孫も遺産相続は可能?相続方法と孫が相続するメリットとデメリットを解説

公開日:2022年6月27日|更新日:2023年1月4日

「孫に財産を相続させたい」そう考えている方も多いでしょう。しかし、孫は本来「法定相続人」とならないため何もしなければ財産を残せません。孫に相続させるには遺言書などの対策が必要になるのです。ただし、安易に孫に相続させてしまうと相続税や相続トラブルなど、予期せぬ問題に孫が巻き込まれてしまう可能性もあるので注意が必要です。この記事では、孫に遺産を相続させる方法やメリット・デメリット、よくあるトラブルについて分かりやすく解説します。

孫に相続させることはできる?

孫に相続させることはできる?

「可愛い孫にも自分の財産を残したい」と考えている方も多いでしょう。近年は、少子化や長寿化などにより孫との関わりが密になることや、資産を多く保有する高齢者の増加により、孫への遺産相続を検討している方も増えている傾向にあります。

しかし、孫に相続させたくても、孫は「法定相続人」ではないため、原則として、対策なしでは相続させることができません。

法定相続人とは?

民法では、被相続人(亡くなった人)の財産を相続できる人の範囲や順序が決められており、この財産を相続できる人のことを法定相続人と呼びます。

法定相続人は次のように定められています。

  • 被相続人の配偶者と被相続人の血族
  • 血族相続人は相続順位の高い人

つまり、基本的には「配偶者と血族相続人のだれか」が相続人となるのです。血族相続人には優先順位が次のように定められており、同じ順位で複数の血族相続員がいる場合は、その全員が相続員になります。

ただし、先の順位の人がいる場合は、後の順位の人は相続人にはなれないのです。

  • 第1順位…子および代襲相続人
  • 第2順位…両親などの直系尊属
  • 第3順位…兄弟姉妹および代襲相続人

例えば、被相続人に配偶者と子どもがいる場合は、配偶者と子どもが相続人となり被相続人の兄弟は相続人になれません。配偶者との間に子どもがおらず両親も亡くなっている場合には、配偶者と被相続人の兄弟姉妹が相続人となるのです。

この定めによって、基本的に孫は法定相続人にあたりません。ただし、子(孫の親)がなくなっている場合には、孫が子に代わって相続する「代襲相続人」となるため相続できます。このように、孫の親が生きている限りは、原則として孫は相続できないので注意しましょう。

孫に遺産を相続させる方法

何も対策しない場合、法定相続人ではない孫には相続権がないため何も残せません。とはいえ、かならずしも孫が相続できないわけではありません。

孫に相続させる方法としては、次のような方法があるのです。

  • 養子縁組
  • 代襲相続
  • 遺言書
  • 遺産分割協議

ただし、それぞれ孫が相続できる遺産の割合など異なるので、違いを理解したうえで最適な方法を選ぶ必要があります。それぞれ以下で詳しく見ていきましょう。

養子縁組

法定相続人の子には養子も含まれます。そのため、孫と養子縁組し「親と子」という関係になることで、孫も法定相続人の「子」と見なされ、直接孫に遺産を相続させられるのです。また、特定の孫とのみ養子縁組することで、財産を残したい孫にだけ遺産を相続させることもできます。

孫と養子縁組した場合、孫の相続割合は「子」と同じ割合になります。仮に、配偶者と子ども2人・孫1人の場合で孫と養子縁組した場合の割合は次のとおりです。

  • 配偶者:2分の1
  • 子と孫:配偶者の相続分の残りを3分の1ずつ相続(相続財産の6分の1ずつ相続)

養子縁組により、法定相続人の数を増やすことで相続税の基礎控除の額を増やすことができるため、相続税対策にもなるでしょう。ただし、法定相続人になれる養子の人数には制限があるので注意が必要です。

  • 実子がいない場合は2人まで
  • 実子がいつ場合は1人まで

相続税対策のためといって養子を増やしたとしても、制限人数以上の養子では節税効果はないので注意しましょう。

代襲相続

代襲相続とは、本来の相続人が死亡している場合、その人の子が本来の相続人に代わって相続することです。代襲相続には手続きも必要ないため、子(孫の親)が死亡している場合は自動的に孫が代襲相続人として財産を相続できます。

この場合の孫の相続分は、「子の相続分そのままの割合」です。例えば、被相続人に配偶者がおらず子が3人いた場合、それぞれの子が3分の1ずつ相続します。そのうち1人の子がなくなっている場合、その3分の1の持ち分をそのまま孫が代襲相続するのです。この場合で、亡くなった子に子ども(孫)が2人いたとすれば、孫は3分の1の財産をさらに2分の1ずつ相続するため、それぞれの孫が6分の1ずつ相続できます。

遺言書

法定相続人でない孫に相続させるには、「遺言書」が有効な手段となります。遺言者を作成することで、孫に限らず相続権のない人にも財産を残すことが可能です。遺言書であれば、自由に相続割合を決められるため、孫に多く財産を残せます。

ただし、孫に多く財産を残そうと思っても「遺留分」があるので注意が必要です。遺留分とは、法定相続人の生活を守るために最低限の相続財産を確保するための制度のことを言います。

遺言により遺留分よりも少ない相続となった相続人は、遺留分を侵害している部分の請求をすることが可能です。遺言により孫に財産を残す場合は、他の相続人の遺留分がどれくらいあるのかを把握したうえで相続割合を決めることが必要です。

遺産分割協議書

遺産分割で財産を分けることでも孫への相続ができます。遺産分割協議書とは、相続人によって相続割合を話し合って決める遺産分割協議の内容をまとめた書類です。遺産分割協議により相続人全員の合意があれば、法定相続分とは異なる割合で財産を分割できます。そのため、孫が相続する旨を相続人全員が合意することで孫も相続できるのです。

ただし、遺産分割協議は法定相続人全員の合意が必要となり、養子縁組もしくは代襲相続人でない孫は協議へ参加自体できません。また、相続が発生してから分割協議が行われるため、自分の意思が反映できるかは相続人任せとなるでしょう。確実に孫に財産を残せる方法とは言い難いため、遺言書や養子縁組を検討することをおすすめします。

生前贈与という選択肢も

孫に財産を譲る方法としては、生前贈与と言う手段もあります。生前贈与とは、生きているうちに個人から別の人に財産を贈ることです。贈る側に「渡す」、贈られる側に「もらう」という合意があることで生前贈与が成立します。生きているうちに相続時の財産を減らすことにもつながるため、相続税対策としても用いられている手段です。

生前贈与であれば、いつ・だれでも・いくらでも財産を贈れるため、生きているうちに渡したい孫に確実に財産を渡せられるでしょう。

生前贈与は贈与税が発生する

生前贈与では贈与税が課せられてしまうため、贈られた側が高額な税金に苦しむというケースもあります。生前贈与を検討している場合は、贈与税の課税方法を理解したうえで対策することが重要です。

贈与税の課税方法としては、次の2つがあります。

  • 暦年課税
  • 相続時精算課税

暦年課税

1月1日から12月31日までの1年間の贈与額に対して贈与税が課せられる制度が「暦年課税」です。暦年課税の贈与税は次の方法で計算できます。

暦年課税の贈与税=(年間の贈与額-110万円(基礎控除))×税率

年間110万円を控除できるので、贈与額を年間110万円以内に抑えることで贈与税が発生しません。年間の贈与額は「贈与者ごと」ではなく「受け取った側」での計算となる点には注意が必要です。

仮に、祖父から60万円・祖母から60万円の贈与があれば、孫は120万円贈与を受けたことになり、基礎控除後の10万円に対して贈与税が課せられるのです。年間110万円までしか贈与できず、多額の資産を渡したい場合は長期間贈与する必要があるため、早めに生前贈与を開始するとよいでしょう。

ただし、毎年100万円を10年間というように定期的に贈与していると「定期贈与」と見なされ、基礎控除が適用できなくなります。この場合、「1000万円を受け取る権利」として、契約した最初の年に1000万円に対して贈与税が課せられるのです。定期贈与と見なされないように、贈与時期や金額を毎年同じにしない、毎年贈与契約書を作成するなどの対策をする必要があります。

相続時精算課税

相続時精算課税とは、2500万円までの財産の贈与が非課税になる制度です。

相続時精算課税の贈与税=(相続財産-2500万円)×20%(税率)

この制度では、受け取った財産が2500万円になるまで贈与税が非課税となり、2500万円を超える部分に対して一律20%贈与税が課せられます。また、相続発生時には相続財産として足し戻して相続税を計算する必要があるので、注意しましょう。

仮に、1億円を贈与した場合、贈与時には7500万円に対して贈与税が課せられます。相続時には贈与した1億円を相続財産に加算したうえで相続税が計算され、すでに納めた7500万円に対する贈与税額を控除できます。

相続時精算課税制度は暦年課税との併用はできず、一度選択すれば暦年課税に戻すこともできないので注意が必要です。ただし、贈与者ごとに暦年課税と相続時精算課税を選択できるので、祖父からは暦年課税・祖母からは相続時精算課税とすることはできます。

教育資金や結婚資金として贈与すれば非課税

贈与税にはさまざまな特例があり、上手に活用することで非課税で孫に贈与できます。贈与税の非課税制度には次のようなものがあります。

  • 教育資金一括贈与:最大1500万円まで非課税
  • 結婚・子育て資金贈与:最大1000万円まで非課税(結婚資金としては300万円まで)
  • 住宅取得等資金の贈与:最大3000万円まで非課税

それぞれ贈る側や贈られる側や利用条件など適用条件が定められているので、事前に確認するようにしましょう。

生前贈与以外の方法

生前贈与以外で孫に財産を残す方法としては、「生命保険の受取人に指定する」と言う方法があります。孫を受取人にすることで、死亡時に孫はまとまったお金を受け取ることが可能です。生命保険の死亡保険金は、民法上遺産分割の対象外となるので確実に孫に渡せます。

ただし、相続税は発生するので注意しましょう。特に、孫が法定相続人でなければ生命保険の相続時非課税制度を適用できず、全額に対して相続税が課せられるので注意しましょう。生命保険の相続時非課税制度では、受取人が法定相続人である場合「500万円×法定相続人の人数」の額が非課税となりますが、相続員以外が受け取ると適用できないのです。

孫を保険金の受取人にする場合、相続人であるかを確認したうえで指定するようにしましょう。

孫に遺産を相続させるメリットとデメリット

可愛い孫に遺産を相続させたい気持ちは分かりますが、孫が相続した場合、孫にはメリットだけでなくデメリットもあるものです。

メリット・デメリットを理解したうえで孫への相続を検討しなければなりません。ここでは、孫に相続させるメリット・デメリットを見てみましょう。

メリット

メリットとしては、次のようなことが挙げられます。

  • 孫に財産を残せる
  • 相続税を抑えられる

孫に相続させる大きなメリットは、本来相続できない孫に対して財産を直接譲れる点です。「孫の学費のために」といった祖父母の希望通りに孫に財産を残せるでしょう。

本来、孫が財産を受け取るまでには「祖父母から親」「親から孫」の2回の相続が必要となり、その都度相続税が発生します。
「祖父母から孫」と直接相続することで、1回分の相続税を抑えることができ、相続全体でみた場合の相続税を抑えることにつながるでしょう。

デメリット

孫に相続させた場合、孫にとってデメリットになる可能性があるので、慎重に検討しなければなりません。デメリットとしては、次のようなことがあります。

  • 相続トラブルに発展する可能性がある
  • 相続税が加算される

もっとも心配な点が相続トラブルです。
本来相続人でない孫が相続することで、他の相続人の相続分が減少します。特に、孫に対して全額や多くの財産を相続させるようにすると、他の相続人の遺留分まで侵害し、孫と他の相続人の関係が悪化するケースがあるのです。

孫が相続した場合、相続税が2割加算される可能性があるので注意しましょう。相続税では、被相続人の一親等の血族・配偶者以外の人が財産を受け取った場合、相続税が2割加算されるという制度があります。代襲相続以外の孫が相続する場合この2割加算の対象となり、養子縁組した場合であっても対象です。

祖父母から直接孫に相続させることで1回分の相続税を抑えられますが、2割加算によって抑えるメリットがない可能性があります。相続させる場合には、2割加算の税額も計算したうえで検討するようにしましょう。これらのデメリットの対策は以下のトラブル解決策で詳しく解説するので、参考にしてみてください。

孫に遺産を相続させるときに起こりやすいトラブルと解決策

孫に相続させた場合によくあるトラブルとその解決策について見ていきましょう。トラブルとしては次のようなことがあります。

  • 他の相続人とのトラブル
  • 贈与税や相続税の負担

他の相続人とのトラブル

本来相続人でない孫が相続することで、他の相続人と関係が悪化するなどの相続トラブルに発展するケースがよくあります。孫の親(子)が生存している場合に、孫に直接相続させるとたとえ親子(子と孫)であっても問題となる場合もあるのです。

他の相続人とのトラブルを回避するためには、次のような点に気を付けておきましょう。

  • 遺留分の確認
  • 他の相続人の了承を得ておく

ただでさえ相続人が増えることで本来の相続分が減っているうえに、さらに取り分が減ることで他の相続人が不公平に感じてトラブルに発展しやすくなります。他の相続人の遺留分を侵害しないように、事前に遺留分を確認したうえで孫への相続分を検討するようにしましょう。

また、孫を養子にする場合などでは他の相続人の了承を得ておくことをおすすめします。相談なしに特定の孫だけを養子にしてしまうと、トラブルにつながりやすくなるでしょう。

贈与税や相続税の負担

生前贈与した場合は贈与税、相続した場合は相続税が発生します。孫の相続では贈与税の2割加算の対象です。生前贈与の場合でも、さまざまな非課税制度がありますが、それぞれ条件が細かく規定されており手続きも必要になります。

それらの税金の負担に孫が苦しまないようにしっかりと対策しておく必要があります。

  • 税金のシミュレーションや非課税制度の確認
  • 専門家への相談

贈与にせよ相続にせよ、事前に税金のシミュレーションをして最適な方法を検討することが重要です。良かれと生前贈与したのに相続税よりも高額な贈与税が課せられるというケースもあります。税金の計算と非課税制度の内容をしっかりと確認したうえで、最適な手段を取れるようにしましょう。

とはいえ、孫への相続や贈与や税金の計算や制度の利用が難しいものです。一度、弁護士や税理士と言った専門家に相談したうえで慎重に進めることをおすすめします。弁護士であれば、他の相続人とのトラブルも回避させながら孫への財産の引き継ぎを的確にサポートしてくれるでしょう。

おわりに

孫への財産の相続についてお伝えしました。本来相続人でない孫に相続させるには、遺言などの対策が必要です。しかし、孫が相続すると他の相続人とのトラブルや高額な税金の負担などで孫が苦しむ場合もあるので、慎重に検討しなければなりません。

可愛い孫に負担を掛けずに財産を残したいのであれば、一度専門家に相談して最適な方法を選択できるようにしましょう。

著者紹介

相続プラス編集部

相続に関するあらゆる情報を分かりやすくお届けするポータルサイト「相続プラス」の編集部です。相続の基礎知識を身につけた相続診断士が監修をしております。相続に悩むみなさまの不安を少しでも取り除き、明るい未来を描いていただけるように、本サイトを通じて情報配信を行っております。

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本記事の内容は、記事執筆日(2022年6月27日)時点の法令・制度等をもとに作成しております。最新の法令等につきましては、専門家へご確認をお願いいたします。万が一記事により損害が発生することがあっても、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

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