山林を買い取ってくれる自治体が登場、山林の相続問題解決に期待

公開日:2024年5月9日

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高齢化や核家族化、大都市一極集中による影響で、「山林の相続」による問題が表面化しています。「田舎の山林を相続したけれど、使い道がなく税金や管理の負担ばかりがかかってしまう」とお困りの方もいらっしゃるでしょう。そんな中で、山林を買い取ってくれる制度を設けた自治体が注目を集めています。

兵庫県佐用町の山林引き取り制度

山林を買い取る制度を設けた自治体は、兵庫県南西部に位置する佐用町。森林整備のため、所有者による経営管理が困難な山林の町有林化を促進している自治体です。所有者不明の森林や放置森林を解消するために、山林の町有林化事業の一環として、山林の引き取り制度を開始しました。

引き取り方法は「寄付」「買い取り」のいずれかを選択できるようになっています。買い取りの金額は、土地1平方メートルあたり10円。これに加えて、生えている樹木がスギ・ヒノキであれば、1ヘクタールあたりの立木密度に応じて設定されている単価で別途買い取りとなっています。

寄付の場合は確定申告をすることによって寄付控除を受けられる可能性があり、買い取りの場合は所得税算定の対象になりうるので確定申告をする必要があります。税金に関わることなので、制度を活用する際には、どちらの方法が適しているのか税務署に相談するなどして確認するのが良いでしょう。

引き取ることができる山林は地目が「山林」である必要があり、さらに引き取りの可否は審査会によって判定されます。以下に該当する山林は引き取りができないとされているので、注意が必要です。

<引き取りができない山林>

  • 共有地の持分の一部
  • 所有権以外の権利が登記されている
  • 主伐後等で森林に更新されていない
  • 第三者に損害を与える恐れがある
  • 建物や工作物等がある
  • 土壌汚染や埋設物がある
  • 町が不利益を被る恐れがある
  • 税金等の滞納がある(同一世帯全員が対象)
  • 反社会勢力に属している(同一世帯全員が対象)

受付期間は令和6年6月3日から令和6年7月31日。受付期間内に、山林の譲渡申出書(事前提出)および申告書を提出することによって申請が可能です。なお、寄附による引き取りは随時行われているので、詳細は佐用町農林振興課 農林土木整備室までお問い合わせください。

参考:山林の引き取り開始のお知らせ|佐用町

この制度が新設された社会背景

佐用町がこの制度を設けた背景には、前述の森林整備という目的のほかにも、国が進めている「相続登記の義務化」「相続土地国庫帰属制度」が関係していると考えられます。

相続登記の義務化

相続登記は令和6年4月1日から義務化された手続きで、不動産を相続によって取得するときに、その名義人を死亡した人から相続した人に変更することを指します。相続登記には「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、所有権の取得をしたことを知った日から3年以内」という申請期限が定められており、正当な理由がないのに相続登記をしない場合には、10万円以下の過料が科される可能性があります。

相続登記が義務化されたことによって、山林を相続した場合にはその名義を自分に変更しなければならなくなりました。これまでは使い道のない山林を相続した場合に、名義を変更せず、そのまま放置していても法的に問題はありませんでしたが、相続登記の義務化によってそれができなくなったということです。

これは、使い道のない山林を相続した場合に、名義人として山林を管理しなければならず、さらに評価額に応じた固定資産税も納付しなければならない、ということを意味します。

相続する財産に使い道のない土地が含まれていたとしても、自分の名義にしなければならない。これは、管理や税金面で大きな負担になってしまいます。さらに、所有者が土地を管理できずに放置して周囲に迷惑をかけてしまう、ということにもつながりかねません。国もこうしたリスクを懸念しており、その対策として、一定の要件を満たした場合に相続した土地を国に返すことができる、「相続土地国庫帰属制度」が創設されました。

相続土地国庫帰属制度

相続土地国庫帰属制度は、相続した土地の所有権を国に返すことができるという制度です。相続や遺贈で取得した土地を手放したいというニーズの増加や、取得した土地の管理ができずに放置されてしまうことへの対策として、令和5年4月27日からスタートした比較的新しい制度です。

相続土地国庫帰属制度は、前述した佐用町の山林引き取り制度と近い目的で創設されたものですが、大きく異なる点があります。それは負担金の存在です。相続土地国庫帰属制度は、土地を手放す人が負担金を支払って申請をしなければなりません。お金を支払って土地を引き取ってもらう、ということです。

佐用町の山林引き取り制度は、手放す人がお金を支払う必要はありません。その一方で、相続土地国庫帰属制度で山林を手放す場合、その負担金は最低でも21万円(面積に応じて算定)と決して安い金額ではありません。この負担金の有無が、相続土地国庫帰属制度と佐用町の山林引き取り制度の大きな違いです。

さらに、手放すことができる土地の条件にも違いがあります。相続土地国庫帰属制度は、申請・承認ができないケースとして以下の条件を設けています。

申請をすることができないケース(却下事由)(法第2条第3項)

  • 建物がある土地
  • 担保権や使用収益権が設定されている土地
  • 他人の利用が予定されている土地
  • 土壌汚染されている土地
  • 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地

承認を受けることができないケース(不承認事由)(法第5条第1項)

  • 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
  • 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
  • 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
  • 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
  • その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地

この条件は、山林を手放す場合において、佐用町の山林引き取り制度よりも厳しい条件と言えます。特に山林は「境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地」「一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地」に該当することが多く、相続土地国庫帰属制度を使いたくても使えない、ということが起こりうるわけです。

佐用町の山林引き取り制度は、土地が山林であることに限定されますが、相続土地国庫帰属制度よりも条件が緩く、負担金もかからないので利用しやすい制度と言えるでしょう。

「使い道のない土地を相続したけれど手放したい」というニーズは、これからも増加していくと予想されます。今回紹介した佐用町のように、住民が利用しやすい制度で土地を引き取る自治体が増えてくるかもしれません。

山林を相続したら放置せず適切な対応を

相続登記の義務化によって、山林を相続した際には相続登記を行わなければならなくなりました。使い道のない山林を相続した場合は、相続土地国庫帰属制度を活用して手放すことも検討すべきですが、前述した通り相続土地国庫帰属制度を使いたくても使えない、ということも考えられます。佐用町のように、自治体がサポートをしてくれる制度が広がっていく可能性もありますので、活用できる制度がないか調べてみることも重要になってくるでしょう。

こうした制度の活用も含め、山林を相続したら早い段階で適切な対応を行うことが大切です。当サイトでは、不動産の相続の第一歩である「相続登記」について特設ページを設け、専門家検索や解説記事、実際に登記を行った方の体験談など多くのコンテンツを掲載していますので、ぜひ参考にしてみてください。

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相続プラス編集部

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相続に関するあらゆる情報を分かりやすくお届けするポータルサイト「相続プラス」の編集部です。相続の基礎知識を身につけた相続診断士が監修をしております。相続に悩むみなさまの不安を少しでも取り除き、明るい未来を描いていただけるように、本サイトを通じて情報配信を行っております。

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年5月9日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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