「とりあえず、実家は兄弟みんなの名義にしておこう」相続の場面では、公平さを保つために、あえて不動産を共有名義にする——そんな選択をすることも少なくありません。あるいは、親御さんが資金援助をしてもらった場合は、マイホームを親子の共有名義で購入するケースもあるでしょう。
ところが、良かれと思って選んだ「共有」という状態が、いざ売却や活用を考えたときに、思わぬ足かせになることがあります。「売りたいのに、1人だけ印鑑を押してくれない」「話し合いすらできない」そんな膠着状態に頭を抱える方は、想像以上に多いのが現実です。私たち「相続プラス」が日々やり取りをしている専門家の間でも、こうした現場の切実な声は後を絶ちません。
そこで今回は、共有持分の買取をはじめ、権利関係が複雑に入り組んだ不動産案件を数多く手がける、株式会社クランピーリアルエステートの大江 剛(おおえ つよし)代表にお話を伺いました。「出口が見えない」と諦めかけている共有名義の不動産に対し、プロフェッショナルはどのような視点で解決の糸口を見つけるのか。現場のリアルな声を伺います。
共有名義が“止まる”最大の原因は「感情」と「疎遠」

——本日はよろしくお願いします。まず単刀直入にお聞きしますが、共有名義の不動産が「どうにも動かせない」と行き詰まる場面で、もっとも多い原因は何なのでしょうか。
大江代表(以下、大江):圧倒的に多いのは「不仲」ですね。共有者の一方が話を聞く耳を持たず、思考をシャットダウンしてしまうケースです。共有名義の不動産を動かすには、全員の合意が必要です。でも、ここで邪魔をするのは理屈ではなく「感情」なんですよね。兄弟や親族に対する長年の不満や確執が積もっていて、「あいつの言うことには従いたくない」と、関わること自体を拒絶してしまう。こうなると、話し合いのテーブルに着くことすら難しくなります。
——確かに、理屈で損得を説明しても、感情の壁があると響かないことは多そうです。
大江:そうなんです。動きたい側がどれだけ頑張っても、相手が頑なだと気力だけが削られていき、「もう疲れた」と諦めてしまう。これがひとつ目のパターンです。そしてもうひとつが、特別揉めてはいないけれど「共有者が増えすぎて収拾がつかない」ケースです。相続が重なって、会ったこともない親戚同士で、ひとつの不動産を共有しているような状態ですね。居場所も分からない、連絡もつかないとなると、合意以前に「合意形成の場」自体が作れません。
——放置すればするほど、そのハードルは上がっていきそうですね。
大江:私はよく、共有状態を「不動産の生活習慣病」と呼んでいるんです。「とりあえず共有で」とした直後は、症状が出ず日常が回ります。でも、時間が経って相続が発生するたびに、2人だった共有者が6人、10人と増え、権利関係は複雑化していく。いざ問題が表面化したときには、できる手立てが限られてしまっている。まさに、じわじわと進行する病のような怖さがあります。

「仲裁」はしない。話し合いから降りたい人のための“出口”になる
——そうした膠着状態に対して、クランピーリアルエステートさんでは「共有持分の買取」を行われています。これは具体的にどういう解決策なのでしょうか。
大江:誤解を恐れずに言えば、私たちは「親族間の仲裁をしてまとめる役」ではありません。「もう話し合いから抜けたい」と願う人から持分を買い取り、その人に代わって私たちが共有者として間に入る。それが私たちの役割です。
相談に来られる方の多くは、相手との話し合いに疲れ果てて、限界に近い状態です。「仲直りして全員で売る」のが理想かもしれませんが、それができないから苦しんでいる。だからこそ、「自分が持っている権利を手放して、関係自体を断つ」という“出口”を用意してあげることに意味があると考えています。
——「解決=全員の和解」だけではない、ということですね。
大江:おっしゃる通りです。無理に関係修復を目指して消耗するより、自分の持分だけを売却して現金化し、精神的な重荷から解放される。それが相談者様にとっての「解決」になるケースは非常に多いですから。

士業との連携が「売った後」の安心感をつくる
——自分の持分を売却した後、残された共有者(親族)と御社が揉めるようなことはないのでしょうか。売る側としては、やはり心配になる部分だと思います。
大江:そこは非常に気を使っている部分です。私たちが持分を買い取った後、他の共有者の方とお話しする際は、基本的に弁護士の先生と連携して、交渉にあたります。不動産業者がいきなり乗り込んできて強く出る、といった強引な進め方はしません。法的な権利関係を整理しつつ、弁護士さんと共に粛々と協議を進めるのが私たちの流儀です。
——それは売主にとっても安心材料になりますね。「変な業者に売って親族に迷惑をかけた」とはなりたくない心理があると思います。
大江:もともと弊社は、弁護士や司法書士といった士業の先生方からの「困った案件」を引き受けるところからスタートしているんです。先生方が法的な手続きを整えても、最後の出口で「買い手がいない」と止まってしまう不動産がある。そこを何とかできないか、という現場の課題感から今の事業が育ってきました。そのため、法律の専門家と連携しながら、余計な摩擦を生まないように進めるスタンスは徹底しています。
相続プラスをご覧になっているような、権利関係に慎重な方々にこそ、こうした「士業連携」を前提とした不動産会社があることを知っていただきたいですね。

相談のハードルは低く、でも「現実的な線引き」は誠実に
——実際に相談する場合、どのような流れになるのでしょうか。まだ持分の売却を決めたわけではなくても相談できますか。
大江:もちろんです。まずは電話などで状況をヒアリングさせていただき、大まかな方向性をお伝えします。進められそうであれば担当者が現地や役所の調査を行い、買取価格を提示します。金額や条件で合意に至れば契約・決済という流れです。最初の段階では、詳しい資料が手元になくても、住所や今の状況をお話しいただくだけで大丈夫です。謄本などは私たちの方で取得できますから。
——逆に、「これだけは買い取れない」といったケースはあるのでしょうか。
大江:そこは正直にお伝えしなければいけませんが、採算が合わない案件は買い取れません。たとえば、建物が古すぎて倒壊の危険があり、かつ解体費用が土地の価格を上回ってしまうような、いわゆる「マイナスの資産」になっているケースです。私たちもボランティアではなく事業として行っている以上、解決にかかる労力とコストが見合わない場合は、心苦しいですがお断りすることもあります。
——「何でも買います」という安請け合いではないからこそ、逆に信頼ができると感じます。
大江:そう言っていただけるとありがたいです。ただ、ひとつ言えるのは「早いほうが選択肢は多い」ということです。建物が朽ち果てる前、共有者が数十人に増える前であれば、値段がつく可能性は高まります。迷っている間に状況が悪化して「買えない不動産」になってしまうのが一番もったいない。だからこそ、少しでもモヤモヤしているなら、早めに声をかけてほしいですね。

次世代に「宿題」を残さないために
——最後に、相続プラスの読者を含め、相続不動産の共有問題にお悩みの方へメッセージをお願いします。
大江:不動産の問題は、揉めてから動き出すと解決までに膨大なエネルギーを使います。理想は「揉めないように備えること」ですが、もし既に共有状態で悩んでいるなら、「自分の代で決着をつける」という視点を持っていただきたいです。
以前、私が深く関わったご依頼で、ご自身の持分を売却された直後に亡くなられたお客様がいらっしゃいました。結果として、複雑な共有持分を子供に残すのではなく、現金としてきれいに資産を引き継ぐことができた。「あの時整理しておいて本当に良かった」とご家族からも感謝されました。
——共有名義のまま不動産を次世代に渡すのは、資産だけでなく「争いの火種」を渡すことにもなりかねないですね。
大江:はい。現金であれば1円単位で分けられますが、不動産の共有持分はそうはいきません。私たちだけで解決できない問題でも、提携している弁護士や税理士の先生方とおつなぎすることで、解決の糸口が見つかることもあります。1人で抱え込まず、まずは「出口」を探しに来てください。


大江 剛
株式会社クランピーリアルエステート 代表取締役
1983年生まれ、宅地建物取引士。IT・士業コンサルティング事業を経て現職。「共有名義不動産」をはじめとする訳あり物件の買取・再生を専門に行う。全国の1,500以上の法律家と連携した安全かつ迅速な取引体制を構築し、買取累計金額は100億円以上。累計相談対応数は2万件以上。共有状態の解消や、複雑な権利調整が必要な案件のプロフェッショナル。

