相続で銀行の残高証明書は必要なの?必要なケースと取得方法・注意点

公開日:2024年9月26日

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「通帳があれば残高証明書はいらない?」相続税の申告や遺産分割協議時に必要となる書類に「残高証明書」があります。残高証明書は相続発生時の預貯金などの残高を証明する重要な書類です。この記事では、残高証明書が必要なケースや取得方法・注意点について、分かりやすく解説します。

残高証明書とは

残高証明書とは、特定の日付時点の預貯金や有価証券などの残高を金融機関が証明した書類です。金融機関によって書式は異なりますが、銀行の場合次のような項目が記載されます。

  • 請求者が指定した日付
  • 口座の預貯金額
  • 債務がある場合は借入残高
  • 発行した金融機関
  • 請求者(相続の場合は被相続人名と請求した相続人の名前・住所)

請求者が指定した日付

残高証明書では、請求時に指定した日における残高が記載されます。相続の場合は、相続発生日(被相続人の死亡日)時点の残高を証明してもらうことになります。

口座の預貯金額

定期口座・普通口座、それぞれの預貯金額が記載されます。同一の金融機関で複数の支店に口座がある場合でも、その金融機関のすべての支店の口座・預貯金額が記載されるので、支店ごとに請求する必要はありません。

証券会社が発行する場合は、有価証券や投資信託の額が指定日時点の時価で記載されます。

債務がある場合は借入残高

住宅ローンなど各種ローンの借入がある場合は、借入残高が記載されます。

発行した金融機関

証明書を発行した金融機関名が記載されます。

請求者(相続の場合は被相続人名と請求した相続人の名前・住所)

請求者の住所と氏名が記載されます。相続のように請求者と証明する口座の名義人が異なる場合は、被相続人名も記載されます。

入出金履歴は記載されない

残高証明書では特定の日の残高のみの記載となり、それ以前の入出金の履歴は記載されません。残高は分かっても使い道までは分からないため、他の相続人から使い込みを疑われるといった場合は、記帳済み通帳や取引明細書証なども用意しておくことをおすすめします。

相続で残高証明書が必要な状況とは

相続で残高証明書が必要になる状況には、以下の2つが挙げられます。

  • 遺産分割協議をするとき
  • 相続税の申告をするとき

遺産分割協議をするとき

遺言書のない相続の場合、遺産分割方法は相続人全員による遺産分割協議で決めます。とはいえ、財産総額が分からなければ分割の仕方を決められないため、遺産分割協議前には財産をすべて明確にする必要があります。その際、残高証明書があると金融機関の資産が把握しやすくなるのです。

遺産分割協議での残高証明書は必須ではありません。しかし、残高を明確にしておかないと相続トラブルに発展する恐れもあるでしょう。残高証明書は金融機関が発行する書類のため、信頼性も高くスムーズに遺産分割協議を進めやすくなります。

ただし、前述のとおり残高証明書だけでは入出金の履歴は分かりません。
通帳など入出金の履歴が分かるものも添えておくと、よりトラブルを防ぎやすくなるでしょう。

相続税の申告をするとき

財産の総額が相続税の基礎控除を超える場合、相続税が課税されます。相続税が課税されるケースでは、相続人は相続税の申告をして納税することになります。

申告時には金融機関の残高を証明する書類が必要となり、残高証明書が証明書類として有効です。預貯金額が低いケースでは通帳のコピーで問題ないケースもありますが、基本的には残高証明書を貼付するほうがよいでしょう。

残高証明書は基本的に即日で取得できないため、納税期限ぎりぎりで証明書を所得しようとすると間に合わない恐れがあります。相続税が発生するケースでは早い段階で手続きを進めるようにしましょう。

残高証明書の発行手続き

残高証明書の発行手続きのイメージ

ここでは、残高証明書の発行手続きの流れや必要書類・費用について解説します。

手続きの流れ

大まかな手続きの流れは以下の通りです。

  • 金融機関の窓口で申請手続き
  • 残高証明書の受け取り

金融機関の窓口で申請手続き

残高証明書は、金融機関の窓口で手続きできます。
必要書類を添えて申請しましょう。

同一の金融機関の複数支店に口座がある場合でも、基本的にはどの支店でもまとめて取得できます。ただし、他支店分を取得する場合は時間がよりかかる恐れがある点には注意しましょう。

ネット銀行など実店舗がない場合は、Webサイトから手続きするかカスタマーセンターに連絡して手続きを進めます。

なお、請求手続きは金融機関によって異なります。金融機関によっては事前に電話連絡が必要なケースもあるので、手続き方法を確認したうえで手続きを行うようにしましょう。

残高証明書の受け取り

申請後1~2週間ほどで残高証明書が申請者の住所に郵送で送られます。窓口で受け取れる金融機関もありますが、窓口受け取りの場合は通帳や費用支払い時の領収書などが必要なケースもあるので、事前に必要なものを確認しておくようにしましょう。

手続きできる人

残高証明書の請求手続きができるのは、相続人か相続人の代理人です。相続人は単独請求できるので、他の相続人の合意や委任状は必要はありません。

代理人による請求もできますが、金融機関によっては代理人は弁護士などの専門家のみといった指定があるケースもあるので事前に確認するようにしましょう。

必要書類

主な必要書類は以下の通りです。

  • 亡くなった方の戸籍謄本(除籍謄本)
  • 相続権利者であることの確認書類
  • 申請者の実印と印鑑登録証明書
  • 申請者の本人確認証明書
  • 残高証明書発行依頼書
  • (代理人の場合)委任状

金融機関によっては通帳やキャッシュカード・届印が必要になるケースもあります。必要書類については事前に確認して漏れのないように用意しましょう。

発行費用

残高証明書の発行費用の目安は、500~2000円ほどです。ただし、金融機関によって金額は異なります。たとえば、りそな銀行では1通880円、三菱UFJ銀行では1通770円かかります。

具体的な各銀行の相続手続きについては、こちらで詳しく紹介しているのでご覧ください。

残高証明書を発行するときの注意点

相続で残高証明書を発行してもらうときには気を付けなければならない点がいくつかあります。ちょっとしたミスで証明書の意味がなくなる、預貯金が引き出せなくなるといった恐れもあるので注意しましょう。

残高証明を発行するときの注意点として、以下の6つを解説します。

  • 発行には日数がかかることも多い
  • どの時点の残高証明を発行するか
  • 定期預金は経過利息計算書も発行してもらう
  • 通帳だけでは残高の証明に不十分
  • 取引明細も取得するとその後の相続手続きがスムーズな場合も
  • 相続が理由の場合は口座凍結される

それぞれ詳しくみていきましょう。

発行には日数がかかることも多い

残高証明書の発行には申請から1週間~10日ほど時間がかかります。取得しなければ遺産分割協議を進められない、相続税の納税期限間際といった場合では、不都合も生じやすいので余裕をもって手続きするようにしましょう。

なかには即日発行してくれる金融機関もある反面、口座が複数などでより時間がかかるケースもあります。事前に発行期間について確認することが大切です。

どの時点の残高証明を発行するか

残高証明書を取得する際の申請書には、どの時点の残高を証明するか記載する欄があります。相続手続きの場合、「死亡した日」を指定することが大切です。請求手続き日を指定してしまうと相続手続きで利用できなくなるので、注意しましょう。

定期預金は経過利息計算書も発行してもらう

残高証明書で証明される定期預金の額は、元本の額です。しかし、定期預金の場合、被相続人が死亡した日までの利息も相続財産に含まれます。金利が低いと言っても定期預金の額によっては、ある程度の額になるケースもあるでしょう。正確な額を把握するためには、経過利息計算書も一緒に発行してもらう必要があります。

経過履歴計算書は、残高証明申請時に窓口で一緒に申し込めば発行してもらえます。基本的には費用は掛かりませんが、金融機関によっては別途費用が発生するケースもあるので事前に確認するとよいでしょう。

通帳だけでは残高の証明に不十分

「残高の証明なら通帳があれば足りる」と考えている方も少なくありません。しかし、通帳に記載されている額が正確な財産額と一致するとは限りません。

また、手元にある通帳だけが金融機関の資産とは限らないものです。なかには、口座があるけど通帳が見つかっていないという可能性があります。近年利用者が増えているネット銀行であれば、そもそも通帳が存在しません。

そのため、通帳だけで残高を正確に証明することが難しいのです。金融機関の資産を調べる場合は、以下のような方法で口座のある金融機関をすべて調べる必要があります。

  • 通帳やキャッシュカードを確認する
  • 金融機関からの郵便物を確認する
  • メールやパソコン・スマホのアプリなどを調べる
  • 被相続人と親しい友人や勤務先などに聞いてみる

被相続人の財産が多岐に渡り相続人だけで特定が難しいという場合は、弁護士や司法書士など専門家に相談するのもおすすめです。財産の特定が遅れれば、その分相続手続きも遅れていきます。専門家に相談すれば、その後の相続手続きまでサポートしてくれるのでスムーズに相続を進められるでしょう。

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取引明細も取得するとその後の相続手続きがスムーズな場合も

前述のとおり、残高証明書では残高しか証明されないため入出金の履歴は追えません。そのため、相続開始前に相続人による使い込みが疑われるといったケースでは取引明細まで取得してお金の流れを把握することをおすすめします。

また、取引明細を取得することで、相続税に加算される生前贈与がないかの確認もできます。保険料の引き落とし履歴や不動産の家賃収入といった相続人が把握していない財産が判明するケースもあるでしょう。相続開始前3年以内の生前贈与は相続税の課税対象となるので、過去5年ほどさかのぼって取得しておくことをおすすめします。

ただし、取引明細の取得には手数料が必要です。金融機関によって手数料は異なりますが、1月分で300~500円ほどかかります。仮に、1月分300円でも5年分ともなれば18000円かかってしまうため、事前に費用や必要な範囲を確認しておくようにしましょう。

相続が理由の場合は口座凍結される

相続を理由として残高証明書を取得することで、金融機関は口座名義人の死亡を把握することになります。名義人が死亡した口座は、金融機関によって凍結され入出金ができなくなるので注意しましょう。

口座凍結を解除するには遺産分割協議書などの書類が必要となり、解除まで時間がかかります。凍結中は、葬儀費用や生活費などを引き出せなくなるので、「相続預金仮払い制度」などを利用して事前に引き出しておくことをおすすめします。また、被相続人の口座から公共料金などを引き落としている場合も、凍結後に引き落とし去れないように、名義変更や解約手続きを早めに行うようにしましょう。

残高証明の取得は専門家に相談を

遺産分割協議や相続税の申告では、金融機関の資産を証明した残高証明書が必要になります。残高証明書は各金融機関の窓口で申請できますが、取得までに1週間ほど時間がかかるので早めに手続きする必要があります。

ただし、そもそもどの金融機関に口座があるか分からない・複数の金融機関に口座があって手続きが煩雑になるというケースも少なくありません。残高証明取得後は相続手続きのスタートでしかありません。

取得後にようやく遺産分割協議や相続手続きがスタートしていくので、スムーズな相続手続きを行うためには、残高証明取得時点から専門家への相談をおすすめします。

記事の著者紹介

逆瀬川勇造(ライター)

【プロフィール】

金融機関・不動産会社での勤務経験を経て2018年よりライターとして独立。2020年に合同会社7pockets設立。前職時代には不動産取引の経験から、相続関連の課題にも数多く直面し、それらの経験から得た知識など分かりやすく解説。

【資格】

宅建士/AFP/FP2級技能士/相続管理士

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年9月26日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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