相続した土地は早く売却すべき?早期売却がおすすめのケースと注意点

公開日:2025年5月27日

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相続した土地は所有しているだけで固定資産税などのコストがかかります。活用の予定がないなら売却をおすすめしますが、相続で取得したものであれば相続後早期に売却することで税制上メリットが生じる可能性があります。この記事では、相続した土地の売却・所有にかかるコストや早期売却した方がいいケース・注意点を詳しく解説します。

相続した土地はすぐに売却すべきなのか

相続では、遠方の実家や田舎の土地のように活用の予定のない土地を受け継ぐケースは珍しくありません。将来住むなど活用の予定があれば問題ないですが、活用予定のない土地を所有し続けていても、固定資産税や維持管理の費用などのコストばかりかかります。さらに、相続した土地を放置していると不法投棄される・雑草が生い茂り近隣からクレームが入るなどのリスクを抱えることにもなるのです。

そのようなリスクを避けるには、売却して手放すこともひとつの有効な方法です。とくに、相続した土地であれば一定期間内に売却することで受けられる特例・控除があるので、早い段階で売却に動くことで税負担を軽減させられる可能性があるのです。

ただし、売却するにも費用はかかります。そのため、所有・売却にかかるコストを考慮したうえで、検討することが大切です。

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相続した土地を売却する際にかかる税金

相続した土地の売却時にかかる税金は「登録免許税」「印紙税」「譲渡所得税」の3つです。なかでも、譲渡所得税が課税されると高い税負担になる恐れがあるので、概要を押さえておくようにしましょう。

登録免許税

登録免許税とは、不動産登記の際に法務局に支払う手数料としての税金です。

不動産登記はいくつか種類があり、相続した土地の売却では所有権移転登記が関わってきます。所有権移転登記とは、不動産の所有者の名義を変更する登記です。

相続した土地の売却では、以下の2つの名義変更が必要になります。

  • 相続登記(被相続人から相続人への名義変更)
  • 売買後の所有権移転登記(売主から買主への名義変更)

被相続人(亡くなった方)から土地を相続した場合、そのことを登記しなければなりません。つまり、相続を要因とした所有権移転登記ですが、この手続きのことを相続登記と呼びます。また、相続した土地を売却する場合、相続登記で新たな所有者となった人から、土地を購入した人へ所有権の移転登記をすることになります。

上記の通り、相続した土地の売却では相続を要因とした所有権移転登記と売買を要因とした所有権移転登記の2つの登記手続きが必要になるのです。いずれも元の所有者から新しい所有者への名義変更になりますが、名義変更する理由に応じて登録免許税は以下のように異なります。

土地建物
相続不動産評価額×0.4%不動産評価額×0.4%
売買不動産評価額×2%不動産評価額×2%

たとえば、不動産評価額3000万円の場合、相続登記での登録免許税は12万円、売買では60万円が必要です。また、司法書士に登記手続きを依頼する場合は、別途司法書士報酬がかかります。

なお、売買の所有権移転登記の登録免許税は買主側が負担するケースが一般的です。

印紙税

印紙税とは、契約書や領収書などの一定の文書を作成した際にかかる税金です。土地の売買では、売買契約書が税金の対象となります。

印紙税の税額は契約書にかかれた金額(売買金額)に応じて異なり、主な土地取引価格帯での税額は以下のとおりです。

契約金額本則税率軽減後の税率(令和9年3月31日まで)
100万円超500万円以下2000円1000円
500万円超1000万円以下1万円5000円
1000万円超5000万円以下2万円1万円

参考:不動産譲渡契約書」及び「建設工事請負契約書」の印紙税の軽減措置の延長について|国税庁

印紙税は、税額分の収入印紙を購入し契約書に添付・消印して納税します。一般的には、不動産会社が収入印紙を用意し清算するケースが多いので、事前に確認するようにしましょう。

譲渡所得税

売却の利益は譲渡所得と呼ばれ所得税・住民税・復興特別所得税が課税されます。売却の利益は以下の計算方法で求めます。

    譲渡所得=売却額-(取得費+譲渡費用)-特別控除

大まかには、売却金額から購入時にかかった費用と売却時にかかった費用を差し引いた分が利益です。さらに特例まで控除し、プラスが出た場合に以下の税率で課税されます。

短期譲渡所得長期譲渡所得
所有期間5年以下5年超
所得税・復興特別所得税30.63%15.315%
住民税9%5%
合計税率39.63%20.315%

税率は、所有期間5年を境に短期譲渡所得・長期譲渡所得の2種類に分かれます。相続では、被相続人が所有していた期間からの通算が所有期間になるので注意しましょう。

相続の譲渡所得税では、特別控除として「相続空き家の3000万円」か「取得費加算の特例」の適用が検討できます。とくに、相続空き家の3000万円特別控除であれば譲渡所得から最高3000万円が控除できるので、大きな節税効果が見込めます。

ただし、それぞれ適用できる期間が決まっている点に注意が必要です。具体的な時期は後述しますが、適用期間が売却時期を見極める大きな判断基準になるため、税金のシミュレーションと適用要件をチェックし、早めに売却するかを判断しましょう。

相続した土地を所有し続けるためのコスト

売却するかどうかは所有コストも考慮して判断することが大切です。相続した土地を所有し続けるためのコストとしては、固定資産税と維持管理の費用が挙げられます。

固定資産税

固定資産税とは、毎年1月1日時点の不動産所有者に課せられる税金です。建物や土地だけでなく、田畑や山林・倉庫などおおむねすべての不動産が対象となります。

また、不動産の所在地によっては都市計画税も併せて徴収されます。固定資産税と都市計画税は、所有し続ける限り毎年負担が続くため、事前に税額を押さえて負担し続けられるかを検討することが大切です。

なお、居住用の建物が建っている土地であれば以下のような軽減が受けられます。

面積固定資産税都市計画税
住宅用地で住戸1戸につき200㎡までの部分評価額×6分の1評価額×3分の1
200㎡超の部分評価額×3分の1評価額×3分の2

ただし、建物を解体して更地にすると軽減措置の対象外となり本来の高い税額に戻るので注意しましょう。

維持管理の費用と労力

土地を放置していると雑草が生い茂り景観の悪化を招くだけでなく、害虫・害獣の発生、不法投棄されるといったリスクがあります。そのため、活用していない遠方の土地であっても適切な管理が必要です。

定期的に訪れて清掃や除草などのメンテナンスを行う必要があるため、交通費といった費用の負担だけでなく手間や時間がかかります。遠方で定期的に行くのが難しい場合、管理会社に委託する方法もありますが委託料が必要になる点にも留意が必要です。

活用しない土地でも維持管理のための手間や費用がかかってくる点は覚えておきましょう。

仮に、土地に建物が建っており空き家で放置していると、自治体から特定空き家に指定されるリスクがあります。特定空き家に指定されると改善のための命令や勧告に従う必要があり、無視していると居住地の固定資産税軽減が適用されなくなる他、行政代執行される恐れがあるので注意しましょう。

相続した土地をすぐに売却した方が良いケース

売土地のイメージ

どのようなケースで土地をすぐに売却した方がいいのでしょうか。ここでは、相続した土地をすぐに売却した方がよいケースとして以下の4つを解説します。

  • 相続税の納税資金が不足している場合
  • 複数の相続人で分割が難しい場合
  • 土地の活用が難しい場合
  • 取得費加算特例・空き家の3000万円控除を利用できる場合

それぞれ見ていきましょう。

相続税の納税資金が不足している場合

相続税が発生する場合、納税期限は被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。亡くなったことを知った日とは、被相続人が亡くなった日となるケースが一般的でしょう。

相続財産に現預金が多く財産から納税できるなら問題ありません。一方、相続財産が不動産(実家)と現預金がわずかというケースは珍しくなく、相続する現預金だけでは納税が難しい可能性があります。この場合、相続人の自己資金で対応するか相続する不動産の売却を検討することになるのです。

ただ、相続した不動産の売却にはある程度時間がかかるため、売却金で納税を検討する場合は早めに動かなければなりません。

複数の相続人で分割が難しい場合

土地などの不動産は現金のように公平に分割が難しく、しばしば相続トラブルのもととなります。相続人が複数人いて土地を分けるのが難しいなら、売却して現金化するとトラブルなく分割しやすくなるでしょう。

土地であれば、分筆して相続する・複数人で共有で相続するという方法も検討できますが、あまりおすすめできません。分筆する場合、どのように分筆するかで揉めやすいだけでなく、そもそも分筆できるだけの広さが必要です。共有で相続してしまうと、売却する際に共有者全員の合意が必要になるなど権利が複雑化します。

分筆も共有もトラブルになりやすいので、使う予定がない土地であれば売却して手放す方が現実的といえるでしょう。

土地の活用が難しい場合

土地に住む予定がない・貸出などで活用してもコストを上回る収益が見込めないというのであれば、売却して手放したほうが効果的です。

活用予定のない土地を所有し続けても前述のような費用と手間がかかり続けます。仮に、マンション建設や駐車場経営などの活用を検討しても、ある程度まとまった資金が必要なうえ、土地にニーズがあるかが重要になってきます。

活用資金がない・土地に需要が見込めないなら活用するよりも売却が適しているでしょう。

取得費加算特例・空き家の3000万円控除を利用できる場合

相続から一定期間内に売却すれば、譲渡所得税の控除として以下の2つの制度が検討できます。

  • 取得費加算の特例
  • 空き家の3000万円控除

なお、2つの特例は併用できないため、どちらを適用するかはシミュレーションして検討するようにしましょう。また、特例の適用には確定申告が必要です。

取得費加算の特例

取得費加算の特例とは、支払った相続税に応じて一定額を譲渡所得の算出に用いる取得費に加算できる特例です。取得費が増えることで譲渡所得が少なくなり、結果として譲渡所得にかかる税負担の軽減につながります。

本特例での控除額は以下の計算で求められます。

取得費加算の特例のイメージ

参考:No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例|国税庁

主な適用要件は以下のとおりです。

  • 相続や遺贈により財産を取得した者
  • 取得した者に相続税が課税されている
  • 相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却している

取得費加算の特例は、そもそも相続税を支払っていることが前提となる点には注意しましょう。

空き家の3000万円控除

空き家の3000万円控除とは、相続した空き家を売却した際の譲渡所得から最高3000万円を差し引ける特例です。特例を適用することで、譲渡所得3000万円以下であれば譲渡所得税が発生しません。また、この特例は相続した家を解体した更地の売却でも適用可能です。

この特例の主な適用要件は以下のとおりです。

  • 昭和56年5月31日までに建築された建物
  • 相続開始の直前において被相続人以外に居住している人がいなかった
  • 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
  • 売却代金が1億円以下
  • 一定の耐震基準を満たすか建物を解体しての売却である

参考:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁

相続した土地を売却する際の注意点

相続した土地の売却には押さえておきたい注意点がいくつかあります。ここでは、注意点として以下の5つを解説します。

  • 相続登記を行ってから売却する
  • 土地を取得した際の書類を探しておく
  • 早期売却の特例・控除は併用できない
  • 土地を売却した翌年には確定申告が必要になる
  • 土地を持ち続けることで効果的な活用ができることもある

それぞれ見ていきましょう。

相続登記を行ってから売却する

土地を相続したら売却前に相続登記が必要です。相続登記前の不動産は被相続人名義となるため、相続人でも売却できません。

また、相続登記の義務化にともない相続開始から3年以内に相続登記が必要という期限が設けられ、期限内に登記しないと過料の恐れがあります。売却する・しないに関わらず早めに相続登記を行うようにしましょう。

なお、相続登記時には売却やトラブル防止を考慮し、共有ではなく単独名義にするのが望ましいです。

土地を取得した際の書類を探しておく

譲渡所得を計算する際、土地を購入した時の費用を譲渡費用として計上できます。しかし、計上するには領収書や契約書などの書類が必要になるので、事前に思い当たる場所を探しておくようにしましょう。

書類がなければ経費計上はできません。この場合、概算取得費として売却額5%を計上することになり、本来の取得費よりも経費計上できる額が下がり税金が多く発生する恐れがあります。

早期売却の特例・控除は併用できない

前述のとおり、取得費加算の特例と空き家の3000万円控除は併用できません。どちらを利用したほうがいいかは、シミュレーションして検討することが大切です。

相続税や譲渡所得の計算は複雑になりがちなので、シミュレーション時には税理士や不動産会社への相談をおすすめします。

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土地を売却した翌年には確定申告が必要になる

土地を売却して譲渡所得税が課税される場合、確定申告で納税が必要です。確定申告時期は、原則として売却した年の翌年2月16日から3月15日となるので、忘れないように用意を進めましょう。

確定申告で必要な主な書類は以下のとおりです。

  • 確定申告書
  • 譲渡所得の内訳書
  • 売買契約書のコピー
  • 登記事項証明書
  • 取得費・譲渡費用を証明できる書類

また、特例を適用する際には別途特例に合わせた書類が必要になります。なお、譲渡所得がマイナスになれば譲渡所得税は発生しないので確定申告不要です。ただ、譲渡所損失時にも確定申告して適用できる控除の特例があるので、検討するとよいでしょう。

土地を持ち続けることで効果的な活用ができることもある

相続税の納税資金や相続時の分割・所有後のコストに問題がないなら、所有し続けるのも1つの方法です。

所有していることで、将来自分が住むなど別の活用方法を検討できます。とくに、土地活用を検討する場合、土地の購入から必要か土地をすでに所有しているかは収支に大きく影響します。

相続で土地を所有している方が土地購入費がかからない分有利になりやすいので、土地のニーズなどを踏まえて活用も検討してみるとよいでしょう。

相続した土地の売却は専門家に相談を

相続した土地に活用の予定がなければ、所有し続ける限りコストが発生するため売却を視野に入れることが大切です。また、相続後早期に売却することで取得費加算または3000万円特別控除の適用が検討でき、売却にかかる税金の大きな節税が見込めます。

とくに、相続税の納税資金・分割方法に困るのであれば、特例を利用しての売却がおすすめです。とはいえ、売却を検討する段階では、相続税や譲渡所得税をしっかりシミュレーションして適切な方法を検討する必要があります。

シミュレーションは複雑になりがちなので、税理士や不動産会社への相談をおすすめします。

記事の著者紹介

逆瀬川勇造(ライター)

【プロフィール】

金融機関・不動産会社での勤務経験を経て平成30年よりライターとして独立。令和2年に合同会社7pockets設立。前職時代には不動産取引の経験から、相続関連の課題にも数多く直面し、それらの経験から得た知識などわかりやすく解説。

【資格】

宅建士/AFP/FP2級技能士/相続管理士

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本記事の内容は、記事執筆日(2025年5月27日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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