遺言執行者と相続人は同一でいい?懸念されるデメリットや注意点を徹底解説

公開日:2024年6月18日

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「遺言執行者と相続人は同一人物で問題ないのだろうか」とお悩みではありませんか。結論からいうと、遺言執行者と相続人は同一であっても法的に問題はありません。しかし、相続トラブルや手続きの遅延などのリスクが懸念されます。本記事では、遺言執行者と相続人が同一であるデメリットや注意点を中心に解説します。

遺言執行者と相続人が同一であることは可能

遺言執行者と相続人が同一人物であっても、法的な問題はありません。遺言執行者は、未成年者や破産者でなければ誰でもなることができます。また、1人でなければならないというルールもないため、複数人の相続人が遺言執行者となることも可能です。

ここでは、遺言執行者について知識を深めるために、以下の項目の順番に解説をします。

  • 遺言執行者とは
  • 遺言執行者の決め方
  • 遺言執行者になることができない人

順番に確認しましょう。

遺言執行者とは

遺言執行者とは、遺言書の内容を実現させるために実務を行う人のことです。具体的には、以下のような職務が与えられます。

  • 相続人の調査
  • 相続財産調査
  • 財産目録の作成
  • 銀行口座の解約や不動産の名義変更
  • 子どもの認知
  • 相続人の廃除とその取り消し

遺言執行者が存在しない場合は、相続人が遺言を執行します。そのため、遺言書があるからといって、必ずしも遺言執行者を指定・選任しなければならないわけではありません。

遺言執行者の決め方

遺言執行者の決め方は、以下の通り3つあります。

  • 遺言者が遺言で指定する
  • 遺言者が「遺言で遺言執行者を指定する人」を指定する
  • 相続人や利害関係者が家庭裁判所で選任する

遺言者が遺言で指定する場合、「妻の〇〇を遺言執行者とする」「長男の〇〇を遺言執行者とする」などと記載をします。

また、遺言者が遺言で「遺言執行者を指定する人」を指定することも可能です。「妻の〇〇が遺言執行者を指定すること」などと記載されていた場合、遺言者の妻が遺言執行者を指定できます。

遺言書に遺言執行者の指定がない場合や、指定されていた遺言執行者が死亡している場合などには、相続人や利害関係者が家庭裁判所で選任の申し立てを行います。

いずれの場合においても、遺言執行者に指定・選任された方は辞退することが可能です。

遺言執行者になることができない人

民法において、未成年者や破産者は遺言執行者になれないと定められています。

未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。※引用:民法|第1009条(遺言執行者の欠格事由)

そのため、相続人が未成年者および破産者に該当するのであれば、遺言執行者になれません。

「遺言執行者」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

遺言執行者と相続人を同一にするデメリット

遺言執行者と相続人を同一にすること自体に法的な問題はありませんが、以下のようなデメリットがあります。

  • 他の相続人とトラブルになりやすい
  • 知識不足によってスムーズに手続きが進みづらい
  • 一部の相続人に負担がかかってしまう
  • あとから専門家に依頼すると費用と時間がかかる

あらかじめ4つのデメリットについて理解し、相続人を指定・選任すべきかどうかを判断するための材料にしてください。

また、被相続人から遺言によって指定された場合にも安易に承諾せず、引き受けるべきかどうか慎重に判断しましょう。

他の相続人とトラブルになりやすい

相続人の一部の方が遺言執行者になると、他の相続人とトラブルになりやすいため注意が必要です。たとえば、遺言執行者に多くの財産を残すような遺言書の内容になっている場合、「公平ではない」「自分が有利になるように手続きをしている」と感じることがあるでしょう。

遺言の内容に不満を持つ方がいたり、相続人同士の関係がよくなかったりすると、遺言書の改ざんや偽造を疑われる可能性もあります。最悪の場合、遺言無効確認訴訟を引き起こす要因になりかねません。

遺言者によって指定された場合でも、トラブルが予測できるのであれば辞退する方が賢明です。

知識不足によってスムーズに手続きが進みづらい

指定・選任された相続人が相続手続きに慣れていない場合、知識不足によって手続きがスムーズに進まないことが懸念されます。たとえば、相続人を確定するためには被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せて、ひとつひとつ解読していかなければなりません。

また、相続財産の調査や不動産の相続登記にも一定の専門知識が必要です。不備があれば手続きをし直さなければならず、時間がかかってしまいます。なにから手をつけるべきかわからず、結局司法書士や弁護士などの専門家に依頼するというケースは珍しくありません。

相続に関する手続き全般の知識に自信がないのであれば、専門家に依頼するほうが円滑に相続手続きが進められます。

一部の相続人に負担がかかってしまう

複数人いるなかで一部の相続人が遺言執行者となった場合、遺言執行者にだけ多くの負担がかかってしまいます。

遺言執行者は遺言の内容を実現するために、相続人調査から相続財産調査、財産の名義変更などをすべて行わなければなりません。業務が多岐に渡るうえ、手続きごとに多くの書類を収集・作成しなければならず、時間と労力がかかります。

手続きのために仕事を休んで市区町村役場や法務局へ向かわなければならない場合も出てくるため、疲弊してしまうかもしれません。「自分は真面目に手続きを行っているのに遺産が多くもらえるわけではない」と、だんだん不満に感じることも出てくるでしょう。

就任後に遺言執行者を辞退したい場合、家庭裁判所に辞任の申し立てを行う必要があります。正当な事由がなければ認められないため、安易に引き受けないようにしましょう。

あとから専門家に依頼すると費用と時間がかかる

相続人が遺言執行者としての業務を完遂できないと判断した場合、司法書士や弁護士などの専門家に一部の業務を依頼したり、遺言執行者に選任し直したりすることになります。

しかし、他の相続人が専門家に費用を支払うことに納得してくれなければ、遺言執行者になった相続人が自費で報酬を支払わなければなりません。

また、遺言執行者の選任し直しには裁判所での手続きが必要で、時間がかかってしまいます。その分、遺産が相続人の手に渡るタイミングが遅くなるため、他の相続人から不満が出てくる可能性があります。

相続に関する一連の手続きをすべて行う自信がないのであれば、遺言執行者を引き受けないようにしましょう。初めから専門家に依頼した方が、遺産のなかから費用を支払うことに納得してもらいやすいです。

遺言執行者を専門家に依頼するメリット

遺言執行者がやらなければならない業務や権限が多いことから、一部の相続人に任せると悪い結果をもたらす恐れがあります。そのため、初めから専門家に依頼することをおすすめします。

遺言執行者を専門家に依頼するメリットは、以下の通りです。

  • 中立の立場でトラブルになりにくい
  • 相続手続きがスピーディーに進む
  • 相続人の負担が軽減される

順番に確認し、積極的に専門家の力を借りることを検討しましょう。

中立の立場でトラブルになりにくい

遺言書が相続人らにとって公平な内容でなかったとしても、「納得いかない」といった不満が親族に向けられず、相続トラブルに発展しづらいです。

相続人らの仲が悪い場合や、法定相続分よりも指定する取り分が少ない相続人がいる場合は、専門家に遺言執行者を依頼した方が円滑に遺言を執行してもらえるでしょう。

特に、弁護士であれば訴訟問題へ発展した際にも解決に向けて動いてもらえます。

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相続手続きがスピーディーに進む

相続を専門に扱っている専門家に遺言内容を実現してもらえれば、実務的な手続きもスピーディーに進められます。

相続人の確定や相続財産の調査、相続登記などには数多くの書類を収集しなければなりません。遺言書に誰がどの遺産を引き継ぐかまでの遺産分割についての指定があれば遺産分割協議をしなくても済みますが、相続分の指定のみであれば相続財産と相続人の確定をふまえたうえで遺産分割協議を行う必要があります。

相続財産や相続人の漏れや不備があると遺産分割協議のやり直しをしなければならないケースも出てきてしまい、相続税申告の期限に間に合わなくなる場合もあるでしょう。

相続税の申告期限は、被相続人の死亡した翌日から10か月以内です。遺産分割協議ができていないといった理由で遅延することは許されないため、スピーディーに相続手続きを完了させる必要があります。

相続人の負担が軽減される

専門家を遺言執行者にすると、相続手続きにかかる相続人の負担軽減につながります。

相続人が遺言執行者となった場合、相続手続きの多さに疲弊してしまうケースが少なくありません。しかし、手続きを専門家に一任できれば、仕事や育児をしながら市区町村役場や法務局へ出向いて手続きをする必要がなくなります。

相続人の負担が軽減され、相続手続き中であっても平常通りの生活が送れます。

遺言執行者にふさわしい専門家と報酬相場

十分な知識をもって遺言執行者の実務を行ってくれる専門家には、以下のような専門家が挙げられます。どのような専門家に依頼すべきかは、相続人や相続財産の状況に合わせて選びましょう。

専門家おすすめのケース
弁護士・相続トラブルが予測される
・遺言によって非嫡出子の認知や相続廃除・その取り消しを行いたい
司法書士・相続財産に不動産が含まれており、相続登記を任せたい
行政書士・遺言執行の手続きだけをお願いしたい
信託銀行・遺言者が遺言信託や遺産整理業務を依頼している懇意の信託銀行がある

また、専門家に遺言執行者を依頼したときの報酬相場は、遺産総額の1〜3%程度です。別途、相談料や日当、実費でかかった交通費なども上乗せされる場合があります。

士業事務所や銀行によって料金設定が大きく異なり、最低料金を設定している場合もあります。丁寧に説明してもらい、報酬額に納得したうえで依頼するようにしましょう。

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遺言執行者と相続人が同一な場合に知っておくべきこと

遺言執行者と相続人が同一な場合に知っておくべきことのイメージ

遺言執行者と相続人が同一な場合に知っておくべきことは、以下の2点です。

  • 遺言執行者は解任や辞任ができる
  • 遺言者が遺言で指定をする際にしておきたい事前準備がある

順番に確認しましょう。

遺言執行者は解任や辞任ができる

遺言執行者が指定・選任されたとしても、相続人や利害関係者が解任させたり、指定・選任された本人が辞任したりすることが可能です。

解任する場合

相続人や利害関係者が遺言執行者を解任させるには、家庭裁判所において解任申し立てを行います。

以下のような理由があれば、家庭裁判所において解任の請求ができます。

  • 遺言執行に着手しない状況が続いた
  • 遺言執行の状況を確認しても開示しなかった
  • 高額な報酬を請求された
  • 遺言執行者が行方不明になった
  • 遺言執行者の就任後に破産を行った
  • 特定の相続人に有利な遺言執行を行った
  • 遺言執行者による相続財産の使い込みがあった

解任の申し立てを行うには、利害関係者全員の同意が必要です。

また、解任後に新たな遺言執行者を選任したい場合、改めて家庭裁判所にて遺言執行者の申し立てを行い、別の方を選任しましょう。

辞任する場合

遺言執行者に指定・選任されたとしても、就職前・後に辞任が可能です。

就職前に辞任したい場合、遺言執行者に就職することを承諾しなければ特別な事由がなくても辞任ができます。

一方、一度承諾したあとに辞任したい場合は、家庭裁判所の許可を得られなければ辞任できません。たとえば、以下のような正当な事由が必要です。

  • 病気や怪我によって遺言執行ができなくなった
  • 長期の出張によって遺言執行ができなくなった
  • 相続人らとの信頼関係が損なわれた

辞任の申し立てを行ったあとも、家庭裁判所による辞任許可決定が下されるまでは誠実に職務を遂行しなければなりません。

遺言者が遺言で指定をする際にしておきたい事前準備がある

もし、これから遺言書を作成する立場なのであれば、相続人を遺言執行者に指定する前に以下の事前準備を行っておきましょう。

  • 遺言執行者になってくれるかどうか打診しておく
  • 遺言書は公正証書遺言にしておく
  • 年齢や健康状態などを考慮しておく

詳しく解説します。

遺言執行者になってくれるかどうか打診しておく

相続人のなかから遺言執行者を指定するのであれば、早めに本人に打診しておきましょう。いきなり遺言書で遺言執行者に指定されても、遺言執行に対応できない可能性があるからです。

具体的に遺言執行者が行う職務や負担の大きさを理解してもらったうえで、承諾をもらってから遺言書に指定すると遺言の実現の可能性が高まります。

遺言書は公正証書遺言にしておく

遺言書は公正証書遺言で作成しましょう。公正証書遺言は、法律の専門家である公証人へ口述によって意思確認を行い、公証人が作成します。そのため、作成におけるミスの心配がなく、法的な効力が担保されます。

もし、自筆証書遺言で遺言執行者を指定しても、指定の方法や相続財産の記載方法を誤ると、遺言の効力がなくなるかもしれません。

確実に意思を遺言に残し、遺言内容を実行してもらうためにも、公正証書遺言を選びましょう。

年齢や健康状態などを考慮しておく

年齢や健康状態を考慮したうえで、遺言執行者として指定したい相続人を選びましょう。

そもそも、未成年者は遺言執行者として認められないため、指定しても遺言執行者に就任できません。また、自分の両親や配偶者を指定したい場合、健康状態によっては遺言者より先に亡くなる恐れがあります。

遺言書で指定した遺言執行者が亡くなっていると、遺言執行者はいないものとして扱われるため注意しましょう。

遺言執行者と相続人が同一であることにはリスクがある

遺言執行者と相続人が同一であっても、法的な問題はありません。しかし、相続人同士におけるトラブルを引き起こしたり、一部の相続人に大きな負担がのしかかったりするため、リスクがあると考えておきましょう。

もし、確実に遺言を執行してもらいたいと考えているのであれば、相続に強い専門家に依頼することをおすすめします。専門家であれば第三者の立場でスムーズに煩雑な手続きに対応してくれるため、相続人としても安心です。

当サイトでは、相続執行者としての経験を持つ専門家を簡単に検索できます。エリアや悩み別に専門家を検索できるため、ぜひ気軽に相談してください。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て2018年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年6月18日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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