相続分の譲渡と登記手続きの流れ、相続分譲渡証明書の書き方、必要書類や注意点

公開日:2024年1月25日

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相続分の譲渡は、面倒な相続トラブルを回避するための有効な手段です。しかし、相続分の譲渡を「誰にしたか」「どのタイミングで行ったか」によって手続き内容が変わります。本記事では、相続分の譲渡をしたときの登記手続き方法や必要書類について解説します。注意点も説明しているため、相続分の譲渡を行う予定の方は参考にしてください。

そもそも相続分の譲渡とは

相続分の譲渡を受けた場合の登記手続きについて解説する前に、相続分の譲渡とはなにか簡単に解説します。

相続分の譲渡とは、法定相続分を他の人に譲る行為です。譲渡できる相手や人数に制限はなく、他の法定相続人にはもちろん、第三者に譲ることもできます。有償・無償どちらで譲っても問題ありません。

また、譲渡できる相続分にも制限はなく、全部でも一部でも譲渡できます。そのため、法定相続分として、預貯金300万円と不動産の持分1/2を相続する権利があった場合に、不動産の持分1/2のみを譲渡することが可能です。

ただし、譲渡できるタイミングは、遺産分割協議が成立する前と定められています。相続人の相続分が変わったり、相続権を持った新しい人物が現れたりすると、遺産分割協議をやりなおす必要が出てきます。そのため、協議成立後の譲渡は原則できません。

相続分の譲渡を行った相続人は相続人の立場を譲ることとなるため、遺産分割協議へ参加する必要はなくなります。相続争いの回避や財産を引き継ぎたくない場合に相続分の譲渡が活用されます。

相続放棄との違い

相続分の譲渡と相続放棄の違いに戸惑う方は少なくありません。

相続放棄とは、相続する権利を放棄して相続財産のすべてを相続しない制度です。預金・現金や不動産などのプラスの財産だけでなく、ローンや借金などのマイナスの財産も引き継ぎません。

相続放棄の手続きをすると、そもそも相続人ではなかったとして扱われます。

相続分の譲渡と相続放棄の違いは複数あるため、異なるポイントをまとめました。

<相続分の譲渡>

  • 相続人としての立場:喪失しない
  • 譲渡・放棄できる相続分の範囲:指定できる
  • 相続分・相続権利の移行:特定の人物を指定できる
  • 手続きの期限:遺産分割協議の成立前
  • 手続き方法:譲渡人(譲渡する相続人)と譲受人(譲渡を受ける人)との間で契約を交わす
  • 債務の弁済:応じる必要がある

<相続放棄>

  • 相続人としての立場:喪失する
  • 譲渡・放棄できる相続分の範囲:すべて(指定できない)
  • 相続分・相続権利の移行:指定できない
  • 手続きの期限:自分に相続があったことを知ってから3か月
  • 手続き方法:家庭裁判所で相続の放棄の申述をする
  • 債務の弁済:応じなくてよい

2つの大きな違いは、相続人としての立場が喪失するかしないかです。相続放棄をすると相続人としての立場が喪失するため、債務の弁済に応じる必要はありません。一方で、相続分の譲渡では相続人としての立場が保たれるため、弁済に応じる必要があります。

状況に合わせて、相続分の譲渡か相続放棄かを選び、期限を守って手続きを完了させましょう。

相続分を譲渡した方がよいケース

相続分を譲渡すべきかどうか判断しづらい方もいるでしょう。そこで、お悩みの方向けに、相続分を譲渡した方がよいケースをご紹介します。

以下のケースに当てはまる場合は、相続分の譲渡を検討しましょう。

  • 相続トラブルに巻き込まれたくない
  • 遺産を相続したくない
  • 早期に相続権を現金化したい
  • 自分以外に遺産相続させたい人がいる
  • 遺産を引き継ぐ人数を絞りたい

順番に解説します。

相続トラブルに巻き込まれたくない

相続トラブルに巻き込まれたくない方は、相続分の譲渡を検討しましょう。なぜなら、遺産分割協議に参加する必要がなくなり、相続人同士で相続財産について話し合わなくて済むからです。そのため、相続トラブルや争いに巻き込まれる恐れが低くなります。

遺産を相続したくない

遺産を相続したくない場合、相続分の譲渡を選択肢の1つとして考えましょう。相続分の譲渡をすれば、面倒な話し合いや手続きから解放されます。相続したい財産がない場合にも、相続分の譲渡をして後悔しないでしょう。

早期に相続権を現金化したい

相続分を有償で譲渡できれば、遺産分割協議が成立する前に現金を手に入れられます。たとえば、「不動産1/3の持分を譲渡する代わりに100万円を受け取る」といった契約が成立すれば、相続登記の手続きや売買契約をせずに現金を受け取れます。手っ取り早く現金を手に入れられるため、多少対価が少なくてもよいと考える方もいるでしょう。

自分以外に遺産相続させたい人がいる

相続の権利を与えたい特定の人がいる場合、自分の相続分の譲渡をすれば実現できます。たとえば、父親が残した遺産を自分の配偶者や子どもに譲りたい場合です。自分には不要なものでも、家族や知人に譲りたい場合に相続分の譲渡の制度を活用できます。

相続分の譲渡があった場合の相続登記

相続分の譲渡があった場合の相続登記のイメージ

相続分の譲渡をしたとき、相続登記の手続き内容が変わる場合があります。以下の2つのケースに分けて、手続きの内容や必要書類について解説します。

  • 相続人に譲渡した場合
  • 相続人以外に譲渡した場合

順番に確認しましょう。

相続人に譲渡した場合

まず、他の相続人に相続分を譲渡したときについて見てみましょう。譲渡をするタイミングによって手続き内容が異なるため、以下の2つの事例をご紹介します。

  • 共同相続登記をするより前
  • 共同相続登記をしたあと

それぞれのタイミングごとに確認しましょう。

共同相続登記をするより前

【例】

  • 相続人:配偶者A・子どもB・C
  • 法定相続分:A(2分の1)・B(4分の1)・C(4分の1)

このとき、CがBに相続分の譲渡をすると、相続分は以下のように変化します。

相続分:A(2分の1)・B(2分の1)

A・Bの間で遺産分割協議によって「Bが不動産を取得する」と決定した場合、直接Bが相続登記できます。

相続登記において遺産分割の内容を証明する書類として、以下の書類を提出しましょう。

  • A・B間の遺産分割協議書
  • Cの相続分譲渡証明書(Cの印鑑証明書を添付)

共同相続登記をする前であれば、直接不動産の所有権を得た相続人が手続きを進めます。

共同相続登記をしたあと

【例】

  • 相続人:配偶者A・子どもB・C
  • 法定相続分:A(2分の1)・B(4分の1)・C(4分の1)
  • すでに法定相続分通りの持分で相続登記済み

このとき、CがBに相続分を譲渡すると、相続分は以下のように変化します。

相続分:A(2分の1)・B(2分の1)

A・Bの間で遺産分割協議を行い、「Bが不動産を取得する」と決定した場合、遺産分割を原因としたA・C持分全部移転登記が可能です。

このとき、A・CからBへ持分が移動するため、Bが登記利権者、A・Cが登記義務者として共同申請を行います。

持分全部移転登記の手続きの際、登記原因証明情報として以下の書類を提出しましょう。

  • A・B間の遺産分割協議書
  • Cの相続分譲渡証明書(Cの印鑑証明書を添付)

共同相続登記をしたあとに相続分の譲渡をするのであれば、相続人全員で共同申請を行います。

相続人以外に譲渡した場合

相続人以外の第三者に相続分を譲渡した場合、被相続人から相続人以外の第三者へ直接所有権移転登記はできません。そのため、一度法定相続分で相続登記が必要です。

例を見てみましょう。

【例】

  • 相続人:配偶者A・子どもB・C
  • 法定相続分:A(2分の1)・B(4分の1)・C(4分の1)
  • Cが自分の息子であるDに相続分を譲渡した

被相続人から直接第三者であるDに相続登記することはできません。そのため、一度法定相続分で相続登記が必要です。

さらに、CからDへ持分移転登記手続きを行います。この2つの登記は同時に申請することが可能です。

登記原因は、以下のように定められています。

  • 相続分の譲渡が無償で行われたとき:相続分の贈与
  • 相続分の譲渡が有償で行われたとき:相続分の売買

持分移転登記の手続きの際、登記原因証明情報として以下の書類を提出しましょう。

  • Cの相続分譲渡証明書(Cの印鑑証明書を添付)

法定相続人でない第三者へ相続分の譲渡をする際は、法定相続分で相続登記をしたあとに持分移転登記手続きをすると覚えておきましょう。

「相続登記」について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

相続分の譲渡に必要な手続き

相続分の譲渡があった場合、相続登記の手続きをするまでにやらなければならないことがあります。

相続分の譲渡に必要な手続きは、以下の4つのステップで行います。

  1. 相続分譲渡証明書を作成する
  2. 相続分譲渡通知書を他の相続人に送付する
  3. 遺産分割協議を行う
  4. 相続登記の手続きをする

雛形を交えながらどのような手続きをするのかを解説します。

相続分譲渡証明書を作成する

まず、相続分の譲渡をしたことを証明するために相続分譲渡証明書を作成しましょう。口頭でも相続分の譲渡は成立しますが、トラブル防止のために書面に残しておくことをおすすめします。

また、以下のケースでは証明書の提出を求められるため、初めから作っておく方がスムーズに手続きを進められます。

  • 相続人以外の譲受人が銀行から被相続人の預貯金を引き出すとき
  • 相続人以外の譲受人が不動産を引き継ぐ際に登記申請をするとき
  • 遺産分割調停を行うとき

かならずしも提出が求められるとは限りませんが、相続人以外が手続きをする際は原則相続分譲渡証明書が必要です。

相続分譲渡証明書の雛形

相続分譲渡証明書の雛形を参考に、相続分譲渡証明書を作成しましょう。

相続分譲渡証明書

 

譲渡人相続一郎(以下「甲」)は、譲受人法務花子(以下「乙」に対して、下記被相続人の相続太郎の相続について、甲の相続分の全部を金300万円で譲渡し、乙はこれを譲り受けた。

 

令和〇年〇月〇日

 

被相続人        相続太郎
死亡時の本籍      東京都世田谷区〇〇町〇番地
死亡時の住所地     東京都世田谷区〇〇町〇番地
生年月日        昭和〇年〇月〇日
死亡年月日       令和〇年〇月〇日

 

(甲)
氏名          相続一郎   (実印)
住所          大阪府大阪市〇〇区〇〇町〇番地
本籍          大阪府大阪市〇〇区〇〇町〇番地
生年月日        昭和〇年〇月〇日

 

(乙)
氏名          法務花子   (実印)
住所          東京都文京区〇〇町〇番地
本籍          東京都文京区〇〇町〇番地
生年月日        昭和〇年〇月〇日

相続分譲渡証明書にフォーマットは定められておらず、以下の内容を記載して実印を押印しましょう。

  • 譲渡人が譲受人に相続分を譲渡する旨
  • 譲渡人を特定できる情報
  • 譲受人を特定できる情報
  • 証明書の作成日

ここでは、「300万円で譲渡した」としていますが、無償で譲渡する場合は「無償で譲渡」と変更します。交わした契約内容に合わせて変更しましょう。

相続分譲渡通知書を他の相続人に送付する

次に、相続分譲渡通知書を他の相続人に送付します。相続分譲渡通知書とは、複数相続人がいる場合に別の人へ相続人の権利を譲渡した事実を知らせるための書類です。

相続分の譲渡は他の相続人の許可を得る必要はありません。しかし、相続分の譲渡を受けた者は遺産分割協議に参加することになります。相続分を譲渡したことを他の相続人に知らせなければ、誰が遺産分割協議に参加することになるのかわかりません。また、他の相続人は、第三に相続分の譲渡がされた場合は、その第三者からその相続分を取り戻す権利を有しているため、相続人全員に通知しましょう。

相続分譲渡通知書には、定められたフォーマットはありません。以下の見本を参考にして作成してください。

東京都渋谷区〇〇町〇番地
相続二郎 様 (通知したい他の相続人の住所と名前)

 

相続分譲渡通知書

 

被相続人相続太郎(本籍:東京都世田谷区〇〇町〇番地)の相続について、私相続一郎は、令和5年10月22日に自己の相続分の全部を法務花子(本籍:大阪府大阪市〇〇区〇〇町〇番地)に譲渡しましたことを、お知らせいたします。

 

以上

 

令和5年11月12日(通知書を発送する日付)

 

大阪府大阪市〇〇区〇〇町〇番地
相続一郎
(譲渡人の住所と氏名)

通知した事実を残すためにも、文書を受け取った証明ができる内容証明郵便などを活用しましょう。

遺産分割協議を行う

相続分の譲渡を受けた譲受人は、遺産分割協議に参加する必要があります。譲受人が不参加のまま開催された遺産分割協議の内容は無効となります。

一方、全部の相続分を譲渡した相続人(譲渡人)は遺産分割協議に参加できないため注意しましょう。

遺産分割協議書には「誰が被相続人か」「誰がどの財産を取得するか」を記載し、遺産分割協議に参加すべき人全員の実印を押印します。

相続登記の手続きをする

最後に、相続登記の手続きを行います。通常必要な書類に加え、申請時には以下の書類の提出も必要です。

  • 相続分譲渡証明書
  • 譲渡人の印鑑証明書

また、相続人以外に譲渡した場合、一度相続登記をしたあとに共同で持分移転登記の手続きを行いましょう。

相続分の譲渡について注意点

相続分の譲渡を行う際、以下の4つの注意すべきポイントがあります。

  • 譲渡後も債務の支払い義務が残る
  • 相続分の取り戻しが行われる可能性がある
  • 遺言書がある場合は相続分の譲渡ができない可能性がある
  • 発生する税金がかわる

それぞれ詳しく解説します。

譲渡後も債務の支払い義務が残る

相続分の譲渡をすると譲渡人は譲渡した相続分の相続権を喪失します。債務については、当事者間では有効ですが、債権者に対しては、その債権者の同意がない限り相続債務を免れることができないので、注意しましょう。相続債権者から支払い請求が来ると、返済しなければなりません。

債務の支払い義務も手放したいのであれば、相続放棄の手続きをしましょう。

相続分の取り戻しが行われる可能性がある

相続人以外の第三者へ相続分の譲渡を行うと、他の相続人は1か月以内であれば取り戻し申請ができます。取り戻し請求とは、他の相続人が譲受人に対して譲渡された分の価格・費用を支払って相続分を取り戻すことです。

たとえば、自分の子どもに相続分の譲渡を行って不動産を取得しようとしても、他の相続人から取り戻し請求をされると思い通りにならないため注意しましょう。

遺言書がある場合は相続分の譲渡ができない可能性がある

遺言書がある場合、遺言書の内容によっては相続分の譲渡ができない可能性があります。

遺言書に指定相続分が決められている場合、指定された相続分の譲渡が可能です。たとえば、長男に2分の1、次男に4分の1、三男に4分の1と指定相続分が決められていれば、指定された相続分を譲渡できます。

しかし、遺産分割の方法を指定されていると相続分の譲渡はできません。たとえば、長男には実家の土地・家屋、次男には〇〇銀行の預金、三男には別荘の土地・家屋、と具体的に指定されているケースです。

遺産分割の方法を指定されている場合、「相続分」の概念がないため相続分の譲渡ができません。

発生する税金がかわる

相続分の譲渡によって、発生する税金や納税義務者が変わる場合があるため注意しましょう。誰にどのような税金が発生するのか、相続分全てを譲渡した場合に発生する税金を以下にまとめました。

<無償(贈与)>

譲渡人が相続人の場合

  • 譲渡人が負担する税金:なし
  • 譲受人が負担する税金:相続税

譲渡人が相続人以外の場合

  • 譲渡人が負担する税金:相続税
  • 譲受人が負担する税金:贈与税

<有償(売買)>

譲渡人が相続人の場合

  • 譲渡人が負担する税金:相続税
  • 譲受人が負担する税金:相続税

譲渡人が相続人以外の場合

  • 譲渡人が負担する税金:相続税
  • 譲受人が負担する税金:原則なし

相続分を譲渡する際には、あらかじめ発生する税金の種類や額を想定しておきましょう。

相続分の譲渡をした際の登記手続きは複雑

相続人のうちの1人が相続分の譲渡をした際、相続分譲渡証明書の作成や相続分譲渡通知書の送付などの特別な作業が発生します。

また、相続人以外の第三者に相続分の譲渡をした際、いきなり被相続人から譲受人へ相続登記できません。一度相続人が相続登記してから譲受人と相続人が共同で持分移転登記手続きを行う必要があります。

このように相続分の譲渡があると、登記手続きは複雑化します。不安や疑問がある場合は、司法書士や弁護士などの専門家に相談しましょう。相続の状況を見て、適切なアドバイスがもらえるはずです。

記事の著者紹介

安持まい(ライター)

【プロフィール】

執筆から校正、編集を行うライター・ディレクター。IT関連企業での営業職を経て平成30年にライターとして独立。以来、相続・法律・会計・キャリア・ビジネス・IT関連の記事を中心に1000記事以上を執筆。

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本記事の内容は、記事執筆日(2024年1月25日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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