相続対策として遺言代用信託をしようかどうか悩んでいませんか。遺言代用信託とは、契約者が死亡したら預けていた金銭を指定した受取人に払い出すサービスです。本記事では、遺言代用信託の基礎知識から手続き方法、注意点までを解説します。資産をスムーズに引き継ぎたい方や故人の遺言代用信託の受取人になった方は、参考にしてください。
目次
遺言代用信託とは
遺言代用信託とは、契約者が財産を信託銀行に預けて、契約者が死亡したあとに信託銀行が指定された人に払い出すサービスです。亡くなった方が指定した人に財産を引き継ぐことが遺言と似ている点から、「遺言代用信託」と呼ばれています。
契約者本人が存命の間は本人が受益者となり、亡くなったあとは誰を受益者とするか、つまり受取人を決められます。受取人は1人に限らず、複数人指定することが可能です。ちなみに、契約者は委託者、資産を管理する信託銀行を受託者と呼びます。
本来、被相続人が遺言書を作成していなかった場合、相続人全員で遺産分割協議を行って遺産の分け方を話し合う必要があります。しかし、被相続人が遺言代用信託を利用していれば、信託されていた財産に関して遺産分割協議で遺産の分け方を話し合う必要はありません。
遺言代用信託の理解を深めるために、以下の順番でより具体的な内容を確認しましょう。
- 遺言代用信託のメリット
- 遺言代用信託のデメリット
- 遺言代用信託が向いているケース
それでは、順番に解説します。
遺言代用信託のメリット
遺言代用信託の大きなメリットは、被相続人が亡くなったあと相続人らで行う遺産分割を待たずにお金を引き出せることです。
通常、金融機関の口座は、名義人が死亡すると凍結されてしまい、他の人が引き出すことはできません。遺産分割協議書を作成し、戸籍謄本などの必要書類を提出したのち、ようやくお金が引き出せるようになります。
しかし、葬儀費用や入院費、配偶者の生活費などの支払いに必要なお金を引き出せなくなってしまい、相続人の財布から一時的に支払いを行わなければなりません。
また、遺言代用信託には2つの種類があります。
- 一時金型:一度に信託された財産をすべて受け取る
- 年金型(定期定額型):定期的に信託された財産を受け取る
年金型にすると、毎月・隔月など、信託財産を受け取るタイミングと金額を設定できます。一度に遺産を相続すると詐欺被害に遭うリスクやギャンブル・投資などで一度に大金を使ってしまう危険がありますが、年金型であれば堅実に生活費として遺産を使えるでしょう。
さらに、契約者が生きている間は信託した財産を自由に引き出すことが可能です。なかには定期的に受け取れる設定ができます。存命中は老後資金として使い、死後に余った財産を家族に引き継げることも、遺言代用信託のメリットといえます。
加えて、遺言代用信託は子どもの次の世代やその次の世代まで相続内容を確定できます。通常、自分の子どもに財産を相続させたい場合は遺言書で指定できますが、子どもが引き継いだ財産を孫に引き継ぐ場合、子どもが指定しなければなりません。
生まれていない孫・ひ孫などを受取人として設定することも可能なため、次世代以降の相続についても指定したい場合に活用できます。
遺言代用信託のデメリット
遺言代用信託のデメリットは、預貯金に限られる点です。不動産や有価証券などの財産は遺言代用信託で信託できません。
信託できる財産には上限・下限が設定されているケースがほとんどです。たとえば、「100万円以上3000万円以下(1万円単位)」「契約者が保有している金融資産の3分の1までの金額」などと制限が設けられています。一定の財産がなければ利用できない点に注意しましょう。
また、契約期間中は信託銀行に対して信託報酬を支払う必要があります。ただし、信託報酬について費用が明記されていない信託銀行が多く、実際に問い合わせなければ具体的な費用を知ることができません。
さらに、遺言代用信託は契約すると、原則解約できません。解約できる信託銀行もありますが、一定の解約手数料が設定されています。契約前にライフプランや家族の状況を考慮して、必要なサービスであるかどうかをよく検討しましょう。
遺言代用信託が向いているケース
遺言代用信託が向いているケースは、以下の通りです。
- 遺産が預貯金のみの場合
- 子どもから孫への相続内容を決めたい場合
遺産が預貯金のみであればすべての財産を信託できるため、相続人の負担軽減につながります。一方で、不動産や有価証券などを保有している場合、遺言書で相続する人を指定したり、死後に相続人全員で遺産分割協議をしてもらったりする必要があります。遺産が預貯金のみであれば、相続対策として役立つでしょう。
また、遺言代用信託なら、自分の財産を引き継いだ子どもが死亡したあと、孫が相続するときの遺産分割について設定できます。子どもから孫へ相続するときの遺産分割について自分で設定したい場合に遺言代用信託は有効です。
遺言代用信託の活用事例
遺言代用信託をどのように活用したらよいのか、具体的にイメージできない方もいるでしょう。ここでは、遺言代用信託の活用事例を5つご紹介します。
- 葬儀費用や入院費をすぐに受け取ってほしい
- 定期的に資産を渡して配偶者や子どもに安定した生活を送ってほしい
- 介護をしてくれた同居している子どもに手厚くお金を残したい
- 中小企業を円滑に承継したい
- 子どもから孫への資産分配を決めたい
詳しく確認しましょう。
葬儀費用や入院費をすぐに受け取ってほしい
万が一に備え、自分の葬儀費用や入院費など死後すぐに支払いをしなければならない分だけ、一時金受け取りで家族へ資産を受け取ってもらうことが可能です。
遺言代用信託は、遺産分割協議を行わなくても受取人はすぐに財産を受け取れます。たとえば、葬儀費用として300万円だけ遺言代用信託しておけば、家族に経済的な負担をかけずに葬儀を執り行ってもらえます。
定期的に資産を渡して配偶者や子どもに安定した生活を送ってほしい
配偶者や子どもに安定した生活を送ってもらうためには、信託した資産を定期的に受け取れる定期定額受け取りがおすすめです。
たとえば、資産2000万円を10年間に渡って年間200万円ずつに分けて受け取れる設定ができます。年に一度だけでなく「2か月に一度30万円ずつ」と設定することも可能です。
長期間にわたって一定の資金を渡すことで、安定した生活を家族に送ってもらえるでしょう。
介護をしてくれた同居している子どもに手厚くお金を残したい
介護をしてくれた同居している子どもに手厚くお金を残したいと考える場合にも、遺言代用信託は役立ちます。遺言代用信託は複数人の受取人を指定でき、それぞれに金額を設定できます。
たとえば、資産2000万円を介護してくれた長女に一時金300万円と定期受け取り10年間で1000万円に設定し、別居している長男には残りの700万円を一時金で受け取るよう設定することも可能です。
同じ子どもであっても、苦労をかけた分多くの資産を残したいと考えることは不自然ではありません。遺言代用信託なら受取人ごとに引き継ぐ資産額を変えられるため、実現できます。
中小企業を円滑に承継したい
経営者として生涯現役を貫く方が、自身が死亡しても円滑に事業承継をしたいと考える場合にも遺言代用信託は活用できます。
経営者が死亡し相続が発生すると、事業所の財産であっても相続人が遺産分割を終えるまで後継者は決定しません。経営に空白期間が生まれるケースは珍しくなく、遺言書で指定をしていても遺言執行が行われるまでに時差が発生する場合も否定できません。
遺言代用信託であれば、契約を交わして契約者が死亡した時点で効力を発揮します。そのため、経営者の死後に空白期間を設けずスムーズに事業承継するために遺言代用信託が活用されるケースも数多くあります。
ただし、受取人として指定できる人は推定相続人や近しい親族に限定している信託銀行が多いため、親族間での事業承継にしか活用できない点に注意しましょう。
子どもから孫への資産分配を決めたい
遺言代用信託の跡継ぎ遺贈型受益者連続信託を活用すれば、受取人が亡くなったときに信託した資産を受け取る権利を引き継ぐ人を決めることが可能です。受取人としての権利の順番は何世代先でも決めることができ、まだ生まれていない孫やひ孫などを指定することもできます。
莫大な資産を今後も続くであろう子孫に残したいと考えている場合は、遺言代用信託の跡継ぎ遺贈型受益者連続信託を検討しましょう。
遺言代用信託を利用する流れ
遺言代用信託を利用する流れについて、契約者本人と受取人それぞれの立場から解説します。
- 遺言代用信託を契約する流れ
- 契約者の死後に受取人が財産を受け取る流れ
順番に確認しましょう。
遺言代用信託を契約する流れ
遺言代用信託を契約する場合、以下の流れに沿って信託銀行と契約を交わして資産運用を始めましょう。
- 必要書類を準備して契約を交わす
- 金銭を信託銀行に預ける
- 契約者が亡くなったときの受取人を指定する
- 存命中の資金の受け取り方法や相続開始後の資金の受け取り時期・金額・方法を決める
- 資産運用を開始する
遺言代用信託の契約を交わす際、一般的に準備すべきものは以下の通りです。
- 信託する資金
- 契約者の本人確認書類
- 契約者の印鑑
信託銀行によっては、他の書類の提出が求められる場合もあります。
契約者の死後に受取人が財産を受け取る流れ
遺言代用信託によって信託された財産を受け取る場合、以下の流れに従って手続きを進めましょう。
- 相続発生
- 信託銀行に対して必要書類を提出する
- 金銭を受け取る
受け取りのために、一般的に必要なものは以下の通りです。
- 契約者が死亡した事実を証明する書類(医師の死亡診断書や除籍謄本など)
- 受取人の本人確認書類
- 受取人の個人番号を確認できる書類
- 受取人の指定受取口座の届出印
信託銀行によっては、他の書類の提出が求められる場合もあります。
また、受取人は来店する必要はなく、郵送で対応してもらえる場合があります。一度窓口に問い合わせ、迅速に受け取れるよう手続きを進めましょう。
遺言信託・家族信託・遺言・死因贈与・生命保険などとの違い
遺言代用信託に似た言葉やサービスがたくさんあるため、内容を混同する方もいるでしょう。
ここでは、遺言信託と以下の相続対策との違いについて解説します。
- 遺言代用信託と遺言信託の違い
- 遺言代用信託と家族信託の違い
- 遺言代用信託と遺言の違い
- 遺言代用信託と死因贈与の違い
- 遺言代用信託と生命保険の違い
それぞれの違いを知って、遺言信託の理解を深めましょう。
遺言代用信託と遺言信託の違い
遺言信託とは、遺言作成のサポートを受けたり遺言執行者として銀行を指定できる信託です。遺言内容を銀行が円滑に実行してくれるため、安心して遺産を任せられます。また、遺言書の保管や土地活用、資産運用についてのアドバイスももらえます。
一方、遺言代用信託は預けた資産を契約者の死亡後に指定の受取人に引き継ぐサービスです。遺言書を作成しない点が遺言信託との大きな相違点といえます。
遺言代用信託と家族信託の違い
家族信託とは、家族に自分の財産の管理・運用・処分を任せる制度です。遺言代用信託と家族信託はともに信託契約で、受託者が財産を預かる点も同じです。
しかし、遺言代用信託の受託者は信託銀行である一方、家族信託は子どもや孫などの家族を受託者として指定します。そのため、家族間で契約が完了するため、報酬や手数料などの費用がかかりません。
遺言代用信託と遺言の違い
遺言とは、自分が死亡したあと、持っている資産を誰にどれだけどのように引き継いで欲しいかを指定する文書です。金銭以外にも、不動産や有価証券などの資産についても引き継いで欲しい人を指名できます。
遺言代用信託と違って、遺言者本人だけで作成・保管できる点も異なるポイントです。契約行為でないため、何度でも内容を変更できます。
遺言代用信託と死因贈与の違い
死因贈与とは、生前に贈与者と受贈者の両者が「贈与者が死亡すると財産の所有権が移転する」と合意して贈与契約を交わすことです。
被相続人が死亡したことをきっかけに財産が引き継がれる点は同様ですが、死因贈与には受託者が不要です。受託者が不要である一方、死亡したあと実際に契約通りに所有権が移るかどうかの確実性に欠けるでしょう。
遺言代用信託を契約するには、一度受託者である信託銀行に資金を預ける必要があります。一定の費用は必要ですが、金融機関が指定した通りに受取人へ資金を渡してくれる安心感があります。
また、遺言代用信託は金銭に限られますが、死因贈与なら不動産や有価証券などの資産も受贈者に所有権を移転させることが可能です。
遺言代用信託と生命保険の違い
生命保険は、死亡すると預けた金銭を指定の受取人に財産が支払われる金融商品です。遺言代用信託と似ているものの、税制や契約者の制限に違いがあります。
まず、生命保険は保険金の一部が非課税ですが、遺言代用信託で受け取った資産は普通に相続した場合とで違いはありません。
また、生命保険は年齢や健康状態によって契約できない場合があります。一方、遺言代用信託は年齢制限が設けられておらず、健康状態に関係なく契約できます。
遺言代用信託に関する注意点
遺言代用信託を検討する際、以下の4つの点に注意しましょう。
- 受取人には制限が設けられていることが多い
- 契約内容や手数料は信託銀行によって大きく異なる
- 信託財産には相続税が発生する
- 遺留分は遺言代用信託より優先される
4つの注意点について、詳しく確認しましょう。
受取人には制限が設けられていることが多い
法律上、受取人に要件は設けられていませんが、多くの信託銀行では受取人に制限が設けられています。具体的には、推定相続人や近しい親族に限られています。
相続人になる予定ではない第三者や知人・友人を受取人に設定することはできない可能性があるため、契約を交わす前に確認しましょう。
契約内容や手数料は信託銀行によって大きく異なる
契約内容や手数料は、信託銀行によって大きく異なります。たとえば、以下のような項目で大きな違いがあります。
信託できる資金の金額の制限 | ・100万円以上2000万円まで ・保有する金融資産の3分の1まで |
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受け取り方 | ・一時金型 ・年金型(定期定額型) |
信託期間 | ・5〜30年の期間から1年単位で指定 ・一律最長30年 |
中途解約 | ・できない ・できるが解約手数料がかかる |
このように信託できる資金の金額や指定できる内容が信託銀行によって異なるため、資産状況や家族の状況によって最適な信託銀行を選ばなければなりません。
また、契約時の手数料や信託中の報酬などにも違いがあります。手数料や信託報酬は、信託する資産の金額に対して数%と設定しているケースが多いです。0.1%変わるだけでも発生するコストが大きく変わるため、比較した上で信託する金融機関を選びましょう。
信託財産には相続税が発生する
信託財産は、相続税の課税対象です。信託財産は、契約者が死亡すると受取人の所有物となり、所有権が移転します。一般的な相続で引き継いだ金銭や不動産と同様に評価されるため、節税効果はありません。
生命保険のように控除額が設けられているわけではないため、あらかじめ理解しておきましょう。
遺留分は遺言代用信託より優先される
遺留分は遺言代用信託より優先されるため、特定の相続人や親族に偏った財産を譲り渡す契約を交わすと相続トラブルに発展する可能性があります。
遺留分とは、被相続人の配偶者や子ども、両親などに保証されている最低限受け取れる遺産の取り分のことです。遺留分を侵害された相続人は、多くの遺産を受け取った人に対して遺留分侵害額請求を行って、侵害された額相当の金銭を受け取れます。
遺言代用信託によって遺留分を侵害するようなことがあれば、親族間でトラブルに発展しかねません。あらかじめ相続人それぞれの遺留分を把握し、円滑に相続手続きを進めてもらえるような配慮をしておきましょう。
相続専門の弁護士などの専門家に相談すれば、遺言代用信託の契約内容が遺留分を侵害していないか確認してくれるため、サポート・アドバイスを受けることをおすすめします。
遺言代用信託を含めた相続対策で相続トラブルを回避しよう
遺言代用信託は、自分が亡くなったら預けた金銭を指定した人に引き継ぐことができるサービスです。通常の相続と違って、契約者が死亡すると指定された受取人はすぐに金銭を受け取れます。
しかし、遺言代用信託には手数料や信託報酬がかかる点や途中解約しづらい点がデメリットです。契約内容によっては、遺言や死因贈与のほうがコストをかけずに自分の意思を実現できるかもしれません。
自分にとって最適な選択をするために、相続や信託に詳しい弁護士などの専門家にアドバイスをもらうことをおすすめします。自分1人で相続対策を進めるよりも、心強いでしょう。
無料相談を受け付けている弁護士も多いため、ぜひ気軽に問い合わせてみてくださいね。