義を子に変更しその際に相続時精算課税制度を適用すれば贈与税の負担をおさえられる可能性があります。
ただし、相続時精算課税制度では控除した額を、相続時に相続財産に加算するため状況によっては相続税が発生します。なお、相続時精算課税制度を選択すると、暦年課税制度には戻れない点にも注意しましょう。相続税や以降の贈与まで考慮して選択する必要があるので、悩む場合は専門家への相談をおすすめします。

リフォームによる贈与税対策は専門家に相談を
共有名義の家のリフォーム費用を、親から援助してもらう・持分割合とは異なる割合で夫婦で負担すると贈与税がかかる恐れがあります。
共有名義の家でなくても、親名義の家・子ども名義の家のリフォーム費用を名義人とは異なる人が援助すると贈与税の対象です。しかし、リフォーム費用で発生する贈与税は、制度の活用や持分移転などで節税できます。
ただし、状況によって適切な節税方法は異なるので、事前に専門家に相談し適切な方法のアドバイスをもらうことをおすすめします。