特別方式遺言(緊急時遺言)とは?利用するシーンや作成方法を解説

公開日:2024年7月19日

特別方式遺言(緊急時遺言)とは?利用するシーンや作成方法を解説_サムネイル

「突然余命宣告をされた」「災害で孤立してしまった」など、一般的な遺言書が作成できないような緊急の状態であっても、特別方式遺言(緊急時遺言)を利用すれば家族に意思を残すことができます。本記事では、特別方式遺言の種類ごとに利用できるシーンや作成方法について詳しく解説します。万が一のときにも遺言を残す方法を知っておきましょう。

特別方式遺言(緊急時遺言)とは

特別方式遺言(緊急時遺言)とは、緊急の状態で作成できる遺言書のことです。通常、遺言書は法律で定められているルールにのっとって作成しなければ効力を発揮しません。

しかし、急な余命宣告や大怪我によって寿命が迫っているなかで、遺族に向けて遺言を残したい場合もあるでしょう。このような緊急の状態で作成する遺言書が特別方式遺言です。

特別方式遺言は、大きく危急時遺言と隔絶地遺言の2つに分類され、さらに以下のように細分化されてあわせて4つの種類があります。

<危急時遺言>

  • 一般危急時遺言:病気や怪我などによって生命の危機が迫った状態で作成する遺言
  • 難船危急時遺言:船舶や飛行機などで危難に遭い、生命の危機が迫った状況で作成する遺言

<隔絶地遺言>

  • 一般隔絶地遺言:伝染病による隔離や、刑務所で服役中によって通常の遺言が残せない場合に作成できる遺言
  • 船舶隔絶地遺言:長期間航海によって陸地から離れた場所にいるため、通常の遺言が残せない場合に作成できる遺言

このように、通常の遺言書が書けない状況や原因によって特別方式遺言が作成されます。

特別方式遺言と普通方式遺言の違い

通常作成される自筆証書遺言書や公正証書遺言書、秘密証書遺言書は普通方式遺言と呼ばれています。ほとんどのケースで普通方式遺言が採用され、特別方式遺言は非常に稀なケースです。

特別方式遺言と普通方式遺言の大きな違いは、有効期限の有無です。普通方式遺言書であれば作成日がいつであっても死後に効力が生まれます。

一方、特別方式遺言は特別な事情によって生命の危機から逃れて、普通方式遺言を作成できるようになった時点から6か月生存していた場合に無効となるため注意しましょう。

また、それぞれに利用できる条件や作成方法があります。条件を満たしていない場合や、作成方法が異なる場合は遺言としての効力を発揮しません。

次の章から特別方式遺言の種類ごとに利用できる条件や作成方法について解説します。

危急時遺言

危急時遺言のイメージ

危急時遺言とは、病気や怪我、遭難などによって生命の危機が迫った状態で作成する遺言です。危急時遺言には、以下の2つの種類があります。

  • 一般危急時遺言
  • 難船危急時遺言

それぞれどのような場合に作成できるのか、詳しく確認しましょう。

一般危急時遺言

一般危急時遺言とは、病気や怪我などの一般的な事情によって生命の危機に瀕している方が使える遺言方式です。たとえば、いきなり余命宣告をされた場合や交通事故で大怪我をして生命の危機が迫っている場合などが当てはまります。

一般危急時遺言は、自筆でも代筆でも問題ありません。ただし、3人以上の証人の立ち会いが必要です。

証人が遺言者から口頭で伝えられた内容を書き取る方法で作成することもできます。この場合、書き取られた内容を遺言者本人と他の証人に読み上げ、内容に間違いがないか確認します。全ての証人が署名押印をすれば遺言書は完成です。

一般危急時遺言における遺言者は危篤状態であると想定されているため、遺言者本人の署名押印は不要です。また、利害関係者は証人にはなれず、配偶者や子どもなど、相続人になると想定される方以外で証人を用意しなければなりません。

一般危急時遺言が作成されると、証人の1人、または利害関係人が作成日から20日以内に家庭裁判所で確認手続きを申し立てる必要があります。

確認手続きで必要な書類は、以下の通りです。

  • 申立書
  • 申立人の戸籍謄本
  • 遺言者の戸籍謄本
  • 証人の戸籍謄本
  • 遺言書の写し
  • 遺言者が存命の場合は医師による診断書

申立人には、証人の1人、または利害関係人がなれます。手続きをしないまま期限を迎えると、遺言に効力が生じないため注意しましょう。

また、病気や怪我が回復して生命の危機から脱した場合、普通方式遺言を作成できるようになってから6か月間生存していた場合、一般危急時遺言は無効となります。

難船危急時遺言

難船危急時遺言とは、船舶や飛行機などで危難に遭い、生命の危機が迫った状況にある方が作成できる遺言形式です。たとえば、船が遭難して生きていくことが難しい状況や、飛行機事故によって命に危険が及ぶ場合などが当てはまります。

一般危急時遺言と比べて緊急性が高いため、証人は2人以上と定められています。書き方は、遺言者本人の自筆でも代筆でも問題ありません。証人に口頭で伝えて書き取ってもらうことも認められています。遺言内容は遺言者と証人が内容を確認し、承認全員が署名押印して遺言は完成です。遺言者による署名捺印は必要ありません。

難船危急時遺言が作成されると、証人の1人、または利害関係人が家庭裁判で確認手続きを行う必要があります。ただし、一般危急時遺言と違って、すぐに家庭裁判所で手続きできないことが想定されるため、期限は設けられていません。

確認手続きで必要な書類は、以下の通りです。

  • 申立書
  • 申立人の戸籍謄本
  • 遺言者の戸籍謄本
  • 証人の戸籍謄本
  • 遺言書の写し
  • 遺言者が存命の場合は医師による診断書

遺言者が生命の危機から脱した場合、普通方式遺言を作成できるようになってから6か月間生存していた場合、難船危急時遺言は無効となります。

隔絶地遺言

隔絶地遺言とは、一般社会や陸地から隔離された場所にいる方が作成できる遺言です。隔絶地遺言には、以下の2つの種類があります。

  • 一般隔絶地遺言
  • 船舶隔絶地遺言

それぞれどのような場合に作成できるのか、詳しく確認しましょう。

一般隔絶地遺言

一般隔絶地遺言とは、伝染病や感染症、災害孤立などによって遠隔地に隔離されている状況で普通方式遺言が残せない方に認められた遺言形式です。服役中で刑務所にいる方や、戦争・クーデターに遭った方にも作成が認められています。

作成には、警察官1人と証人1人の立ち会いが必要です。危急時遺言と違って、遺言者本人による作成しか認められていません。

代筆や口頭で遺言内容を伝えて書き取ってもらう作成方法は認められないため、注意が必要です。遺言者本人が作成した遺言書に、遺言者と立会人全員の署名捺印をして遺言書が完成します。

遺言者本人が作成しているため、家庭裁判所での確認手続きは不要です。また、普通方式遺言を作成できるようになってから6か月間生存していた場合、一般隔絶地遺言は無効となります。

船舶隔絶地遺言

船舶隔絶地遺言とは、長期間漁船やクルーズ船などに乗って陸から離れた場所にいることによって普通方式遺言が残せない方に認められた遺言形式です。船舶中に遺言できる方式のため、遺言者が危篤状態である必要はありません。

作成には、船長もしくは事務員1人と証人2人以上の立ち会いが必要です。一般隔絶地遺言と同じように遺言者本人による作成しか認められていません。

代筆や口頭で遺言内容を伝えて書き取ってもらう作成方法は認められないため、注意が必要です。遺言者本人が作成した遺言書に、遺言者と立会人全員の署名捺印をして遺言書が完成します。

船舶隔絶地遺言も遺言者本人が作成しているため、家庭裁判所での確認手続きは不要です。また、普通方式遺言を作成できるようになってから6か月間生存していた場合、船舶隔絶地遺言は無効となります。

遺言書作成や相続対策は早めに済ませよう

特別方式遺言とは、生命の危機に瀕した方や陸地・一般社会から離れた場所にいる方が緊急の状態で作成する遺言形式です。予期せぬ事故や自然災害によって、遺族へ自分の意思を残したいときに活用できます。

しかし、特別方式遺言を作成する状況は非常に稀なケースで、よほどの緊急事態ではない限り普通方式遺言で作成することをおすすめします。緊急事態に陥って慌てて遺言書を作成すると、遺言内容が曖昧だったり作成方法が間違ったりして、相続トラブルにつながる可能性があるからです。

元気なうちから遺言書作成や相続対策を始めておけば、不測の事態が起きても家族に負担をかけずに済みます。弁護士などの専門家のアドバイスを聞き、納得のいく遺言書を作成しましょう。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

専門家をさがす

専門家に相談するのイメージ

本記事の内容は、記事執筆日(2024年7月19日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

記事をシェアする